不変的破片
ちょっと前の話だが、高校で同じ部活だった友達から急にアコースティックギターで弾き語りをする動画が送られてきた。
細かく言えば、引き語りしている本人ではなくそれを撮影していた友達から送られてきた。
ギターも歌も特別上手いわけではないのだが、その映像を見てカッコ良いと思った。
以前にも書いたことがあると思うが、高校で軽音部に入ろうと考えていたくらい昔から楽器が演奏できる人への憧れが強かった。
ちょうど世代だったシンガーソングライターのYUIが好きということもあり、弾き語りへの憧れも強かった。
映像を見た後に、引き語りをしていた本人に電話をして世間話や恋バナをした後、弾き語りの話をした。
そこでも話は盛り上がり、オリジナルの曲を作ってみようという話になった。
音楽的センスは皆無のため、僕が作詞・友達が作曲・歌を担当ということになった。
数日後、僕は近くのカフェに行き、ノートを開いて作詞を始めた。
何となく一度作詞をやってみたいという気持ちがあったため、かなり前向きに取り掛かった。
ちょうど7月でこれから夏本番という時期だったので、夏ソングを作ることにした。
そして、完成した歌詞の1番を紹介しよう。
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曲名:「夏のカケラ」
イメージと違う夏が今年も訪れた
爽やかさの欠片もない灼熱さ
全ての気力を削ぐ 君への想いを除いて
サブリミナルなその瞳
僕の“好き”という気持ちをさらに熱くする
今年の夏を知らしめる風物詩
そのどれもが僕を暑くさせる
ただそのどれよりも 君への愛の塊が
僕に夏を感じさせる
二人で集めていこう 思い出のカケラ
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解説と弁明を同時並行で進めていこう。
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イメージと違う夏が今年も訪れた
爽やかさの欠片もない灼熱さ
全ての気力を削ぐ 君への想いを除いて
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まずこの部分であるが、僕は夏が来る前に代表的な夏の歌を聴いて、ワクワクするのが好きである。
しかし、実際に訪れるのは歌みたいな爽やかなものではなく、なにもやる気が起きなくなるような絶望的な暑さである。
訪れる前に期待していたイメージに裏切られた身体的感覚と、その身体的感覚から来る気力が削がれる精神的感覚をさらに裏切る恋を表現している。
作者の勝手な夏のイメージを複雑かつ気持ち悪い感じで表現しているのである。
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サブリミナルなその瞳
僕の“好き”という気持ちをさらに熱くする
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“サブリミナル”とは識閾下刺激という意識されなかったり刺激を感じないような、人間が知覚可能な最低レベルの刺激強度以下の強さで提示される刺激のことを指す。
“サブリミナル効果”という心理学用語があり、1957年にアメリカで映画の上映中に「コカ・コーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」というメッセージの書かれた映像を人間が認知できないほど短い時間で5分毎に映画に差し込んだところ、その後コーラとポップコーンの売上が伸びたとされる実験から生まれた現象を“サブリミナル効果“という。
つまり、君の瞳を見ていると潜在的に“好き”という感情が僕には刷り込まれてしまうんだという訳の分からない情景を含め、余計な横文字を用いてカッコつけて表現している。
「熱くする」というのを夏にかけているところも、まったくもって不毛である。
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今年の夏を知らしめる風物詩
そのどれもが僕を暑くさせる
ただそのどれよりも 君への愛の塊が
僕に夏を感じさせる
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夏の風物詩と言えるセミの声や風鈴の音について、夏には風情は感じられず結局暑いという感情しか生まれないというこれも作者の主観に過ぎない。
ただそれらよりも、君への愛の方が熱を帯びており、「熱い」→「暑い」→「夏を感じる」と三段無駄活用により表現している。
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二人で集めていこう 思い出のカケラ
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片思いソングかと思いきや、実はお惚気ソングに豹変である。
最初に浮かんだ「思い出のカケラ」という表現を使いたかったがために、無理やり「二人」で集めに行く展開にしたため、全体像がぐちゃぐちゃになっている。
1フレーズ前の「愛の塊」と「思い出のカケラ」にて、「塊」と「欠片」という対になる言葉を使えばオシャレになると勝手に思い無理やり感が否めない。
これが僕の人生で初めての作詞曲である。
とりあえず友人に見てもらい、作曲の具合で続きの作詞をしようと思い送った。
が、未だにこのことについて、友人から一切返事がない。
というか、このことに一切触れぬまま、まったく別のアイドルのやり取りをしている。
どうやら僕には作詞の才能のカケラもないらしい。
ウインターソングでリベンジでもするか。
水瀬