
第3回 M&A奮闘記:イマイチな出会いと100万円の行方」〜社長を続けたかった俺が、M&Aの道を選ぶ理由〜
M&A仲介最大手への期待
「とりあえず最大手に頼めば間違いない」は甘かった…
M&A?なんだそれ?と思った俺だが、周りに相談するとみんな口を揃えて言うわけだ。
「とりあえず最大手に相談しとけ!」
なるほど、名前が通ってるなら信頼できるに違いない。例えるなら、迷ったら吉野家の牛丼を選ぶみたいな感覚だ。とりあえず失敗はしないだろう、みたいな。だから俺も素直に、国内最大手のM&A仲介会社に電話をかけたんだよ。
「これで一安心だな…」と思いながら。
「優しい声の窓口担当。でも、マニュアル感がすごい」
最初に出たのは、どうやら窓口担当らしい男性だった。声は穏やかで優しい。いや、それ自体はありがたいんだよ。けど、どこかマニュアルっぽい匂いが漂ってくる。
「ああ、これはテンプレ対応だな…」って思いながらも、俺は大人しくヒアリングに応じた。
彼は言う。
「直近の決算書の内容を教えてください。それをもとに企業価値を算定します。」
さらに、企業価値の査定を基に担当者が決まるとのことだ。
「担当者が決まる…?」
これがどうも引っかかった。「いい担当者が付くのは売上が高い会社だけ」みたいなニュアンスを感じたのは俺の勘だ。
だって決算書の内容の3項目くらいしか聞かれないんだもの。
「俺の勘、外れてくれ!」
でも、その勘が外れて欲しいと心から願った。だって最大手だぞ?国内No.1だぞ?きっとそんな雑な扱いなんかしないはずだ…。自分にそう言い聞かせながら、俺は決算書を提出した。
「自分が築いてきた会社がいくらの価値になるのか」
それを知るのは怖くもあり、ちょっとした楽しみでもあった。
例えるなら、フリマアプリに出品した自分のコレクションが、「え、こんな高く売れるの!?」って期待半分、「え、こんな安いの!?」って恐怖半分みたいな、あの感覚だ。
「査定結果の衝撃」
数日後、窓口担当から電話がかかってきた。声は相変わらず柔らかい。いや、柔らかいのはいいんだけど、肝心の中身がどうかだよ。俺は心の準備をしながら結果を待った。
そして彼は言った。
「査定結果ですが…5000万円程度という数字になりました。」
「5000万?え、これどうなん?」
5000万円。この数字を聞いた瞬間、俺の脳内は混乱だよ。
「これって高いの?低いの?」って。いや、分からないから相談してるんだけど!?
でも、7年間頑張ってきた俺としては、正直「安いな…」って感じてしまったのも事実だ。
内部留保だって少ないながらも積み上げてきた。割と有名なメディアも運営してるし、個人情報データベースだってそれなりにある。役員報酬だってそこそこもらいつつ利益を出している。
なのに、査定結果は5000万円。
「俺の7年間って、こんなもん?」
「でも、しょせん零細企業だよな…」
ただ、冷静に考えれば、俺含めて社員4人、売上1億弱の零細企業だ。これくらいの評価額が妥当なのかもしれない。
「そんなもんか…」って、妙に納得してしまった自分がいるのも正直なところだ。
でも、電話の向こうの彼はさらにこう続けた。
「でも、安心してください!」
「必ず買い手は見つかりますので、安心してください!」
…いやいや、ちょっと待て。「安心してください」って軽く言うけど、それだけで俺は安心できると思うか!? こっちは人生かかってるんだぞ!?
例えるなら、「ジェットコースターの発車直前に『安全バーが緩いけど安心してください』って言われる」みたいなもんだよ。いや、無理無理!不安しかないから!
「モヤモヤの残る一言」
この「安心してください」が、俺の中で妙に引っかかった。
電話越しの彼の声は柔らかいけど、その言葉にどれだけ本気があるのか、どうしても疑ってしまう。結局この一言が、俺の心にモヤモヤを残したまま電話を切る結果となった。
最大手なら安心だと思っていた俺の期待は、ちょっとずつ崩れ始めた。「安心感」って、意外と簡単には得られないもんだな…と、この時初めて思い知ったんだ。
手付金のハードル
次に彼が話したのは、契約の進め方についてだった。
「手付金として100万円をお支払いいただければ、すぐに買い手探しをスタートできます。」
100万円。それなりに大きな額だ。これから買い手となる会社向けに資料を作り、プロジェクトチームを作り、そして交渉するために100万円必要だと。一度払えば5年でも10年でも一生チームは存続し続けるらしい。
そして最低手数料は2500万。5000万で売れたとしても、俺の手元には2500万、そしてそこから約20%の税金。これはなかなか痺れるな…
だが、M&Aとはそういうものだと思っていた俺は、驚きつつも納得していた。むしろ「これで会社の未来が決まるなら」と、どこか半ば自暴自棄のような気持ちで了承した。
担当者との出会い
最初の電話面談が終わり、次に進んだのは担当者とのWEB面談だった。画面越しに現れた担当者は、思ったよりもくたびれた中年男性だった。スーツはきちんとしているが、どこか落ち着きがなく、俺の期待は少しだけしぼんだ。正直俺の会社の査定額が低いからこのレベルをあててきたと感じた。
しかし、彼は元気よく話し始めた。
「ぜひ御社の未来をサポートさせていただきたいと思っています!」
俺は曖昧に頷きながら、彼の目の奥に「この人に託して本当に大丈夫なのか?」という疑念を抱いていた。でも、その時点では具体的な問題があったわけではない。ただ、俺の直感が少し警鐘を鳴らしていた。
感覚のズレ「イマイチ劇場」
「こんにちは。これから精一杯お手伝いさせていただきます!」
元気な挨拶が返ってきたものの、どうも会話のテンポが悪い。
俺:「これまでの経緯はお聞きいただいてますか?」
イマイチな担当者:「あ、すみません、まだ把握していなくて…ちょっとお話いただけますか?」
……え、まだ把握してないの?窓口の方に散々色々話しているのに全く通じていない。
たった3人の会社で、提出した書類も限られているのに、何がそんなに複雑なんだ?この時点でさらに小さな不安が芽生えた。
それでも、「忙しいんだろう」と大目に見ることにした。
面談当日。気合十分の俺。
数日後、ついにその日が来た。M&A仲介会社担当者との直接面談の日だ。
彼が指定してきたのは、14時、場所は俺の会社の近くにある喫茶店。なんかいい感じの場所を選んでくるなと思いつつ、俺は気合を入れて準備を進めた。
スーツはもちろんビシッと決め、決算書のファイルを小脇に抱え、早めに喫茶店へ向かった。時間はまだ13時45分。俺、こう見えて真面目なんだよ。
店に入ると、まずはコーヒーを注文。そして、静かにスーツのしわを伸ばしながら、「この面談で会社の未来が決まるんだ」と仲介会社の面談にお関わらず気合を入れていた。
今思えば俺も甘かった。まるでプロポーズ前の彼氏みたいに緊張してたね。
14時…来ない。
さて、いよいよ約束の時間、14時。
俺は窓の外をちらちら見ながら、担当者の登場を待つ。しかし…来ない。時計を見る。14時5分。まだ来ない。
「ちょっと遅れてるのかな?」なんて思いつつ、スマホを取り出して連絡してみる。が、電話が繋がらない。
いやいや、待て待て。これってどういう状況?もしかして、俺、騙されてる?いや、M&A担当者だよね?詐欺とかじゃないよね?
14時20分。コーヒー、飲み干す。
さらに時は流れ、時計の針は14時20分を指していた。
俺はというと、最初に頼んだコーヒーをとっくに飲み干し、空になったカップを眺めながら深いため息をついていた。
「これって、あれだよね?完全に放置プレイだよね?」
心の中でそうつぶやきつつ、もう一度電話をかける。が、相変わらず繋がらない。いやいや、どうなってんだよ!俺の心の準備、返せ!
ついに電話が鳴る!…けど?
その瞬間、ついにスマホが震えた。画面を見ると、担当者からの着信だ。俺はほっとしながら電話に出た。
「申し訳ありません…日程を間違えていました。」
……え?日程、間違えてた?
一瞬、言葉の意味を理解するのに時間がかかったよ。「日程を間違える」って、なんだよそれ!? 今日14時って指定したの、そっちじゃん!
心の中でツッコミが止まらない
いやいや、待て待て。「日程を間違えていました」ってそんな軽い感じで言うなよ!こっちはコーヒー1杯飲み干して、窓の外を20分眺めてたんだぞ!って言いたくなる。
例えるなら、プロポーズの待ち合わせに相手が来ない上に、「あ、明日だったわ」って言われた気分だ。いや、そんな簡単に忘れられる!?って心の中で全力でツッコんだ。
イマイチ担当者との縁切り
その瞬間、俺の中で何かが崩れ落ちた。「大手なら安心」という思いは完全に消え去った。
担当者の名前はふせるが、、いや、本当にイマイチだ。これがギャグなら笑えるが、現実だと笑えない。俺はこの場で契約を進めるべきではないと確信した。
100万円を払わなくて良かった。心の底からそう思った。
次回、「それでも未来を探す」
こうして俺の最初のM&A交渉は幕を閉じた。しかし、物語はここで終わらない。俺にはまだ会社の未来を託す選択肢を探す旅が残されている。
続く
いいなと思ったら応援しよう!
