中国「知識産権強国建設綱要」(2021年~2035年)まとめ

2021年9月22日付けで、中共中央、国務院が「知識産権強国建設綱要」(2021年~2035年)を発表しました。本綱要には中国の知財に対する長期的な戦略が記載されており、今後の中国知財の動向を理解するうえで、興味深い資料だと思います。

http://politics.people.com.cn/n1/2021/0922/c1001-32233543.html

指導思想、のようなところは割愛して、
発展目標は、2025年までと2035年まで、の二部構成になっています。
 2025年までに、知的財産強国建設において明らかな結果を出し、知的財産の保護を更に厳格化し、社会満足度が高水準に到達・維持され、知的財産の市場価値が一層強調され、ブランド競争力が大幅に向上し、専利密集型産業増加値はGDPの13%を占め、版権産業増加値はGDPの7.5%を占め、知的財産使用料の年間輸出入総額は3,500億元に達し、一万人あたりの発明専利数は 12 件に達する。
 2035年までに、我が国の総合的な知的財産競争力は世界最高レベルに達し、知的財産制度が完成し、知的財産がイノベーションと起業家精神の活発な発展を促進し、社会全体の知的財産文化意識を向上させる。

そして、この発展目標に続いて、社会主義現代化向けの知的財産制度の建設、国際一流のビジネス環境をサポートする知的財産保護体系の建設、イノベーション発展を激励する知的財産市場運用メカニズムの建設、人民に便利な知的財産権公共サービス体系の建設、知的財産高品質発展を促進する人文社会環境の建設、グローバル知的財産ガバナンスへの深い参与、組織保障の項目ごとに、政策の方向性を示しています。

個別の内容で具体性をもって記載されている箇所を三点まとめると、①意匠法、地理表示の独立法制定、②新分野新業態での知財保護制度の確立、③知的財産審理規律に適合する特別プロセス法律制度の確立、があるように思います。

以下、いくつか具体的な記載を翻訳しておきます。なお番号は原文の番号をそのまま記載しているので、あちこち飛んでいます。


三.(四)社会主義現代化に向けた知的財産制度の建設:地理表示と意匠の専門法律法規の制定を模索する。

→部分意匠等の導入により一層特許・実案と差異が際立ってきたので、日本のように独立した意匠法が出来るのは自然な流れですね。地理表示は私自身あまり勉強していませんが、原文では商標保護との相互協調、統一された保護制度、、、との記載があり、地理ブランドの盗用が目立つ現状で、しっかりとした制度設計を期待したいところです。

集積回路設計法規を完善なものにする、商業秘密保護を強化する改正をする、知的財産濫用行為を規制する法律制度を完善なものにする、、、、

ビッグデータ、人工知能、遺伝子技術等新分野新業態知的財産権立法を加速する

→大変興味深いです。不完全であっても立法機関や裁判所が新しいものに対する考え方を示してくれると実務で大変助かります。このスピード感は見習いたいものです。さらに同様の流れだと思いますが、以下のような記載もあります。

(七)新技術、新産業、新業態、新モデルの知的財産保護規則を確立する。~データ知的財産保護規則の構築を研究する。オープンソース知的財産及び法律体系を完善なものとする。アルゴリズム、ビジネス方法、人工知能産出物知的財産保護規則を研究する。

このような記載に加え、上述したように「知的財産審理規律に適合する特別プロセス法律制度の確立」との記載があります。同僚弁護士の話では、中国は知財紛争解決メカニズムを整備することにより、「グローバルの知財紛争の解決は中国で!」という地位を目指している、とのことでした。

中国は昨年2020年には、「訴訟差止命令」(他国の訴訟結果等について、中国の法院が差止命令を出すこと)によって、他国の知財訴訟にも強烈な存在感を示しています。巨大市場を背景として今の勢いが続けば「紛争解決地は中国で!」も現実味を帯びてくるかもしれません。今後も中国知財の一挙一動に目を離せません。







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