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最高人民法院による2020年中国法院10大知的財産案件 二、華為vsConversant専利権非侵害及び標準必須専利ライセンス紛争三案 判例解説

過去記事でもご紹介しました、2021年4月に発表の「2020年中国法院10大知的財産案件」では、「訴訟差止命令」、具体的には、他国の訴訟結果等について、中国の法院が差止命令を出すという案例が2件選出されています。

そのうちの1件、二、華為vsConversant専利権非侵害及び標準必須専利ライセンス紛争三案((2019)最高法知民終732、733、734号)について、ネットを探したところ判決書の画像を貼り付けているサイトが見つかったので、判決書の内容をまとめておきます。



本案例は、以下の図に示すように、通信規格の標準必須特許のライセンスを巡って、中国の華為、Conversant社が争った事件です。先に中国で標準必須特許の非侵害確認及びライセンス料率を含むライセンス条件の確定を求めて、華為が訴訟を提起します。その訴訟の二審(最高人民法院)中に、Conversantがドイツで提訴した関連標準必須特許の侵害訴訟において、デュッセルドルフの地方裁判所が侵害差止めを認める判決を下したのですが、判決当日に華為が中国の最高人民法院へ、その判決の執行停止を求め、翌日、最高人民法院はその請求を認める裁定を下しました。中国で「訴訟差止命令」を認めた事例の一つとして、本案は注目を集めています。

華為Conversant1

2.裁定の内容

最高人民法院は裁定書の中で、域外判決の執行を禁止するよう申請について、以下の5点を検討するとしました。
1.被申請人による域外法院の判決執行申請が、中国の訴訟に与える影響
2.行為保全措置を採ることが、確かに必要であるか
3.行為保全措置を採らないことで申請人に与える損害が、行為保全措置を採ることで被申請人に与える損害を超えるか
4.行為保全措置を採ることが、公共の利益を害するか
5.行為保全措置を採ることが、国際礼譲の原則等の様子の適合するか

そしてそれぞれ、以下のように判断しました。

1.被申請人による域外法院の判決執行申請が、中国の訴訟に与える影響

・本案の審理と裁判執行に実質的な影響を与えるか審査すべき
・本案において
 (1)主体:2つの訴訟の訴訟主体は基本的に同一である
 (2)審理対象: 審理対象が部分的に重なる
 (3)行為の効果: 執行されると本三案の審理に干渉し、審理、判決の意義が失われる
よって、実質的に消極的な影響を与える。

行為保全措置を採らないと、申請人の合法的権益に補填し難い損害、又は、案件の裁決が執行牛難い等の損害を与えるかどうかを重要視しなければならない。
2.行為保全措置を採ることが、確かに必要であるか
・本案では、執行されると、このような緊急の状況では、華為とそのドイツ関連会社は,
ドイツ市場がから撤退を迫られるか、支払を受け入れ和解するかの2種類の選択しかない。前者のケースではドイツ市場撤退により受ける市場損失とビジネスチャンスの喪失は、事後に金銭で補填するのが難しい。後者のケースでは、侵害差止め判決の圧力を受けて、原審法院が確定したライセンス料率の18.3倍の支払いを受け入れざるを得ず、本三案において法律救済を得る機会の放棄を迫られる。

3.行為保全措置を採らないことで申請人に与える損害が、行為保全措置を採ることで被申請人に与える損害を超えるか

本三案では、保全措置を採ることで被申請人が受ける損害は、せいぜい暫くの間執行が猶予されるだけであり、該猶予はドイツ国内のその他の訴訟権益に影響しない。また、標準必須専利権者のドイツ訴訟の核心的利益は経済賠償を得ることであり、執行を猶予されることにより与える損害は限られる。
4.行為保全措置を採ることが、公共の利益を害するか
本三案及びドイツの訴訟は主に当事者の利益に関し、また、行為保全の対象はデュッセルドルフの侵害差止めの判決の執行であり、公共の利益に影響しない。
5.行為保全措置を採ることが、国際礼譲の原則等の様子の適合するか
・国際礼譲のの要素を考慮する際、案件受理時間の先後、案件管轄が適当かどうか、域外法院の審理と裁判への影響が適切か等を考慮することができる。
・受理時間は本三案の時間は2018年1月で、ドイツ訴訟の時間は2018年4月であり、本三案受理が先である。
・執行禁止に関する判決は、ドイツ訴訟の後続審理の推進に影響せず、ドイツ判決の法律効力を減じるものではなく、暫く判決執行を遅らせるだけであり、ドイツ法院の案件審理及び裁判への影響はなお適度な範囲内にある。

というわけで、最高人民法院は上記5つを検討したうえで、本三案の終審判決前に、ドイツの判決執行を申請することができないと裁決しました。また、本裁定に違反すると、毎日罰金100万人民元を科すことも裁決しました。
同じ年の10大知的財産案例No.6のOPPO事件でも、同様に「守らなかったら一日100万元の罰金」としていますが、こんなことが本当に実行されたら、とても正常にビジネスをすることはできないように思えます。同様の訴訟の国際的な動向に注目です。
http://www.h2l.cn/news/202009/newsif_2885.html



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