中国知財判例 特許許諾に関する行為に独占禁止法の「市場支配的地位の濫用」が認定された判例
概要:2021年4月23日、浙江省寧波市中級人民法院は、日本企業の特許許諾に関連する行為が、中国の独占禁止法の「市場支配的地位の濫用」に該当するという判決を下し、被告に当該行為の停止と当該行為により生じた経済損失を賠償(490万元)するよう命じました。本件は特許許諾について独禁法が適用された非常に珍しいケースです。案例番号は(2014)浙(俑のにんべんなし)知初字第579号、7年に渡る訴訟の一審結果です。
事件の経緯としては、原告(寧波科田磁業有限公司)が特許の許諾を申し入れ、被告(日立金属株式会社)は特許許諾するつもりがないと回答し、その後原告からの訴訟に発展します。
原告は、特許許諾の拒否が、独禁法の一類型である市場支配的地位の濫用にあたるとして、人民法院へ提訴しました。そして、
関連市場:焼結ネオジム必須特許の許諾市場
支配的地位:被告は特許許諾市場で唯一の許諾者として市場シェア100%
地位の濫用:許諾の申し入れに応じないことは、「取引の拒絶」に該当する
と主張しました。
被告側からは、
関連市場:特許許諾市場を一つの関連市場として定義するのは妥当ではない。製品市場を考慮すべき。
市場支配的地位:適切な製品市場を定義すると、被告のシェアは低い
地位の濫用:原告は訴訟も提起しており、商業道徳に反するので、交渉することができず、実質的な交渉をしていないため、取引の拒絶もしていない。
との主張がなされました。
寧波市中級人民法院は、専門家報告書も参考に、
関連市場:第一、二類を含む特許パッケージ形式で存在する焼結ネオジム必須特許の特許許諾関連市場
市場支配的地位:被告は関係必須特許のライセンス市場の供給者として完全な市場シェアを有する。被告は他の経営者による焼結ネオジム特許ライセンス市場への参与を阻害・影響する能力を有する。
地位の濫用:被告は合理的な期間内に許諾意見を出さず、具体的な価格も出さず、明らかに該意思表示は拒絶となる。
と認定しました。
本件は、特許許諾市場が、独禁法に規定される「(一つの)関連市場」と認定された、珍しい案例です。まだ一審が出たばかりで今後上訴されるのか、上訴され判断が変わるのか、引続き注目されます。