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『うるさい隣人』作:小耳鋏うさみ【5分シナリオ】

「うるさい隣人」
作:小耳鋏うさみ(こみみはさみうさみ)

◾️登場人物
安西 乙子(27) 一人暮らしのOL。引っ越して3ヶ月。
橋本 昌也(35) 乙子の隣人 。マンション管理組合の理事。
木村 洋子(45) 乙子の向かいの隣人。主婦。
鈴木(65) マンションの顔役おばさま
有恵(27) 乙子の友人
その他住民たち

○カナルマンション・エントランス内
掲示板の張り紙。主婦が数名集まっている。
【住人の皆さま 近頃ゴミ捨て場が荒らされ、苦情が入っております。周りの住人の方々に配慮した生活をお願い申し上げます。】

鈴木「ねえ」
山田「そうねえ」
佐藤「これ、何号室かしらねえ」

にやっと笑う鈴木を囲む主婦たち。
安西乙子(27)がエレベーターから降りてくる。
鈴木たち、そそくさと逃げていく。
乙子、掲示板の張り紙を見て、ため息。

○カフェ・店内
乙子、友人の有恵(27)とパンケーキの写真を撮っている。

乙子「あー癒し。家に帰りたくない」
有恵「新居、快適じゃないの?」
乙子「1ヶ月前くらいからね。向かいの人が気になって……」
有恵「ストーカーとか?」
乙子「違う違う。うるさいんだよね」
有恵「騒音はきついねえ」
乙子「ううん。静かなの。音は出てなくて」
有恵「うるさいの?」
乙子「顔がね、うるさいの」

◯同・501号室・前廊下(夜)
帰宅してきた乙子。
乙子、気配を察して、背後の503号室を見る。
ドアが少し開いている。そこから顔を出している木村洋子(45)。
木村、目を大きく開けてこちらを見ている。拳を上げて何かを訴える。

木村「……(鼻息)」
木村が何かを取り出そうとし、
乙子「(訳がわからず)すみません……」

乙子、逃げるように家に入る。

◯同・501号室・乙子の部屋(夜)
着替えを済ませ、ビールを開ける乙子。
乙子M「また……隣の木村さんの表情がうるさい」

○同・マンション集会室内
住民会議の場。乙子、端っこの席に座る。
理事の橋本昌也(35)が前に立つ。
鈴木をはじめとする主婦たち、橋本の姿に惚れ惚れしている。

橋本「最近、郵便物が破られたり、ゴミが散らかされる被害が出ております。ここだけの話、特に5階のゴミ捨て場で多発していまして……」

主婦たちがザワザワする。

山田「5階ってどなたがいたかしら……」
佐藤「怪しいのは3ヶ月前に来た安西さんじゃない?」

乙子、下を向く。

橋本、手を叩き、
橋本「はい、みなさん詮索はやめましょう。それに安西さんは隣人の私が保証します。私は理事として彼女の身元を知っていますし、怪しい人ではないですよ」

不服そうな主婦たち。

○(回想)同・ゴミ捨て場前(数週間前・朝)
乙子、急いでゴミを捨て去る。

と、背後から、
鈴木「ちょっと、安西さん。分別が間違っていますよ。ここは厳しいんです」
乙子「すみません、引っ越したばかりで、把握してなくて……気をつけます」

乙子、ゴミを持ち去る。

○(戻って)同・マンション集会室内
解散となり、部屋を出ていく住民たち。

下を向く乙子。通りがけに鈴木が、
鈴木「前から規則守れないものね」
山田「橋本さんが庇うからつけあがるのよ」
佐藤「どんな手を使ったんだか」

◯同・一階エレベーター前
乙子、エレベーターを待つ。
扉が開き、乗ろうとすると、橋本がやってくる。

橋本「お疲れ様でした。困ったことがあったら理事の私に……」
乙子「あの、隣人の木村さんなんですが……」

と、全力疾走で木村が乗り込んでくる。
木村、橋本と乙子の間に立つ。
木村、乙子に向かって表情で何かを訴える。般若のように怖い。

橋本「あ、木村さんも5階ですね」

○同・501号室・乙子の部屋内(夜)
乙子、ため息をつく。
テーブルの上には注意書きの手紙が山積み。誰かが嫌がらせで入れているようなものばかり。

乙子「(涙ぐみ)引っ越したばかりなのに……」

と、「ピンポーン」とインターフォン。
ドアホンのカメラで確認すると、橋本が立っていた。

○同・501号室・玄関前〜廊下(夜)
ドアを開ける乙子。
橋本「安西さん、屋上庭園から夜景を見ませんか? 少しでも気分転換になればと思って……」

乙子、優しくされて泣きそうになる。
一緒にエレベーターに向かう。

と、その様子を503号室のドアの隙間から見つめる木村。
乙子を引き留めようとするが、橋本に気づかれそう。躊躇する。

○同・マンション屋上庭園(夜)
屋上からの景色。東京の夜景が広がる。
乙子、感動して眺めている。

橋本「安西さん、ここからの夜景、綺麗でしょう」
乙子「勝手に入っていいんですか?」
橋本「(笑って)理事会長の特権です」
乙子、安心して笑う。


と、橋本、急に顔を近づけて、
橋本「あ、安西さん。ニキビできてるね」
乙子「(怪訝そうに)え?」
橋本「ほら、ここ。(自分の顎を指して)僕と同じところ。運命だね」

乙子、橋本の豹変に不安になる。
乙子「ありがとうございました。もう、戻ります」

橋本、乙子の前に立ちはだかる。鍵を見せながら、
橋本「そうはいきませんよ。やっと二人きりになったんだから。引っ越してからずっとあなたを見てきました。今、このマンションにあなたの味方は僕だけですよ」

乙子、後ずさりする。
乙子「あの、橋本さん?」

と、非常ドアが開く。
木村「(震える声で)や、や、やめなさい!!」

現れたのは木村。息が上がっている。
一瞬の静寂。
木村「(徐々に声が強くなる)し、証拠はあるの! あなたがわざとゴミを、散らかす様子も!」

乙子、木村の方へ歩み寄る。
木村、呼吸が荒くなり、喋れなくなっている。
木村の背中をさする乙子。

○同・マンション中庭内(数日後)
木村と乙子、ベンチに座っている。
筆談で話す木村。

木村「(筆談で)昔、私も被害に遭っていて……それ以来、怖い時に声が出ないんです」
乙子「ずっと教えてくれてたんですね」
木村「(書きながら)あなたを助けたくて久しぶりに声が出せました」
乙子「あなたのこと疑っていました。ごめんなさい」

頭を下げる乙子。
と、背後から、

鈴木「私たちもごめんなさい」
山田「これからはちゃんと話し合える関係になりましょ」
佐藤「そうね、そうね」

木村、初めて穏やかな笑顔を見せる。

と、鈴木が指差して、
鈴木「ねえ、あの人。先週引っ越してきた森田さん。男の人だし、メガネだし。警戒した方がいいわよ」

乙子たち、呆れて笑う。

(終)


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