ピアノ


少し間に、キーボードを購入した。


何の前触れもなく、ピアノを弾きたいという衝動に駆られ、某家電量販店に行ってその場で購入した。


部屋が広くないので、小さめのキーボードで最低限の機能の安いものを購入した。


隣人にも迷惑にならないようにイヤホンが差せるタイプのものを購入し、たまに夜中30分くらい何かの曲を練習して、飽きて止めるのを繰り返している。


練習している時は余計なことを考えずに没頭できるので、ストレス発散にはちょうど良い。




何を隠そう、僕は小学生の頃ピアノ教室に通っていた。




小学3~4年生くらいの頃に、「お姉ちゃんが通い出したから」というちびっ子の頃にありがちな何の説明にもならない理由で習い始めた。


毎週木曜日に、家から歩いて5分くらいのピアノ教室に通っていた。



最初は僕と僕のお姉ちゃんとお姉ちゃんの友達の3人で通っていた。


特に僕自体はそのお姉ちゃんの友達と仲が良かったわけでは無いので、何もしゃべることもなく黙って後ろからついていくだけだった。



そのピアノ教室というのは、いわゆる想像通りのピアノ教室というわけでは無く、田舎でありがちな普通の一軒家の中で開かれているそんなものだった。


3人でそのピアノ教室が行われているその一軒家まで行って、まるで泥棒かの如く勝手に玄関から侵入して、奥のピアノが置かれている部屋で待っていた。



特にピアノが好きだから始めたということではないので、難しくて楽しくもないし、次のレッスンまでにしてこなければいけない宿題もめんどうだし、初めは嫌々通っていた。



ただ嫌とはいえ、嫌で嫌でどうしようもないほどではなく、「めんどうだな」とちょっと頭にあるくらいだったので、何となしに続けていた。



1年くらいが過ぎた頃には、いつしかお姉ちゃんもその友達もピアノ教室には通わなくなっていて、僕一人がピアノ教室に通っていた。


お姉ちゃんは別の習い事が忙しいからとかの理由で辞め、僕もそのタイミングで辞めても良かったのだが、ピアノの先生が一気に3人も辞めたら可哀想だと思い、僕は続けていた。


あの頃の優しい純粋な少年は、今どこで何をしているのだろうか。



そして、1年くらい過ぎた頃には、レッスン内容も大きく変わっていた。



通い始めた頃は1回30分のレッスンで、先週の宿題の確認が10分・レッスンが20分という内容だった。


しかし、その30分のレッスンがいつしか、20分間フリートーク・5分宿題の確認・レッスン5分という内訳に変わっていた。



どういうきっかけがあったのかは一切覚えていないのだが、お姉ちゃんたちと通っていた頃はそんなことはなく、一人で通い始めた頃からレッスン内容が変わった。


僕の母がこっそりレッスンの講座を勝手に変更したのかというほどの激変ぶりだった。



20分のフリートークとはいえ、先生と2人で楽しく話をするというわけではなく、先生は相槌程度ですべらない話のような完全にエピソードトーク形式のものだった。


ピアノ教室に行くまでの道中で「今日はどのトークでいこうかな」と考えながらが川沿いを歩いていたのを覚えている。


5時20分になればレッスンが始まるので、トークの尺は大丈夫か考えながら話していて、ピアノ教室にあるあの丸形の時計が5時15分くらいを指しているあの景色まで鮮明に覚えている。



今思えば、いくらお笑い第8世代を担っていくであろう革命児たる僕とは言え、小学5年生時はトークの構成もばらばらでオチも弱い非常につまらないトークを繰り広げていたのだろうが、毎回笑顔でしっかり目を見て話を聞いてくれていた瀬戸先生には非常に感謝している。



そんな瀬戸ピアノ教室ラジオパーソナリティー養成コースに通っていた僕は、ほとんどピアノを練習をせずにフリートークを磨いていたわけで、ほとどピアノが弾けない状態のまま僕のピアニスト人生は幕を閉じた。



ただ、お笑いにおいて”音感”や”リズム感”というのは非常に重要なものである。



以前もどこかで書いたと思うが、声のトーンや抑揚・ツッコミの間やトークのリズム感というのは、お笑い能力を構成する重要なスキルの一つとして問われる。



小さい頃に何かしら”音楽”に触れられていたというのは、非常に良い経験だったと思う。



お笑い芸人という職業は、楽器こそ使用しないものの自分の声を通して、見てくださる方に対してメロディーを奏でているのだ。



僕は人々に感動や興奮を届けられるようなそんな演奏者になりたい。



今だけでなく、これからも希望の光も見えない真っ暗な世界で日々迷いながらも、お笑いという世界で自分の感性を表現していきたい。



これからも「水瀬秀の旋律迷宮」をよろしくお願い致します。






水瀬













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