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無声映画の活弁ライブで令和を感じた日

 “活動弁士”という存在を初めて知ったのは、なんとなく見ていたテレビで流れていた、映画『カツベン』の紹介映像だった。

 “活動弁士”とは、無声映画に合わせて登場人物に声をあてたり、状況や場面の説明を行うことで、観客を楽しませる職業らしい。

 私は、カラーテレビが各家庭に普及した時代に生まれ、何なら地デジ化も幼い頃の記憶である。映画は当然カラーだった。
 出張や旅行で都会に行けば、IMAX、4DXやScreenXといった、地方の映画館では観ることのできない新しい劇場に足を運んできた。

 しかし、振り返ってみると、無声映画や白黒映画は観たことがない、と気付いた。
 もちろん、活動弁士のしゃべりを聴きながら観たこともなく、人生で一度は観てみたいものだと思っていた。


しまね映画祭2024

 1992年から始まり、今年で第33回となる“しまね映画祭”。
 島根県の各地で、映画の上映や映画にまつわるイベントが開催されるという、まさに映画のお祭りだ。
 「映画館のない町にも映画をスクリーンで届けよう」ということで、県内各地の市町のホールで、9月から11月にかけて、様々な映画が上映されるらしい。

 そのイベントの1つに、活弁ライブがあった。

奥深き無声映画の世界 ~活弁ライブと喜劇王チャップリン~

 イベント『奥深き無声映画の世界 ~活弁ライブと喜劇王チャップリン~』は、二部構成だった。
 第一部では、『國士無双』『無理矢理ロッキー破り』『誠の報い』の3本の無声映画が、3人の弁士による活弁ライブ付きで上映された。
 第二部では、チャップリンの『キッド』が上映された。

『國士無双』

 最初は、澤田四幸さんによる『國士無双』の上映。
 人生初の活弁ライブだったので、いったいどのような感じなのかと、ドキドキした。

映画『國士無双』のあらすじ
 お腹を空かせた浪人2人は、有名な剣豪・伊勢伊勢守が町にやってきている噂を聞く。そこで、それらしく見える者を誘い、伊勢伊勢守を語らせ、浪人2人はそのお供として付き従うフリをして、豪遊してやろうと考えた。
 かくして、伊勢伊勢守のなりすまし豪遊は上手くいったが、後日、ひょんなことから本物の伊勢伊勢守と偽物の伊勢伊勢守がバッタリ出くわしてしまう。

なんとも憎めない、ギャグ要素たっぷりの短編映画で、終始笑いが止まらなかった。

 まず驚いたのは、その多彩な声音である。人物ごとに声色を変え、登場人物が本当に喋っているような状態に、無声映画を観に来たことを一瞬忘れそうになった
 また、劇中に挟まれるセリフだけでなく、人物の口の動き方や状況から読み取った相槌等も加わっており、それが一層リアルさに拍車をかけていた。
 所々、地域ネタも組み込まれており、思わず笑ってしまった。

 そして、彼が高校生というのだから、また驚いた
 若いなぁとは思って見ていたが、高校生か……。堂々とて場慣れしているように見えたし、本当にすごい。

『無理矢理ロッキー破り』

 2本目は、景山酒時さんによる 『無理矢理ロッキー破り』である。

「無理やりロッキー破り」のあらすじ
 モンティとその許嫁は、悪人たちから追われていた。
 許嫁が逃げ込んだ先の貨物列車は、許嫁を乗せて発進してしまう。慌てて追うモンティは、なんとか貨物列車に乗り込み、悪人たちを追い払うが、貨物列車は速度を上げていき――。

CGがない時代とは思えない体を張ったスタントにハラハラしっぱなしだった。

 上映時間は20分。最初から最後まで、ものすごい勢いで場面が展開していった。列車に乗ってからは、特にそのスピードは加速していき、目まぐるしい勢いのまま、あっという間に20分が経っていた。

 主人公モンティと、その許嫁の掛け合いを演じながら、息もつかせぬ状況変化に対して、まるで合いの手のように説明を加えていく景山さん。
 日本人なら誰でも知っているような小ネタを仕込んで笑いを誘ったかと思うと、CGがない時代の作品であることの解説を加えて、会場をハッとさせていた。

 お名前の“酒時”が、公民館職員としての“主事”から来ているというトークも面白かった。
 活動弁士の活動の契機などの説明もあり、飯南町すごいな、と思った。
 今度、飯南町にも行ってみようかな。

『誠の報い』

 最後は、澤田いろはさんによるアニメ映画『誠の報い』である。

『誠の報い』あらずじ
 昼間から宴会をする村人たちをよそに、村で一番貧乏な親子(父と息子)は、今日も畑仕事に精を出していた。
 そろそろ帰ろうかと、2人で歩いていると、道に老人が倒れている。どうも、酔っぱらった村人たちとぶつかったが、村人たちはそのまま立ち去ってしまったようだった。
 親子は老人を家に連れ帰り、看病をしてやった。元気になった老人を、息子が送り届けると、なんと老人は殿様だった。
 褒美を取らせるという殿様に、息子は分不相応な金品より、父が欲していた馬が一番うれしい、と言うのだった。

可愛らしいアニメーションで描かれる、クスッとしながらも心休まる作品だった。

 まだあどけなさの残る声色と口調で、それが可愛らしいアニメーションに合致していて、とても良かった。
 また、登場人物ごとにキャラクターの特徴が出ており、聴いていて分かりやすかった。
 「老人を助けてハッピーエンド」と、一筋縄にはいなかいストーリーで、後半に行くにつれて盛り上がっていく様が、伝わってきた。

 澤田いろはさんは、澤田四幸さんの妹さんで、なんと小学生だという。
 小学生!? しかも、人前での披露は10回目くらいとのことだった。なんともすごい兄妹がいたものだ。

初体験なのに、妙に馴染んだ活弁ライブ

 約1時間に及ぶ活弁ライブ付き上映は、あっという間に終わってしまった。
 初めて活弁ライブを観たはずなのだが、観客も反応することで場を一緒に作り上げていくことや、作品には描かれていない要素を追加することで笑いを生み出すことなど、なんだか妙にしっくりきた。

 この感覚、応援上映の時と、ちょっと似ているかも。
 観客も一緒になって、笑って、応援して、誘い文句を言われたらつられてコール&レスポンスをする、あの応援上映という文化。
 むしろ、活弁ライブを経た日本だったからこそ、応援上映が受け入れられていたり……は、さすがに短絡的すぎるか。

 著作権等の問題はあるが、SNS上では、映像に好き勝手アフレコした動画が出回っていたりもする。そういうものがバズったりもする。
 元来、日本人はそういった笑いが好きなのかもしれない……というのも、短絡的すぎるか。

 満足度の高い時間だったので、また機会があれば拝聴したい。

会場となった安来節演芸館(画像は公式HPより)

 それにしても、会場も5月にリニューアルオープンしたばかりで、とてもきれいな建物で驚いた。客席の作りもよく、前が見えやすかった。
 安来節やどじょうすくい踊りも見たことがないので、また見に行ってみたい。