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任脈の捉え方 その3/‘02 一泊研修会講義録より
講師 小林詔司 / 文責 積聚会通信編集部
『積聚会通信』No.32 2002年9月号 掲載
身体の区分
身体を陰陽で観ると次のようにいえます。
身体の前面は背面に対して陰位、任脈はもっとも陰位である。
身体の前面をさらに胸部と腹部に分け、胸部の陽位に対して、腹部は陰位である。
身体の前面は任脈で左右に分け、季肋部下縁で上下に分ける。左右は陰陽をいいにくく、逆説もある。前からみるか後からみるかでも変わり、絶対性はない。
任脈に募穴があり、季肋部下縁に募穴がある。
任脈の募穴の性質は、胸部では蔵、腹部では府のもので、季肋部下縁では蔵のものである。 例外は胆、心包である。
病の伝変は、背部→蔵募→府募である。
胸腹部前面の五行配当は背部に対応し、上から金 ・ 火 ・ 木・土 ・ 水である。この五行配当については、どう使うか判っていない。1つは、背中は膀胱経と督脈しかないのに対して、腹部は 12 経全部が関係している。そのため五行的意味がわかりにくく、部位で作用が違うのではないかと考えられる。胸腹部前面、上部と下部の任脈では、下部は陰が強く、腎間の動気などの意味も出てくる。
区分とは、どこ(肺、腹など)に身体の異常があるかを陰陽でみることに意味があります。相対的な関係、つまり病の位置づけや重症度がよめるのです。単に区分では意味をなさないわけで、背景があり、比較することによって意味をもちます。陰陽と聞いたら、いつもそれを探ることが大切です。
病の進行を陰陽でみる
病の進行は、次の4つの段階に分けられます。
第1段階:背部は、蔵の病が反映される部位で、病はまず背中に出る。陰の病は、まず陽面に出る。
これは背中に病気があるのではなく、背部兪穴に現れるので、その治療を第1にやると蔵の病を収束させるという影響がある。
第2段階:進行すると、蔵の病は深くなり陽中の陽(皮膚表面)に出てくる。
鍼を入れるのが、かなり難しくなってくる。湿疹、痒み、熱、ピリピリ感などが出る。1と2では、病の程度、レベルが違う。
第3段階:更に進行すると、病は前面に出る。
胸などの上方と腹などの下方の2つの方向性が考えられる。かなり病が進行していて、必ず背中に症状があって前面に出てくると解釈する。
第4段階:虚の状態が更に進むと、最後は、水または熱の状態をコントロールできなくなる。
腹水がたまる、高熱で意識がなくなるなど重症な状態になる。足底も同じで、人間では重要で大変丈夫な部位だからである。どちらも水が溜まると御するのはかなり難しく、予後も難しい。
腹水については、腹部は陰中の陰でそこに水が溜まるということですから、治療の依頼は慎重に受けます。
お腹がはるのはガス性で、本来お腹に水(液性)は溜まらないものです。また、筋腫は固く熱性のものですが、腹水は柔らかいもので厄介です。
熱か水か大きく2つの状態に分けて考えてみると、判断がつきます。つまり熱があれば、コントロールする力が落ちていても身体の力はまだあるといえます。
漫然とお腹を診るのでなく、その人の病の流れを判断することがすごく大切です。そのために例えば上下などで陰陽を診るのです。
――悪性リンパ腫で腹部がカチカチの状態はどう考えますか。また、どこまで治療を続けてよいか迷います。
固いということは、まだ力があるということですから、可能性があるのでは。お腹で癌性の問題というと、最後は必ず腹水にいくでしょう。患者さんが感謝していらしているのなら、よい評判を得ていると解釈してもよいのではないでしょうか。それに来院できれば、やはりまだ力があるともいえます。
――腹水は点滴すると溜まりやすいのでは。
身体に吸収する力が落ちているから溜まるのです。また、脳出血などで上実が強いと、足底に症状が出るようです。足の裏が痛いとか浮腫むなどです。
――脳疾患を持っている患者さんで、足底が固く、マッサージしても変わらないし、ひび割れもあるのですが。
職業的な背景はどうですか。固さだけでは何ともいえません。踵のひびや割れは、非常な冷えを示していて、女性に多くみられます。(陰)虚が強い状態です。
治療の手順
治療は、まず背中に、必要であればお腹に行います。いきなり前面の治療をしないのは、陰の力を強める手順を飛ばすことになるからです。
ある手順をふんでいくのが、力を出すのには必要で、ギアを「low」から、「1、2、3」と順に上げると、いきなり「3」にするより力が出ますね。手順を踏むことが、力を増すことになるのです。基本治療の腹、背、腹と進んでどの程度陰の力が強まったかが確認できてから、必要なら補助治療をします。
任脈を使う
背部の取穴で対処する。
腹部の治療は、補助的な意味合いを持っている。
どうしても抑えられない症状に対して、腹部、胸部を用いるようにします。また緊急の場合、事が起きて時間が経っていなければ、例えば胸を打った直後なら胸に直接治療します。打って時間が経っている場合や、虫垂炎で発熱したというような場合はまず背中から治療します。直接治療するのは、打撲の直後くらいでしょうか。
治療の際、どうしても補助治療に目が行く傾向があります。背中の治療が型通りになりがちなので、背部で十分に陰の力を強めることに重点をおいてください。