おいしい旅 初めて編 ~読書記録303~
2022年に、アミの会として発行された短編集だ。
アミの会とは、現代女性作家の集まりで、意気投合した際に短編集をだしている。今回もその1つだ。
この本には、7編収められている。
下田にいるか 坂木司
情熱のパイナップルケーキ 松尾由美
遠くの縁側 近藤史恵
糸島の塩 松村比呂美
もう一度花の下で 篠田真由美
地の果ては、隣 永嶋恵美
あなたと対茶漬けを 図子慧
はじめて行く土地、見知らぬ料理や文化、その土地の人々……。きままなひとり旅も、大切な誰かとの旅行も、その先に意外な出会いが待っている。様々な「はじめて」の旅を描いた7作品を収録。魅力あふれる旅先と、その土地ならではの美味しいものがたっぷり詰まった、実力派作家7名による書き下ろしアンソロジー。
これらの作品が書かれた年代背景が大きい事がまずある。
それは、コロナ禍がいかに旅に関して影響を与えたかだ。
主人公が旅行会社社員という題材もいくつかあったが、自粛、自分の住む都道府県から出てはならない、など。大きな打撃を与えたのだ。
Twitterでは、金曜日だけ内科医をする作家先生が「日本1の専門医」のような顔をして、マスク、ワクチン、自粛と騒いでいたが、旅行会社の人間や旅が好きな人の気持ちは、彼よりも、アミの会メンバーの先生たちの方が共感されていると思う。何よりも、一般人を下に見る事はない。同じ視線で描いている。イヤ、上から目線でよりも、主人公設定がきちんとされているからこその読み手に伝わるものがあるのだ。
姿の見えない閉塞感に、頭からずっとのしかかられている日々。どこにでも行ける体があるのに。どこにも行けない毎日。張り切って出かけることもできるけど、それでも罪悪感は拭えなくて、楽しいことも心から楽しめない。
(坂木司 下田にいるか)
うんうん。今は少しは以前のような日常生活になりつつあるが、2020年から2022年は、こんな気持ちだった人が多かったと思う。
つまり!作家というのは、ある種、一般人の代弁者の役割も果たしているのかもしれない。
いつ終わるとも知れない感染症の拡大で旅行が取り止めになると、とたんに窮地に立たされた。実績のない旅行会社は、真綿で首を絞められるような状態が続いている。政府の救済措置を頼って、なんとか生き延びてきたが、それも限界がきたようだ。(松村比呂美 糸島の塩)
旅行会社だけではない。他の業種でも、何とか・・・の状況だったのだ。
読みやすく、共感を覚える作品に感謝した。