ネコ・星新一~読書記録268~
世の中に「ショートショート」というジャンルを生み出した星新一が書いた作品の1つに「ネコ」がある。
1966年(昭和41年)に発行された「きまぐれロボット」に収録されている。
林の奥で暮らすエス氏は、猫をとても寵愛していた。
猫と日々を過ごすある日、自宅の外に何者かがやってくる。
外にそれを確認しに出るエス氏だが、その来訪者の姿を見た瞬間に気を失って倒れてしまった。
来訪者の正体は、常識を超えた奇妙な姿を持つ宇宙人・カード星人なる存在だったのだ。
そんな一大事のなか、退屈そうな鳴き声を出す飼い猫を見たカード星人は、猫とテレパシーで会話を交わすが……。
「自分たちのことを人間と呼んでいるわ。あたしたちの、ドレイの役をする生物よ。まじめによく働いてくれるわ」
「そうね。全部話すのは面倒くさいけど、たとえばこの家よ。人間が作ってくれたわ。それから牛という動物を飼い、ミルクをしぼって、あたしたちに毎日運んでくれるわ」(本書より)
これは、テレパシーで猫が宇宙人に語った言葉だ。
実に真理を突いていると思わざるを得ない。
猫の殆どは、「飼い主」「飼われている」などの自覚はないであろう、と私は思うからだ。
仁木悦子が編集した「不思議の国の猫たち」で、星新一のネコは紹介されている。
ここで、仁木悦子の解説を紹介したい。
星新一氏のSFショートショートは、時間を空間を超絶した舞台の上で人間や超人間を勝手気ままに躍らせておいて、実はそれが紛れもないこの地球の紛れもない現時点での人間の生きざまであることを結末に至って思い知らせるところに面白さがあるわけですが、この「ネコ」はそうした意味での最高の傑作の一つといえるでしょう。
地球の支配者が、「二本足の生物」ではなくて実は猫であるという発想は必ずしも星氏のオリジナルと言えないかもしれませんが、話をそこに持っていく過程での明確さと簡潔さと説得力は、やはり星氏の独壇場と言わねばなりません。
人間が猫の奴隷であるという事実を説明するのに、星氏はー恐らく故意にー家の提供とミルクの供給の二点に的を絞っていられますが、多分世の猫マニアたちはこの行間に、自分たちとそれぞれ「自分のお猫様」たちとの間で展開される様々な「主従関係」を事実に即して自由に読みとることでしょう。
まったく、実にその通り。
猫というヤツは、人間を奴隷と思っているのだ。
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