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任脈の捉え方 その1/‘02 一泊研修会講義録より

講師 小林詔司 / 文責 積聚会通信編集部

『積聚会通信』No.29 2002年3月号 掲載

任脈の位置づけ
 
任脈は普段あまり意識して使うことが少ない経絡です。それは何故かと考えると、まず任脈は陰中の陰という性質から治療の手順の最後に位置し、それまでの治療で症状が解消していれば使わないで済んでしまいます。しかしそうではない場合には治療の手順の最後に必要で、重症の患者ではとても重要になってくる経絡です。
 
任脈の特殊性
 
任脈は分類上は奇経八脈に入ります。ところが奇経のうち6脈の流注は正経十二経と重なっていますが、任脈と督脈は独自の走行があり特別で正経とは明確な違いがあります。ですから任脈と督脈は、他の奇経とは分けて考えたほうが良いでしょう。奇経八脈を8卦で捉えると、任脈は坤で、督脈は乾ですね。
 
経脈の流注は会陰からいったん表に出て、小腹から体幹前面を上行します。女性の小腹には胞宮があり、男性より複雑な面があると推定できます。
 
また経の深さとしては、あまり深くないという印象ですね。流注は各経と交わっていて、下は会陰、上は齦交で督脈とつながり、また承泣で胃経ともつながっています。
 
気功でいう小周天では、吸気は鼻より任脈を下り、背部に行って督脈を上行し、口から呼気します。任脈と督脈が口の辺りで会いますが、そこが身体の重点であるという意味をもっているんですね。
 
ツボの捉え方
 
各経と交わるところは交会穴と呼ばれていますが、普段意識してそれらのツボを使っていますか。
 
積聚治療では点というものの位置づけをできるだけ制限しようと考えます。それは例えば胃には中脘といいますが、胃の症状にそのツボに鍼をして治るという発想には重点を置かないということです。
 
こういう病にこのツボというのは端的でわかりやすい。しかしそのツボを使って効果がない時はどうするのか、どうしてこのツボを使うと効果があるのか等、1つのツボにだけ意味を持たせることは矛盾がでてきます。現在のいわゆる特効穴というものは、歴史的、経験的な漠然とした認識に基づいてツボに固有性を持たせているものだといえ、絶対性はないでしょう。
 
胃が悪い人がいたら何も考えずに、つまり無意識に中脘に鍼を打つ。治療とはそういうものではなく、またそれがいつも誰にでもあてはまるわけではありません。経験を積むに従ってネックになってくる部分ですね。
 
気の流れ
 
西洋的な発想では理解しにくいのですが、点だけにとらわれるのではなく、その根っこに注目して下さい。ここで任脈、督脈が関連してきますね。つまり気の流れということです。気の流れを認識することによって、1つ 1つのツボの固有性を越えた使い方ができるようになります。
 
ツボの固有性から脱却できるかどうかは、気の流れを認識できるかにかかっているといっても過言でないでしょう。
 
気の流れというものを意識する。それは先程挙げた小周天を意識する、という訓練で会得できるものです。そうすると例えば中脘に鍼をして、最大の効果を引き出すことができるようになります。