ギリシャ棺の秘密~読書記録455~
リシャ棺の秘密 エラリー・クイーン (著), 越前 敏弥 (翻訳), 北田 絵里子 (翻訳)
急逝した盲目の老富豪の遺言状が消えた。捜査の甲斐なく一向に見つからず、大学を卒業したてのエラリーは棺を掘り返すことを主張する。だがそこから出たのは第二の死体で……。二転三転する事件の真相とは!
国名シリーズとしては第4作だが、作中の時系列としては最も古く、大学を出たばかりのエラリー・クイーン(作者と同名の主人公)が初めて手がけた事件という設定になっている。「最終的に自分の推理に確信が持てるまでそれを誰にも話さない」をエラリーが実践するようになった理由が、著者の原註という形で描かれている。
ニューヨークで盲目の大富豪ゲオルグ・ハルキスが死去し、葬儀が執り行われたが、葬儀後に遺言書が金庫から消失していることが判明する。リチャード・クイーン警視の指揮するニューヨーク市警が乗り出すが、懸命な捜査にもかかわらず遺言書は見つからない。
クイーン警視の息子で、大学を出たばかりのエラリー・クイーンは捜査に加わり、遺言状のありかはハルキスの棺の中だと主張するが、暴かれたハルキスの棺から発見されたのは、前科者のアルバート・グリムショーの絞殺死体だった。
捜査が行き詰まる中、エラリーは事件が解決したと宣言し、自分の推理を披露する。ハルキスの書斎に残されていた物的証拠と、死亡した日にハルキスが着用していたネクタイの色から、一時的に視力が回復したハルキスがグリムショーを殺害したと結論する。しかし直後、新証言によって推理は根底から覆され、残された証拠が「真犯人による工作」だったことに気づいたエラリーは、誤りを認め推理を最初から立て直す。
グリムショーはイギリスのヴィクトリア美術館より盗み出したレオナルド・ダ・ヴィンチの未発表の絵画「軍旗の戦いの部分図」を巡ってハルキスとトラブルを起こしており、消失した遺言書はそれを解決するために、ハルキス所有の画廊の受遺者をグリムショーに指定するよう変更したものだった。問題の絵画は、ハルキスの遺言執行者である金融王ジェームズ・J・ノックスがハルキスより購入していた。盗品ということで返還を要求されたノックスだが、絵画はダ・ヴィンチの作でないと主張し、返還を拒否する。グリムショーは生前パートナーがいることをノックスに明かしており、にせの証拠を残した者こそグリムショーのパートナーであり、グリムショー殺しの真犯人であるとエラリーは結論づける。
遺言書の書き換えによって受遺者から外されたのが、ハルキス画廊の支配人ギルバート・スローンだった。ハルキス邸の隣の空き家の再捜索が行われ、ハルキスの死体が一時的に置かれていた痕跡と、紛失した遺言書の燃え残りが発見される。スローンがグリムショーの兄であるという密告書が届き、またスローンの自室から空き家の合鍵が発見される。真犯人がスローンであると結論したクイーン警視らは、画廊の支配人室に踏み込むが、スローンは頭をピストルで撃ち抜いて死んでいた。被疑者の自殺ということで捜査本部は幕引きを図る。
スローン犯人説に納得できないエラリーは捜査を続け、ついにその死が偽装された他殺であることを突き止める。一方、ノックスのもとに真犯人から脅迫状が届き、盗品所持を明かさない対価として3万ドルが要求してあった。観念したノックスは絵画を引き渡すと告げるが、絵画は隠し場所から何者かによって盗まれていた。脅迫状と絵画の盗難が自作自演であると主張するエラリーはノックスを逮捕させるが、それは真犯人を泳がせるための罠だった。おびき出された真犯人と空き家の地下で対峙したエラリーは銃撃を受けるが、捜査員の反撃によって真犯人は射殺され、エラリーは真相を明らかにする。
ここにきて、エラリー・クィーンは全てのミステリー作家の頂点、憧れの人になった!の感がある。
読者への挑戦。これは、常に読み手を意識している事だと思う。読む側を楽しませようとする心である。
二転三転する話。やはり、現代ミステリーの王道、「真犯人は物語に初めからいた」となるのであった。
やはり、訳が素晴らしい。止まらなくなる面白さを味わえる。