商談カフェテリア
僕はよくカフェに訪れる。
図鑑に載るならば、「生息地:カフェ・見晴らしの良い喫煙所」と記載されるだろう。
そのくらい僕はカフェにいる。
カフェと言っても、おしゃれな女性がおしゃべりするような観葉植物に溢れているようなところではない。
基本的に僕が行くのは、みんな大好きドトールコーヒーかPRONTOというカフェである。
理由は単純で安いかつ居心地が良いからである。
オシャレなカフェはもちろん、スタバやタリーズもあまり好きではない。
オシャレなカフェは入る勇気が無いし、スタバやタリーズは仕事や勉強をしている意識高い方々が多いからである。
そんな空間でボロボロのネタ帳を広げてネタを考えたり、訳の分からないエッセイを書いたりするのは恥辱極まりない。
その点ドトールコーヒーは素晴らしい。
ぼーっと休憩している人やスマホを壊しにかかっているくらい一心不乱に音ゲーをする人や暇さを嘆き合っているおじいさん達など自由な空間で居心地が良い。
2020年4月に“改正健康増進法”が全面施行されたことにより、飲食店から喫煙席というのが激減した。
僕が大学生の頃はまだカフェ内の喫煙席が多くあり、友達とお喋りからテスト勉強・就職活動まで灰皿がパンパンになるまで何杯も注文してカフェにいた。
バイト先近くのカフェではあまりに通いすぎて店員さんと仲良くなった。
お願いしたわけではないのに、甘党の僕のためにこっそりミルク多めのカフェラテを作ってくれていた。
ある日、大学生の時にドトールでいつものように友達とたわいもない会話をしていた。
真横の席にスーツを着た2人とラフな格好をしたどちらかと言えば大人しそうな20歳くらいの男の子の3人組が座った。
座るな否やスーツの男がパソコンを取り出し、何やら説明を始めた。
男の雰囲気や人物構成からすぐに怪しいビジネス勧誘だと察した。
この怪しいビジネス勧誘はドトールコーヒーで割とよくあることで、僕もこれまで少なくとも5回以上はその現場を見てきた。
特定商取引法により、「公衆の出入りする場所以外の場所」におけるビジネスの勧誘行為が禁止されているために、怪しいビジネス勧誘はよくカフェで
行われるのである。(経験者ではありません。)
僕が怪しげな雰囲気を察したと同時に友達もそれを察し、無言でアイコンタクトを済ませて、僕たちはお互いスマホをいじるふりをして、商談のオーディエンスとなった。
パソコンに移されたパワーポイントは見えず、会話の内容が全て聞こえたわけでは無いのだが、その商談は100%怪しいビジネス勧誘だと断言できるものだった。
直接的な言葉ではないものの、“すぐに稼げる”・“良い暮らしができる”という甘い誘惑を次々とかけていた。
勧誘されている若い20歳くらいの男の子はその話にあまり乗り気ではなく、常に懐疑的な様子でその話を時折うなずきながら聞いていた。
そんな様子に屈せずスーツの男は熱を下げることなく、勧誘を続けた。
驚いくことに、そのスーツの男の隣で相手の共感をカツアゲするかの如く、ひたすらに相槌でサポートしているのが女の子だった。
街ですれ違えば、明るい元気の良さそうなOLさんかと思うほど、怪しいビジネスに参画するとは思えないような見た目だった。
人は見た目に依らないなと平安時代から語り継がれし“人間あるある”を痛感している間に、商談はクライマックスに差し掛かっていた。
一通り説明し終えると、スーツの男は「ぶっちゃけ、どうですかね?」と尋ねた。
すると、先ほどの懐疑的な態度を変えず、「どうですかねぇ。」と疑いが拭えていない様子だった。
「そうですよね!気持ちは分かります!」とスーツの男は一歩も引かずに、追加攻撃を始めた。
今度は少し切り口を変え、“夢を掴もうぜ”的な米国スタイルで勧誘を始めた。
それでも男の子の様子は変わらず、膠着状態が続いた。
スーツの男もたまらず、サポートの女性に「やらへん手はないよな?」と共感の増員要請を講じ、男の子を囲い込みにかかった。
そこから同じようなやり取りの末、男の子が渋々気味に「やります。」と言った。
その言葉に対し、少し間を取った後にスーツの男は言った。
「男!」
なんやそれ。
絶対に言うべき言葉それちゃうやろ。
今頃あの3人はどうなってんにゃろ。
水瀬
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