任脈の捉え方 その4/‘02 一泊研修会講義録より
講師 小林詔司 / 文責 積聚会通信編集部
『積聚会通信』No.33 2002年11月号 掲載
任脈を使う(続き)
① 会陰
出産後の会陰裂傷、会陰切開の問題があります。メスが入ると保険の対象になるため、医者は簡単に勧めます。分娩技術の低下という要素も含んでいて、助産師の技術は会陰切開せずに出産させるものです。
切開後の痛みには粗艾を置き、まめに取り換えます。精製されていないほうがよく、成分が強く、より効力があります。
② 曲骨
恥骨は本来痛みがない場所です。痛む時は冷えを意味します。背部治療後、その部位を使って症状が軽ければ鍼、重ければ灸を用
います。
いくつか例をあげると、50 才の女性で、ちょっと触っても飛びあがるくらいの圧痛があり、しょっちゅうぎっくり腰を起こす。出産経験はない。青白い顔で、生活に問題があるとみて聞くと、毎日ミカンを食べサラダが大好き、一人暮らし。治療を受けミカンをやめてみたら、時に腰は痛むが、圧痛も減り、その痛みも治療して取れるようになりました。
膀胱炎に罹るのはまず女性で男性には殆どない症状ですが、背部兪穴の後に曲骨に鍼または灸をします。排尿痛、不快感をコントロールするのにかなり有効です。心因性の膀胱炎も多く、灸は壮数が難しい。患者さんは「ここに鍼をして」と最後の鍼が効いたと思いがちです。毎回使わず、そこで治ったと思わせてはだめです。
他には、冷えが強く膝の痛みがとれないとき、曲骨の灸が有効な場合があります。背部で十分に補い、最初は失眠の灸、腰部の鍼、それでも経過が思わしくない場合に曲骨を使います。
膝でも老人性のかなり進行した痛みには、陽陵泉が有効です。足らなければ「最後に」補うことをいつも頭に描くことです。
腎臓の薬をずっと飲んでいた人で、私が診て卵巣の問題だと言ったら、いきなり手術をしてしまった。この患者が急におりものが大量にでたと言う。よく聞くと、自転車に乗っていて、横から自転車がやって来たので急ブレーキをかけたら、恥骨にサドルが当たったと言う。恥骨の右側に圧痛があり、刺絡の処置をしたところ胸が張るなどの色々な症状も収束しました。恥
骨の打撲によって、急激にからだが冷えたために、おりものは修復しようとして血をあつめている状態です。このような場合の刺絡は、よく切れる三陵鍼を使い、手絞りで行います。吸角は、難しいでしょう。
③ 中極
普通は反応はでません。出ているとしたら、かなり力がない状態とみます。
例えば、子宮を摘出した女性、男性では前立腺肥大、夜間頻尿などの場合、米粒大 10~20 壮の灸をすえます。かなり熱いが、効果があるので我慢できます。夜間尿は、年をとると1回は普通で、2回までは我慢できる。3回以上になると、トイレに立った後すぐ眠れないことが悪循環になり、問題です。
④ 関元
痛みは少なく、力があるかないかを診ます。これまでのツボよりも力がないと判断すれば陰虚と評価し、関元の灸は有効といえそうです。かなり熱いので、必要性を感じたうえでやるようにします。
少し右寄りの腹痛に、非常に力を強く補いため、10~20 壮を粗艾で重ね焼きた患者の例もあります。力を強く補いたいときには、粗い艾を使い、なおかつ、火が消える前に重ねて焼きます。最近は、仕事ができるようになり、かなり安定してきました。また、灸痕に艾を当てて絆創膏で固定すると、膿が出る。膿がひどい場合、少し施灸の間隔を置きます。軽い打膿灸といえますね。これは補の程度をかなり強めたい場合、一番火力が強い方法です。
たとえば魚の目は、目を削りとり、熱が透るまで 100 壮でもすえます。
⑤ 水分
陰交とかなり重なった意味合いもち、大便、つまり水分を調節します。一般には鍼をある程度深くゆっくり入れます。鍼管を使ってみても結構ですが、銀鍼が適当です。
食道に問題がある患者で、1日 30 回便がでるという人がいました。ちょっとのことでも我慢できない。一般の症状としては便秘が多いです。つまり熱をコントロールする力が落ちていて、鍼をするとその力が出てくるということです。
水分と陰交のどちらを選ぶか。弱い方を選ぶということです。(この項、続く)