中国 十四次五か年計画国家知的財産保護と運用計画 まとめ
2021年10月28日に、知的財産版の第十四次五か年計画である、国家知的財産保護と運用計画が発表されました(中央人民政府の関連ページ http://www.gov.cn/zhengce/content/2021-10/28/content_5647274.htm)。
本計画は、中国の知財政策の方向性を理解するうえで、先日発表された「知識産権強国建設綱要」(2021年~2035年(https://note.com/shankouzhiyan76/n/n1e18246f530b で記事にしています))と同様に参考価値があると思いますので、簡単にその内容をまとめておきます。
本計画では、5年後の目標部分が以下の図で示されています。
この表では上から順番に、1.一万人あたり高価値発明専利保有量(高価値発明の定義は曖昧。重点技術分野の出願を指すとされている)、2.海外発明専利権利付与量、3.知的財産質権融資登記金額、知的財産使用料年間輸出入総額、5.専利密集型産業増加値、6.版権産業増加値、7.知的財産保護者会満足度、8.知的財産民事一審案件非常祖率、という項目について、2020年(一部2019年)の実態と、5年後の2025年における目標値が記載されています。
いくつか新語については解説も記載されており、参考になります。以下少し抜粋します。
①一万人あたり高価値発明専利保有量とは、一万人当たり本国居住者が保有する国家知識産権局が権利付与する以下のいずれかに該当する発明専利数量:1.戦略的産業の発明専利、2.海外にファミリー専利権を有する発明専利、3.維持期間が10年を超える発明専利、4.比較的高い質権融資金額を実現した発明専利、5.国家科学技術賞、中国専利賞を受賞した発明専利としています。
②知的財産質権融資登記金額とは、国家知識産権局に登記された知的財産質権融資金額をいう。
③専利密集型産業については、当該産業を育成し、専利密集型製品認定業務の発展を模索し、地方が専利密集型産業の育成目録を制定することを指導し、専利密集型産業増加値の計算と発表メカニズムを健全にし、、などとあるので、ある程度地域ごとに自由に密集型産業を定義できるようです。ただ、増加値についての具体的な計算式などは説明されていません。
さて、この表からは、(1)出願件数は目標とせず、高品質専利の保有量を重視する、(2)知財を数値化してGDPとの比較を試みる、ことが伺えます。少し意外なのは、ライセンス輸出入額が10%の変化に留まることで、これは、金額を上昇させるよりも、その内訳を変える(輸入偏重から輸出偏重へ)のか実際の目標なのかもしれません。また、知的財産保護満足度が微増に留まることは、保護強化、懲罰化を推進しつつも、模倣品対策の現状は、5年後もそれほど変わらないことを意味するのかもしれません。最後の非上訴率は新たに数値化された目標のようです。増え続ける知財訴訟の効率化が課題のようです。
続いて、本計画では、15の専門項目を掲げています。個人的に重要だと思ったのは、(1)法律体系の完善化(地理表示、営業秘密分野の立法、集積回路図設計法規、植物新品種保護条例改正、漢方薬伝統知財保護条例制定)、(2)データ知財保護(分級、分類されたデータ知財保護モデルの構築、業界規範の確立、データ生産、流通、利用、共有過程における知財保護)、(3)人工知能、量子情報、集積回路、OS、生命と健康、脳科学、生物育種、航空宇宙、深海探査分野の自主知的財産創造と蓄積、品質管理、専利資金援助奨励、あたりです。
他のキーワード、例えば高品質化、高効率化、成果転化、公共サービス情報化、一帯一路、国際協力、海外知財紛争対応指導体系強化、人材育成、については、従来からよく見かける文言です。ちょっと変わったところでは、これまであまり見た記憶のない、中小企業知的財産戦略推進、地域振興、といった言葉もあります。これらは「共同富裕」を意識してのものでしょうか。
こうしてみると、中国現段階で、専利法、商標法、著作権法といった大きな法律の改正が終わったので、次の5年間では、(1)特に営業秘密を重点とした不競法、植物品種や集積回路といった知財関連法の整備、(2)データ関連の法律保護整備、(3)重点分野への資金投入、を新たな指標を用いて達成していく、ということかと思います。
営業秘密を重視するようになったあたり、中国企業にとっても営業秘密こそが価値創造の源泉であり、その保護が重要な課題になっていることを示しているように思います。このあたりは、時間があれば、やはり10月に発表された、不競法独禁法の典型案例を紹介しながら、もう少し探ってみたいと思います。