中国知財 発明者の認定における「実質的特徴」の判断
日中の気温が30度前後と、ようやく暑さが落ち着いてきた北京です。
経済の調子について、明るいニュースがないままですが、スシローがようやく北京に出店したとかで、そこは長い行列になっているようです。
8月27日ー29日の3日間でサリバン米大統領補佐官が中国の外相を訪ねて北京に来ていますが、公共の場で武警が立って衆人監視をしていません。外相レベルの要人なので、警備のレベルがそこまで高くないのかもしれません。
こちらでは、外国企業の中国ビジネス展開を歓迎するため、色々通達が出ているようです。法曹界にも、外国企業をきちんと国内企業と同様に扱うよう指導が来ているそうで、じゃあ、平時はどんな指導が出ていたのかなー、と想像してしまいます。ま、ホームとアウェー、というようなことかと理解しています。
さて、手隙の時間に、知財判例ニュースを読んでいたところ、発明者が専利出願の発明者欄に記載されていないことを不服として、専利出願した企業に署名権に基づいて書士事項の変更を求めて提訴した事件の二審最高裁判決((2023)最高法知民终2911、2912号)が出ていたので、要点だけ翻訳してみることにしました。
一審でも署名権が認められた後の二審における最高人民法院んの判断を抜粋します:
本案二審における争点は、郭某が係争専利技術案の実質的特徴に対して創造的貢献をしたかどうか、および彼が係争専利の発明者であるかどうかである。
まず、発明者署名権紛争に関する「発明創造の実質的特徴」は、専利登録確認段階の進歩性審査におんける実質的特徴とは当然に均等ではない。
専利法実施細則第13条に規定する発明創造した発明者の身分の確定は、主に、特定の自然人が、専利(或いは専利出願)の技術案の発明創造活動に実質的に関与したかどうかについて判断し、それには、発明創造の具体的な方法と程度、身分、職責、対応する実質的な技術的貢献が行われたかどうかなどが含まれる。法律により発明者の身分を確定し、発明者の署名権を保護することは、発明者の創造的な労働を充分に尊重し肯定することであり、同時に科学研究者の革新的創造力をさらに刺激するのに役立つ。また、発明者が法律に従って奨励、報酬という合法的権利を主張および受け取ることにも役立ち、技術革新を効果的に促進および保護する。
一般に、専利技術案の進歩性に実質的貢献をした者は当然発明者であるが、発明者は、専利技術案の引例と相違する技術的特徴について実質的貢献をした者に限定されるとは言えない。
技術課題の発見及び発明の概念の提案が研究開発活動において鍵となる作用を果たしており、これに対し創造的な貢献をした者は、一般に、発明創造の発明者として列挙されると主張することができる。
ここまでが判決文に記載された割と一般的な考え方で、日本の特許法の共有発明のところで出てくる、「発明の着想、具体化」に割と近い考え方かと思います。
以下は、本案における具体的な当てはめです。
本案において、2020年2月3日と2月6日の郭某と周某峰の間のWeChat記録と、周某峰が郭某に送った「テキスト」によると、二人は新型コロナウイルス流行の初期段階で、関連問題と規律に鋭く気づき、関連する研究開発を開始し、2020年2月初旬には、エンザルタミド (AR 抗固化剤でもある) が、アンドロゲン経路を阻害するして新型コロナウイルス感染を抑制し、新型コロナウイルスにより引き起こされる重症化を制御するという関係する発明の概念が提案されていた。その後、郭某は2020年2月8日に、周某峰が学生を指導して完成させた「臨床研究」を某甲公司の法定代表人童某之に発送した。
また、係争専利は既知化合物の新たな医薬用途発明に該当し、既知化合物に基づいて、新たな医薬用途を発見してなされた発明である。
さらに、係争専利の実質的特徴には、某甲公司が主張する、新型コロナウイルス変異株によって引き起こされる疾患の治療だけでなく、新型コロナウイルス感染症の治療におけるプロキサルタミドの用途も含まれる。
最後に、前述の関連認定に加えて、郭某と周某は、係争専利技術のその他の関連研究開発活動にも実質的に参加している。
以上をまとめると、郭某と周某峰は、深い知識と鋭い洞察力によって、新型コロナウイルス感染症の流行初期にプロキサルタミドが~の治療に使用できることを発見、提案し、その発見と科学的研究結果は、某甲公司と共有され、 係争専利技術案の研究開発に参加し、実質的貢献をした。
ここまでが本案の当てはめで、判決文ではその後、
専利出願において、権利者は誠実信用の原則を遵守しなければならない。…と上訴人(原審被告)を諭すような記載が続いていて興味深いのですが、省略致します。
本事件はコロナウイルスに対する医薬用途発明の話でした。、、、そういえば、先週、知り合いの中医のお医者さんが、北京でコロナの症状っぽい患者が爆発的に増えている、とこぼしていました。中国ではゼロコロナ政策の完成により、現在コロナウイルスに関する一切の情報は流通していません。医者もカルテにコロナウイルスとは書かないそうで、まあ、なんというか、自己防衛しかないですね。地下鉄では、最盛期と比べると大分減りましたが、マスクをして用心している人はいます。