大学の経験を将来に生かす!環境課題に向き合い、学びを楽しむ方法
大学では環境を専門的に学んでみたい!でもどんなスキルが身に付くんだろう?
環境系学科の卒業研究では、どんなことをやるんだろう?
そう思っている方も多いのではないでしょうか?
今回は環境に興味のある学生が集まる滋賀県立大学の環境政策・計画学科で、琵琶湖をはじめとする水環境政策研究を行う平山奈央子(ひらやまなおこ)先生にお話を伺いました。先生が担当する「ファシリテーション技法・演習」は、環境を専門に学ぶ学生や卒業生から「勉強になった!」、「社会に出てからも役に立っている!」と人気の授業なのだそう。
そして実は、平山先生も滋賀県立大学環境政策・計画学科の卒業生の1人。研究テーマや大学教員になったきっかけ、学生との向き合い方について伺いました。
学生時代から関わり続けた琵琶湖、住民の考えを取り入れて政策を進めるために
ーー平山先生の研究テーマを教えてください。
琵琶湖をはじめとする水環境は、国や都道府県が定める政策のもと保全されています。私は、水環境保全のための政策が形成される過程や、環境問題に対する住民の意見を政策に活かす方法について研究を行っています。
琵琶湖周辺の住民に話を聞いてみると、人によっては「昔の方が綺麗だった」という意見が出てくるんです。でも昔の水質データを調べると大きな変化はない。では、人はどのように水環境の良し悪しを判断しているのかという点が学生時代の研究テーマでした。
ーー水質に大きな変化はないのに、人の感じ方が違うのは不思議ですね。
そうなんです。水環境のどういった部分によって人の印象が左右されるかには明確な答えがないんですよね。個人の考えや時代によっても異なるからこそずっと研究を続けています。
ーー平山先生にとって、学生時代から興味のある大切な研究テーマなのですね。具体的にはどのように研究を進めているのでしょうか?
「住民の価値観」という見えないものを数値的に分析してまとめています。「Aさんがこう感じている」、「Bさんがこう感じている」という意見だけでは、それぞれの感覚でしかなく、水環境に関わる政策について議論する場で扱うことが難しいんです。でも調査の回答から傾向を見つけたり、何割の人がこう感じていますと数字で示したりすることができたら、住民の意識や感覚を1つの意見として議論のタネにできると考えています。
地域住民の価値観が政策に生かされることを目指して、必要なアンケート調査や分析をしています。地域住民と行政をつなぐコーディネータの経験もあり、議論を円滑に進める方法についても知見があります。
ーー平山先生が担当されている「ファシリテーション技法・演習」の内容にもつながる部分でしょうか?
そうですね。「ファシリテーション」とは、グループディスカッションの場で論点を見つけたり、参加者の考えを引き出したり、参加者からの意見を整理する役割のことを指します。まさしく議論を円滑に進めるための役割です。
授業では6人1グループを作って、1人がファシリテーターを担当し、グループごとに簡単なテーマで議論をしてもらいます。ファシリテーターは参加者の意見を引き出したり、出てきた意見を可視化したりして議論が活発になるように導きます。毎回の授業に目標を設定していて、15回の授業を通して、少しずつ議論をまとめる力を磨いていきます。
ーー学生さんからはどんな反応がありますか?
ひたすら練習を繰り返すので少しずつできるようになっている感覚を持つ学生も多いようです。会話を促すことも聞いたことをまとめることも難しいんですが、やってみないと自分がどこが苦手かわからないんですよね。
議論を促してまとめるスキルはサークル活動での話し合いなど学生生活のさまざまな場面で役立つので、1年生でこの授業を取り入れるようにしています。インターンシップや就職活動のグループワークの場面で成長を感じたという声も。社会に出るとますます実感するようです。
学生たちが研究のプロセスを楽しめるように
ーー平山先生が大学教員になったきっかけを教えてください。
もともと大学教員になりたい、研究者になりたいと考えていたわけではないんです。ただ、大学での卒業研究や、大学院での修士論文研究を通して、「研究が好きだ、もっとやりたい!」と感じて、博士課程まで進学しました。ちょうど博士号をとったタイミングで興味のある分野の大学に求人が出るというチャンスが舞い込んで。「できるかわからないけど、とりあえずやってみよう!」と挑戦しました。
その大学に2年勤めたのち、2013年に滋賀県立大学環境政策・計画学科の助教に着任して今に至ります。
ーー大学の先生になってみて、感じることはありますか?
案外向いていたなと思います。私自身が環境政策・計画学科で学んでいたので、学生の気持ちも想像でき、それが学生と向き合う時に役立っているなと思います。学生の様子を見ながら、どんな言葉をかければその学生が理解できるのか、その学生に合った次の課題は何かを考えて、成長を促すことができるのはやりがいがあります。
ーー平山先生の研究室のHPを見た時に、研究の楽しみ方が書いてあるのが印象的でした。学生時代に、研究はこう楽しむのか!という発見があったんでしょうか?
実は逆なんです。研究を通して、わからないことが明らかになるのは好きでしたが、研究プロセスは辛いと感じることが多い学生時代でした。私はプロセスが楽しめなくても続けることができましたが、楽しめないともうやりたくないと感じてしまう学生の方が多いんですよね。
この学科では1年半くらいかけて卒業研究に取り組むので、楽しめないと途中で苦しくなって続かなくなってしまう。だから、これを知りたいから研究をする、このデータがとれたから次はこんな分析をしてみようなど、主体的に取り組んでもらおうと思って楽しみ方を載せています。研究にやりがいを感じられれば、社会に出ても役立つような成長に繋がるので。
ーー学生に研究を楽しんでもらうために工夫していることはありますか?
卒業研究のテーマは学生自身に決めてもらうようにしています。どんなに小さな興味でも構わないんです。学生自身がこれやってみたいと言ってくれたものを大事にして、どういうアプローチなら卒業研究にできるかを一緒に考えるようにしています。せっかく研究をするなら、達成感とやりがいを実感してほしいので、テーマ選びから主体的に取り組んでもらっています。
学生が自分で考えるきっかけを作る、問いかけの工夫
ーー学生が自分で考えて研究を進めていくために、どんなことを意識していますか?
当たり前を疑うきっかけになる問いを投げかけるようにしています。例えば外来魚一つにしても、いない方がいいという意見が一般的ですが、「本当にそうだろうか?」、「この立場から見たらどう?」のようなイメージです。明確な答えを出すことは難しい問いですが、そうやってさまざまな角度から物事を眺めることが、思考力をつけるうえで大切だと思っています。
今はネットで調べればなんでも答えが出てきますが、それらがすべて正しいわけではない。「別の立場から見たらどうだろう?」と一つの物事を深く考える力は社会に出ても必ず役に立ちます。ただ、急に身に付く力ではないので、卒業研究をおこなうなかでトレーニングできるように促すことを意識しています。
ーーさまざまな学生さんがいると思いますが、どんな関わり方を意識していますか?
私は学生を子どもではなく、大人としてとらえて接しています。どういうことかというと、自分の意思決定には責任を持ってもらうという意味です。卒業研究を進めるうえでのスケジュール管理や研究のデータ集め、分析方法など、相談に乗ったうえで最後は学生に責任を持って決めてもらうようにしています。
社会に出たあとの人生は、意思決定の連続だと思うんです。意思決定をするためには、情報を集めて検討して、自分のなかの答えを持つ必要がある。そのプロセスを卒業研究でも経験できるように、学生それぞれの特徴に合わせて指導をしています。
ーー具体的にはどういった指導をおこなうんですか?
それぞれの学生の特徴に合わせて、次のハードルの置き方を工夫しています。たとえば、自分で調べて一気に進めたいタイプの学生には大きめの課題を出したり、着実に課題をクリアしたいタイプの学生には、見通しが立つように小さめの課題を出したり。どんなタイプでも成長を実感できるように、それぞれの学生に合わせた接し方や課題提示を工夫しています。
ーー印象に残っている学生はいますか?
努力して自分なりの成果を残した学生はやはり印象に残っています。そういう学生は、自分の将来の目標を見つけて夢を叶えて就職しやすくなるんです。
卒業研究を通してゼミへの取り組み方が変わる学生も多いです。あまり積極的ではなかった学生が、学生同士で議論を交わすなかで、自分から質問したり、他の学生に問いを投げかけたりしている様子を見ると私もとてもうれしくなります。
ーー最後に環境政策・計画学科のおすすめポイントを教えてください。
環境について、どんな分野どんな方法にもアドバイスできる先生が揃っていて、相談すれば学生の関心に合わせてサポートできることが最大の強みです。なんとなく環境問題に興味あるなという高校生も卒業までに、専門分野で知識を身につけられます。
自分の興味の糸口だけでも先生に相談したら、「この分野はどう?」、「こんなやり方もあるよ」などアドバイスをくれる先生が多いです。学生と先生の距離も近いので、先生に相談しながら研究を形にしていくことができると思います。興味あることに真剣に取り組むなかで、社会でも役に立つスキルが身につく場所です。
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