中国専利審査指南の改正草案(再度意見募集)が発表されました。その2
前回記事では、2022年10月末に発表された審査指南の改正意見募集稿について、同日に発表された「改正の説明」に基づいて、48項目の改正点を列挙しつつ、ある程度改正内容を日本語訳して説明しました。
一方、いくつかの新制度に関しては、改正の修正履歴が一章まるごとに及ぶなど、他の細かい修正とひとまとめにして紹介するのが難しかったため、今回は、「その2」としてこの修正履歴が長い箇所についてまとめます。
先に結論を書くと、読み込みには相当時間を使った割には、、、読み手として「これは!」という記載には巡り会えませんでした。労力をかけた割に達成感がなく残念ですが、折角まとめたので、メモ代わりに以下公開します。
修正履歴が長い、
(二十九)第三章第9節を追加 薬品専利紛争早期解決メカニズム
(四十四)第九章第二節 専利登録期限補償
(四十七)第十章 専利権評価報告
(四十八)第十一章(専利開放許諾)
について、以下、まとめます。
(二十九)第四部分 第三章 第9節 薬品専利紛争早期解決メカニズム
まずこちら、第9節のタイトルは、「薬品専利紛争早期解決メカニズムの無効審判請求案件の審査に関する特殊規定」となっており、2021年8月の意見募集稿にもなかった、新たな節となっています。
この節では、薬品上市許可申請人(ジェネリック薬申請人)が無効審判請求人として、中国上市薬品専利情報登記プラットフォーム上に登記された、専利権に対して無効審判を請求する案件に関します。手続に関する事項なので、以下、全訳してしまいます。
9.1 請求書及び証明文書 ジェネリック薬申請人は「薬品専利紛争早期解決メカニズム実施弁法(試行)」の関連規定に基づき第四類声明を提出した後無効審判を請求する場合、請求書に、案件が薬品専利紛争早期解決メカニズムに関する状況、即ち、係争専利が中国上市薬品専利情報登記プラットフォームに登記された専利権であり、請求人は対応する薬品のジェネリック薬申請人であり、且つ、既に第四類声明が提出されたことを明確に表示しなければならず、さらに、ジェネリック訳登録申請受理通知書及び第四類声明文書のコピー等関連証明文書を添付しなければならない。
ジェネリック薬申請人が無効審判請求後に「薬品専利紛争早期解決メカニズム実施弁法(試行)」の関連規定に基づき、第四類声明を提出する場合、適時に、該無効審判請求案件が薬品専利紛争早期解決メカニズムに関することを表す関連証拠を提出しなければならず、口頭審理を行う案件では、遅くとも口頭審理弁論終結前に提出し、口頭審理を行わない案件では、遅くとも無効審決が出される前に提出する。
請求人が規定期限内に証拠を提供してその提出した無効審判請求が薬品専利紛争早期解決メカニズムに関することを表明しない場合、本節の規定を適用しない。
9.2 審査順序 同一専利権に対する複数の薬品専利紛争早期メカニズムの無効審判請求は、無効審判請求提出の日の先後により順序付けられる。
9.3 審査基礎 先にされた審決が、専利権者が提出した補正文書を基礎として専利権有効維持されると、後に受理された無効審判請求については、上記補正文書を基礎として継続審理することができる。
9.4 審査状態及び結審の通知 人民法院又は国務院薬品監督管理部門の請求に応じて、合議体はそれらへ無効審判請求案件審査状態通知書を発することができる。無効審判請求審理開始の前に関係する人民法院又は国務院薬品監督管理部門へ通知していた場合、合議体は審決及び無効審判審理結審通知書を上記関連部門へ送達しなければならない。
(四十四)第九章第二節 専利登録期限補償
続いて、専利法第四次改正で新たに導入された専利登録期限補償です。
第2.2節冒頭: 2021年8月稿では、特実同日出願において、実案出願が専利権を付与された場合、発明専利権の登録期限は保障されない。再度意見募集稿では、実案出願が専利権を付与された後、発明専利権が付与された場合、該発明専利登録期限には専利法第四十二条第二項の規定が適用されない。
2.2 保障期限の確定では、少し文言が追加されてますが、実質的な差異はなし。
2.2.1 権利付与プロセスにおける不合理な遅延時間では、国際出願及び分割については、国際出願及び分割出願について文言が変更されていますが、実質的な変更はなし。
実体審査請求の日は、2021年8月稿では、実体審査段階進入通知書の発送日となっていましたが、今回の意見募集稿では、実体審査請求を提出して、実施細則113条により発明専利出願実体審査費用が支払われた日とされています。また、発明専利出願の実体審査請求の日が専利法第34条にいう公開の日より早い場合、専利法第42条第2項にいう実体審査請求の日から満三年、は、該公開の日から計算する、としています。
少し飛んで、薬品専利の期限補償に関しては、2021年8月稿からの変更があり、まずタイトルが、3.3 (提出する)請求書と証明資料から、3.3 (提出する)証明資料 へと変更され、次にその内容において、
「(3)製造方法専利について期限補償を行う場合、国務院薬品監督管理部門が承認した薬品生産工程資料を提出しなければならない」から「(2)薬品専利期限補償期間の確定に用いられる専利保護範囲の関連技術資料、例えば、製造方法専利について期限補償を行う場合、国務院薬品監督管理部門が承認した薬品生産工程資料」となっており、製造方法に限らず資料を提出することになっています。
3.5 (新薬関連技術案が指定された専利権の)保護範囲に入るかどうかの審査では、今回の意見募集稿の中で、補償期間内において保護範囲は適応症関連技術案に限られる、と記載した後に、「保護範囲内において、専利権者が享有する権利及び負う義務は、専利権期限補償前と同じである」という記載が追加されています。
3.6 保障期限の確定は、表現が少し変わっているものの実質的な意味は同じと思われます。
(四十七)第十章 専利権評価報告
まず第十章の前言部分では、「実用新案又は意匠専利権の譲渡、質権登記及び専利実施許諾契約を登記する場合、必要なとき、国家知識産権局は専利権評価報告を提出することを要求できる」との文言が追加されています。
また、今回の「改正の説明」によれば「専利権評価報告を出すよう請求するとき、被疑侵害者が提出しなければならない証明文書タイプを規定し、また、専利権者が発した弁護士レター、ECプラットフォームのクレーム通知書等を受け取った単位又は個人も、被疑侵害者に該当することを規定し、それが提出すべき証明文書タイプを規定した。」と説明されていましたが、実際に比較してみると、2021年8月稿と比べ、「潜在的な被疑侵害者」という表現を削除しつつ、被疑侵害者であることを証明する証明文書の具体例が広く示されています。
こちらは、実施細則の意見募集稿と記載が合致していなかったので、今回再度意見募集の中で表現を揃えたものと思われます。
具体的には、2.2 専利権評価報告請求書では、2021年8月稿の「(3)請求人が、潜在的な被疑侵害者である場合、弁護士レター等証明文書を提出しなければならない」から、「(3)請求人が被疑侵害者である場合、専利権評価報告請求の提出と同時に、例えば、人民法院が出した立案類通知書又はそのコピー、専利行政執法部門が出した立案類通知書又はそのコピー、調解仲裁機構が出した立案類文書またはそのコピー等、関連証明文書を提出しなければならない。 専利権者が発した弁護士レター、ECプラットフォームのクレーム通知書等を受け取った单位又は個人は、被疑侵害者に該当し、専利権評価報告請求を提出するのと同時に、例えば専利権者が発した弁護士レター又はそのコピー、ECプラットフォームのクレーム通知書又はそのコピー等、関連証明文書を提出しなければならない。」と記載しています。
クレームを受け取った単位も被疑侵害者になる、とすることで、従来の「潜在的な被疑侵害者」を取り込んだものと思われます。
(四十八)第十一章(専利開放許諾)
「実施細則に基づいて本章を規定した」との文言追加し、複数個所で、「実施細則~条により~」との文言を追加。
「明らかに不合理な許諾使用料基準について、専利局は当事者より関連証明文書を提供するよう要求する権利を有する」を削除。
国家知識産権局の事務処理の記載追加(コピーを査閲して、や、又は郵送で、等々)
3.1 専利開放許諾声明の客体:
「以下の状況で提出された専利開放許諾声明は、公告しない」を、「以下の状況に該当する場合、専利権者はそれについて開放許諾を実行することができない」とし、また、その状況の一つとして、「(1)専利権が独占又は排他許諾期限内にあり、且つ、許諾契約が既に登記されている場合」を「専利権が独占又は排他許諾期限内にある場合」へと変更。「(9)その他公告しない状況」を「(9)その他専利権有効実施を妨げる状況」へと変更。
3.3 専利開放許諾声明 請求人は規定されたフォーマットで専利開放許諾声明及びその他提供が必要な資料を提出しなければならない、専利開放許諾声明には以下の時効を明記しなければならない、の中で、
(6)専利権者が開放許諾声明条件に適合することについての承諾 を追加。
3.3 専利開放許諾声明 同節では更に、以下の記載も追加されています。
専利権者は、許諾使用料計算根拠及び方式の簡単な説明を提出しなければならず、一般に2000字を超えない。専利許諾使用料は、該簡単な説明を根拠としなければならず、固定費用基準支払による場合、一般に2000万元より高くない。2000万元より高い場合、専利権者は、専利法第50条に規定される開放許諾以外のその他方式を利用して、許諾を行うことができる。ロイヤルティ支払いによる場合、純売上高ロイヤルティは20%より高くなく、利益額ロイヤルティは一般に40%より高くない。
3.4 公告する及び公告しない において、「(3)専利権者が虚偽資料を提出し、事実を隠蔽する等手段で開放許諾声明を出す場合、国家知識産権局が発見した場合、取り消さなければならない」を追加。
4. 専利開放許諾声明の撤回 において、「共有者が共有専利権について開放許諾声明を撤回する場合、共有者全体の書面同意を取得しなければならない」を追加(ただ、後半部分に全体の専利権者がサイン又は押印した開放許諾声明撤回の証明資料を~とあるので、単に文言を分かりやすくしただけと思われる。)。
「開放許諾声明が公告され撤回される場合、先に与えた開放許諾の効力に影響しない」を削除。(後半の、被許諾者に通知する~も削除されていることから、被許諾者に対する処理を省略して、簡素化したものと思われる)
専利傾斜が撤回しなければならないのに適時に開放許諾声明を撤回しない場合、国家知識産権局は、該専利開放許諾声明を終了または取消し、公告する、を追加。
4.2 専利局による公告の撤回 専利局は、既に公告された開放許諾声明が関連規定に適合しないことを発見した場合、適時に公告を撤回し、同時に専利権者及び登記された被許諾者に通知しなければならない。」等を削除し、「専利権者が撤回すべきであるが適時に専利開放許諾声明を撤回しない場合、国家知識産権局は該専利開放許諾声明を終了または取下げ、公告を行う」を追加。
8 開放許諾実施期間費用減免手続きの処理 年金減免について若干の表現の変更。変更後は、「専利権者は専利開放許諾実施機関において、規定により登記の日から期限に至らない間の専利年金の減免を享有することができる。専利権者が開放許諾声明を撤回する場合、次の専利年度から二度と開放許諾で得られる専利年金減免を享有しない」と記載。
9. 既に実行された開放許諾の専利についての関連手続処理
既に実行された開放許諾の専利について、以下の手続をする前にまず開放許諾声明を撤回しなければならない:「(2)専利権譲渡以外に、専利権者がその他事由により変更が発生し、且つ、継続して開放許諾を実行する場合、適時に元開放許諾声明の撤回及び新しい声明の関連手続をしなければならない。専利権者変更後、再度開放許諾を実行しない場合、適時に元開放許諾声明を撤回する手続をしなければならない」を追加。
「専利局は権利帰属紛争の当事者の請求に基づき又は人民法院が関係するプロセスの中止を要求する場合、開放許諾声明の撤回を一時停止する」を削除。