『人生 is ゲーム』作:飴玉 【5分シナリオ】
「人生 is ゲーム」 作:飴玉
★登場人物★
カズヤ リナ ユウジ ダイ
○マンションの一室
ボードゲームに興じている大人が4人。
ユウジ、サイコロを5つカズヤにわたす。
カズヤ「多いな」
ユウジ「サービス!」
カズヤ、ざらっとサイコロをふる。
1、2……と車の形をしたコマをすすめるカズヤ。止まったマスの指示を読む。
カズヤ「《自伝がベストセラーに 3000万円もらう》よっしゃああ!」
銀行係のリナ、紙のお金を数えてカズヤにわたす。
リナ「はい、おめでと」
カズヤ「あっざーーーっす!!」
ユウジ「あとチャンスカード1枚引けるよ」
カズヤ、上機嫌でカードに手を伸ばし、えいっとめくると、ドクロマーク……。《地獄モード突入! ビンボー神×3》と書いてある。
カズヤ「はあ~~???」
ユウジ、ダイ、リナ、手を叩いて爆笑。カズヤ、ドクロのカードを裏返してみるが、やはり「チャンスカード」と書かれている。
カズヤ「ちょ……なんでww」
ダイ「はい、三びきのせまーすwww」
と、真っ黒なピンを三本カズヤの車に差し込む。
ユウジ「えっと、これ一匹で2倍マイナスだから……2倍の2倍の2倍…8倍wwww」
リナ「8倍wwww」
カズヤ「うそwww、ちょまって」
ユウジ「3000万のww8倍www」
ダイ「2億4000万www」
リナ「アハハハ!」
ユウジ「はい、払って、2億4000万」
ダイ「自伝書いて2億払ってんのwwww」
ユウジ「アホすぎwww」
カズヤ「てか、こいつら、どうやって消すの?」
ユウジ「消えないよ、ずっと8倍マイナス」
カズヤ「じゃあマイナスは? プラスになるの?」
ダイ「そんなわけねーだろ。人生は一休さんじゃないんだぞ」
ユウジ「プラスはマイナス、マイナスはマイナス、お前のものは俺のもの」
笑う3人、しょんぼりボードを見つめるカズヤ。
リナ「あー、ウケるわ。ほんとこっから地獄じゃん」
ユウジ「リナ、カズヤを頼むぜ、ちゃんと支えてけよ」
リナ「無理wwww別れるwww」
―― 10 MINUTES LATER ――
神妙な面持ちで、静まり返っている4人。
リナ、手に持ったサイコロをトン、とボードに置いて立ち上がる。
リナ「無理。別れる。なんかもう全部無理ぽい」
カズヤ「全部って何よ?」
リナ「全部は全部。生活、空間。これから毎日カズヤといること、同じ部屋の中で同じ空気吸うこと」
カズヤ「そんな怒んなって。ゲームじゃん」
リナ「じゃゲームしてるとき死んでるの? 息してないの? 言ってよ。ねえ? 死んでるの? さっき死んでたの?」
カズヤ「死んでないけど」
リナ「じゃあ生きてるじゃん。生きてたらリアルじゃん。人が生きるって書いて人生なの。ゲームしてるときも人は生きてるの。ぜんぶ人生なの」
カズヤ「だから何だって。俺がリナを本当に地獄に落とすわけ無いだろ」
リナ「地獄なんかあるわけないじゃん」
―― 5 MINUTES EARLIER ――
カズヤ「マジ地獄……借金20億て……」
と、サイコロをふる。
カズヤ「……《万馬券を当てる! 1000万円もらう》……」
リナ、約束手形を数えてカズヤに渡す。
リナ「はいっ!8000万借金~~~」
ダイ「てか、こんな人生詰んでるやつに8000万貸す銀行やべーわ」
ユウジ「それな。カズヤ、チャンスカードも引けよwww」
カズヤ「いやもう…チャンスとかいらない……」
と、一枚めくって開く。
天使のマークの下に《パラレルワールドにジャンプ! 好きな誰かと資産と子どもを全部取り替える》と書いてある。
カードをのぞき込む4人。
カズヤ「えっ……」
3人「……」
カズヤ、じわっと笑いがこみ上げてくる。
カズヤ「えっ……ってことは……www」
リナ「やば」
ユウジ「えっと……よかったな、カズヤ……さん」
ダイ「あの……あきらめない心が大切……ってことですね」
カズヤ「ふう。さーて」
と、車から黒いピンを三本抜き取る。
カズヤ、借金の束をきれいにまとめ、三匹のビンボー神を上に乗せる。
カズヤ「誰の人生と交換すっかな~~」
と、3人の顔を順番にみる。
カズヤ「リナ…ユウジ…ダイ……。リナ…ユウジ…ダイ……」
と、指さしていく。
目をそらしたり、祈ったりしている3人。
カズヤ、リナの肩に手をポンと置いて、
カズヤ「リナにしよっと!」
リナ「はぁ?」
ユウジ「ヨシッ!!」
ダイ「キターー!」
カズヤ「Welcome to underground!! アハハハハハ!」
リナの車にプスプスとビンボー神を差し込むカズヤ。
しらけた顔でそれを見てるリナ。
―― 8 MINUTES LATER ――
リナ、バッグをもってドアに立ち、
リナ「生きてればさ――」
と振り返り、
リナ「苦しいこと、どうしようもないこと、もがけばもがくほど悪くなっていくことだってあるよ。それは私もわかる。でもそんなときに助け合って生きていくのが夫婦じゃないの? 将来とても苦しくて、いちばん困ってるときに、カズヤが私と友だちでどっちを優先するか、ほんとわかった。ただ友だちにいい顔したい、いい人って思われたい、そういうエゴに私は踏みにじられるんだよ」
カズヤ「だから、違うって。盛り上がるじゃんその方が。雰囲気だけの話だよ」
リナ「なんにも違わない。雰囲気のために妻を踏み台にしたってことじゃん。私はカズヤの持ち物じゃないから。そうやってまわりにいい顔するために私はこれからもずっと嫌な思いするんだよ。無理だから、そんなの。だから終わり。さよなら」
カズヤ「さよなら、って……式とか、いろんな段取りどうすんだよ……」
リナ「ほら! ほら!! ね?」
と、カズヤに詰め寄って、
リナ「私の気持ちより、式場どうしよう、引き出物どうしよう、親になんて説明しよう? 社長に挨拶頼んでるのどうしよう? でしょ? なんにも違わないじゃん! 優先順位がそうなってるんだよ!」
ユウジ「まあまあ。よーし、今日はそんなとこにしとこー。ね」
リナ「結局、自伝とか出すやつにろくなヤツいないから。周りへの感謝よりも、自分がどうやって生きてきたかを主張するとかマジきもい。お前が生きてきたんじゃねえんだよ、周りに生かされてきたんだよ。何が自伝だ」
カズヤ「書かねえって。ゲームだろ。ゲームの中とごっちゃにすんなよ。言ってること無茶苦茶だよ。お前らも助けてくれよ……」
ユウジ「そうだな……でも」
と、カズヤの肩に手を置いて、
ユウジ「お前は自伝を、書くよ」
ダイ「書くな」
ユウジ「書くよ」
リナ「ほら」
カズヤ「うそだろ……」
ユウジ「てか、職業選ぶときもやばくなかった?」
ダイ「そう、会社員とか、弁護士とか選べるのに、こいつwww」
ユウジ「『トレジャーハンター』ってwww」
と、カズヤの職業カードを指差す。
ダイ「嫁にブチ切れられて当然やで」
リナ「トレジャーハンター選ぶ人はね、カズヤ……」
ひとつため息をつき、
リナ「結局、自伝を書くんだよ」
カズヤ「……」
リナ「じゃあね。私物はまた取りに来るわ」
と、部屋を出ていく。
カズヤ「私物って……」
―― 5 MINUTES LATER ――
ゲームを片付け終わった3人。
ダイ「ま、なんとかなるって」
カズヤ「式、来月なんだけど……」
ユウジ「だよな。まあ人生万事、なんとかの馬って言うし」
ダイ「それ。馬が帰ってくるやつな。あっ! 明日競馬行かね?」
ユウジ「いいね! カズヤも行くぞ。人生万馬券や」
カズヤ「お前ら……」
ダイ「1000万!」
ユウジ「1000万!」
カズヤ「もういい! どうでもいいや、じゃあ今日は前夜祭な。飲も!!」
ダイ・ユウジ「いいね!!」
カズキ「明日はお宝ゲットや!」
3人、笑いながら部屋を出ていく。
部屋の片隅に、ビンボー神が三匹刺さった車が転がっている。
(おしまい)
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作者より→
5分シナリオといいつつ、10分ぐらいになっちゃいました。
次はもう少し短くしまーす。