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“幻のベイクショップ”までの夜さんぽ

※1ヶ月前の華金のことですが、そんな気分で読んでみてください。


なんだか今日は仕事が集中してできず、30分に一度は席を立ってしまう。

18時の帰宅時間が待ち遠しくそわそわして、いっこうに作業が進まない。18時を少し過ぎて私は会社を出た。

だけど、まだ家には帰りたくない。なんせ今日は花の金曜日。特に約束を入れていなかった私は、ひとまず会社の近くのカフェに入り、いろんな人に連絡をいれる。
3人ほど誘ってはみたが振られてしまった。SNSを眺めていると、ふと「今夜のラインナップ」とかかれた、チーズケーキの写真が目に留まった。

それは週1回、土曜の昼からしか営業していない、いわば幻の焼き菓子やさんともいえるお店の投稿だった。そういえば土曜日に加えて、平日夜にも1日だけ営業日を増やしていたというのを知ってはいたが、それが今日、金曜日だとは知らなかった。

「本日も18時から、どうぞよろしくお願いします」その言葉を見て、すぐさま行くことを決めた。今は18時50分。お店の最寄の駅までは、30分ほどなので19時半には着けそうだ。まだ飲み途中の紅茶を置いて、すぐさま駅に向かった。

会社は新橋にあり、向かうは三茶・下北沢の中間あたり。ひとまず銀座線に乗ったけれど、どこの駅で降りるかをずっと迷っていた。
なぜかというと、最寄り駅が3つくらいあり、最寄といえど、どの駅からも10分以上は歩く位置にあるからだ。結局はあまり乗り換えのときに人ごみを歩きたくないなと思い、三軒茶屋で降りることにした。この選択が、仕事終わりにはやや厳しくなる決断だった。

三軒茶屋について、改めて調べてみると20分ほど歩くと出てきた。ここでちょっと絶望した。この徒歩時間が正しいとすると、到着は予想よりおそくなってしまう。せっかく歩いて「今日は閉店しました」とわかるように暗くなった店を拝みにいくだけになったら、この「物足りない」1日がさらに「なにもない」状態でおわる。やりきれない気持ちになるに違いない。

そんな悪い未来を考えながらも、足はもう向かってしまっていた。行くしかない、と決心してズンズンと地図どおりの道を歩く。しかし、早くもまたこころが折れそうになる。住宅街の中を歩いていく道がけっこう暗い。夏の夜は蒸し暑く、汗をかくほどではないけれど、へこたれそうになる。

花の金曜にひとりさびしい散歩を選んでしまった私には、もっときらびやかな景色がほしかった。文句は言ってられないので、細すぎる路地は選ばない程度にあるいていき、そうするとたまに明かりのともる建物がみえて、人々が楽しげに話している様子が見えた。すこしほっとした。

以前に一度いったことがあったので、だんだん道中の景色を思い出してきた。長い緑道があったなとか、坂をあがってややお高そうなマンションが建っていたな、とか。昼間に見ていた景色にくらべるとしずかだけど、人の気配がして豪邸のたちならぶエリアの家々は、なんだか暖かそうに見えた。

20分弱の散歩は最初の不安に比べると、楽しいものに変わりながら目的地へと近づいていた。そして、「やまねフランス」には明かりがともっていた。


ふと安堵の笑みがこぼれた。夜のお菓子やさんはとてもロマンチックだった。以前来たときは人もいっぱいいて、混み合っていたのであまりゆっくり見ていなかったけれど、店内はシンプルな内装に、センスの良い小物が棚の上にぎゅうぎゅうにおいてあったり、つかう包材もオープンにつまれていた。
椅子やテーブルには本が積みあがっていて、整っていないけれど、それが逆に海外の生活感にある部屋のようで、おしゃれだった。お目当てのチーズケーキはなかったけれど、予想してたよりも、種類は残っていた。

・明日のスコーン
・ボンジュールマフィン 桃と紅茶/オレンジとホワイトチョコ
・夏のタルト マンゴーとピスタチオ
・ラムラムアマンディーヌ
・にんじんアディクション

プライスカードには、それぞれお菓子をイメージしたデザインの施されていた。細い黒線のみであがかれていて、どれも都会だけど、独特なネーミングと同様に遊び心を感じるデザインで、思わずお菓子と一緒に持って帰りたいと思ってしまった。スコーン以外を購入して、スッと店内をあとにした。

ここで、私のやりきれない金曜日が打って変わって、とても充実した1日になっていた。早く食べたい、早く家に帰らねば。ともう終わったつもりで考えていたけれど、20分歩いてきたという事は、20分あるいてもどるという事に気がついた。
がーん…こっから更に歩くのか…重たい気持ちを抱えながらも、時間も時間なので、来た道より遠回りな大通りの道沿いを歩いて駅まで戻った。

やっと家についたのは、夜の10時半。今夜は、2種のタルトを同居人と二人で食べた。「なんだか、優しい味だね。」と同居人がつぶやいた。どれどれ…本当だ。いい意味で意外だった。都会的、おしゃれなイメージ、しゃれたネーミングからは創造していなかった、甘さ控えめで素材そのままの味。

ふんわりしっとりとして、香り付けのものは入っていない、素朴な味わいだった。やきがしは、本当に作る人の人柄が出るなぁと、よく知りもしない店主さんの人物像をつくりあげるのだった。

インスタグラムの投稿も素敵なので、ぜひご覧ください。
やまねフランスInstagram

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まりも
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