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第2回 仕入れ価格4倍と社内恋愛が会社を変えた日〜社長を続けたかった俺が、M&Aの道を選ぶ理由〜


「弱者の選択が、未来を作る」~逃げたけど、それも悪くない話~

M&Aを決断した理由を正直に書いておこうと思う。この話は、俺が逃げた話だ。そして、同時に希望を探した話でもある。

俺の会社は今年で7期目を迎え、来年の4月には8期目に突入する予定だった。社員はたった3名。小さいけれど温かい、家族みたいな会社だった。売上は1億弱。零細企業としては頑張っているほうだったと思う。俺たちは俺たちなりのペースで進んでいた。少なくとも、そんな気でいた。

でも、人生というのは本当に容赦がない。「順調だな」と思った瞬間に、後ろから蹴り飛ばされることがある。それが俺たちにも起こった。


社内恋愛と結婚が引き起こした「歪み」

社員3人中2人が結婚。これ、確率的にどうなんだ?

まず聞いてほしい。
社員が3人しかいないうちの会社で、そのうち2人が社内恋愛の末に結婚した。

これ、確率的にどうなんだ?なかなかないことだと思うがどうなんだろう?
大企業なら「おめでとうございます!」で終わる話かもしれない。でも、うちみたいな社員4人(俺を含む)の零細企業では、もう「職場の風向きが一気に変わる」レベルの大事件だ。

ちなみに俺は「社内恋愛禁止!」みたいな堅苦しいことは言うタイプじゃない。むしろ、「おめでとう!」と心から祝福した。
「この小さな会社で愛が芽生えるなんて素敵だ!」なんて思ったんだけどね…。まさか、それがこんな事態を引き起こすとは、その時は夢にも思わなかった。


幸せそうな二人、でも社内の空気は…

結婚した2人は本当に幸せそうだった。給料はぶっちゃけ高くはないけど、2人合わせれば世帯年収1000万円超えだし、年間休日も140日近くある。自由な働き方ができてるから、満足してるんだろうなと思ってたんだよ。

でもね、幸せの裏で、社内の空気は少しずつ変わり始めた。
3人で分担していた仕事が微妙に偏るようになり、なんとなくギクシャクしてきた。例えるなら、「2人だけで楽しんでるボードゲームに1人だけ加わった感じ」。俺、もはやオセロのコマくらいの存在感になってたんだ。


社員の要求がどんどんエスカレートする!

そして、ここからが地獄の始まりだった。結婚して生活が安定したからか、2人の要求がどんどんエスカレートしていったんだよね。

最初はこんな感じだった。
「成果が出てなくても給与を上げてほしい」
いやいや、なんでやねん!成果出さないと上がらないだろ、普通!

次に来たのがこれ。
「もっと福利厚生を充実させてほしい」
うちの福利厚生って、飲み物が自由に飲めるくらいのものなんだよ。それ以上、何を求めるのさ!?

さらに、こんな要求まで。

  • 「週4日勤務にしてください!」

  • 「旅行手当を出してください!」

  • 「在宅ワークのために机を買ってほしい!」

  • 「在宅用のソファー買っていいですか?」

いやいや、ちょっと待て!
「うちは零細企業だぞ!? そんな余裕あるわけないだろ!」って全力でツッコミたかったけど、結局心の中で叫ぶだけだった。てか在宅用のソファーってただの新居用の家具じゃないか…

極めつけはこれ。
「入職時に言ってたことと違う!詐欺師!」
いやいやいや、詐欺師って…。俺、経営者としてはかなり真面目な方だと思う。嘘偽りなく向き合い採用したつもりだが、こう思われてしまうのか。
この一言にはさすがにHSPの俺には「うっ…」と心が折れた。


社員を増やして状況を改善?無理無理!

この状況を「社員を増やして薄めればいいんじゃない?」って思う人もいるかもしれない。確かに、それが王道の解決策だ。でもね、俺にはそんな立派なマネジメント能力はない。

俺はただ、温かくて小さな会社を続けたかった。
大きな会社を目指す覚悟なんて、最初からなかったんだよ。例えるなら、「家庭菜園で小さなトマトを育ててたら、急に農場をやれって言われた」みたいなもんだ。無理でしょ。

これはのちに話すが出口戦略をしっかり考えなかった俺が悪かったと後悔した。


経営者としての恐怖と限界を知った日々

そんな俺でも一応「経営者」なんだ。だから、会社を守るために借入もしたし、口座からお金が消えていく怖さも知った。社員を増やすってことは、この恐怖がさらに増幅するってことだ。もう想像するだけで胃が痛い。

そして自分自身の片腕として社員を7期目まで育てたと思っていた。いつか俺の会社を継いでくれたら。しかし改めて本人達の意思を聞いてみると誰1人として社長になろうとは思っていなかった。そりゃそうだ。あえて茨の道を進むことなんてしないし、押し付ける事もできない。

ある日、ふと思った。
「これ、俺には無理だな。」

社員を守りたい、会社を続けたい。でも、その覚悟が俺には足りてなかったんだ。経営者としての限界を、俺はここで初めて感じた。


競合の価格攻撃と「勝てない戦い」

さらに追い打ちをかけてきたのは競合だった。ある日突然、彼らは仕入れ価格を一気に4倍に引き上げてきた。え?そんなことが本当にあるの?と目を疑ったが、それが現実だった。相手は上場会社。IR情報には恐ろしい記載があった。

俺たちは毎月数百万程度の仕入れ額だが、約110億使って仕入れをすると記載があった。影響は想像に容易い。

俺たちの会社はもともと零細企業だ。仕入れ価格が4倍になれば、俺たちの商品は市場に出る前に死んでしまう。売るための在庫すら確保できなくなった。

その頃、俺を詐欺師と呼んだ社員の1人が産休に入り、俺たちは社員2人で戦うことになった。俺を含めたって3人しかいない。少しも勝てる気がしなかった。いや、勝てるわけがなかった。


そして黒船がやってきた

さらに悪夢はとまらない。仕入れ価格が4倍になった瞬間にそもそも商品仕入れらないから売上は上がりにくい。

この悪夢に追い打ちをかける如くに黒船がやってきた。たった1年前に起業した会社が2年目にして200名を超える企業に成長し、同業界に参入してきた。

全く同じ業種。それは7年目で社員は3名、俺を含めて4名。そうだ!提携先の企業も含めれば10名はいるぞ!「へへーんだ!!」と強がってみたものの、たった2年で200名を超える社員数…

自信家だった俺もさすがに鼻を折られた。同じ経営者としてここまで違うのか。異業種ではなく、全くの同業種。そして黒船企業の経営者も同年代。これは心が折れる。

天才と言われ、神様と言われた俺は経営では赤ちゃんだったと痛感した。むしろ、俺は幻をみていたような感覚に陥った。成長する会社と、現状維持する会社。どちらが社会的に魅力的あといえば答えは簡単だ。

シンプルに思った。俺が経営している限り社員を不幸にしているんじゃないか。


「俺は無力だ」と感じた瞬間

商材が減る。黒船が攻めてくる。コストカットの必要もあるため福利厚生が減っていく。社員たちの不安はさらに募り、社内には「不安の種」が根を下ろした。それがじわじわと成長して、俺たちの行動を縛っていく。不安は結果を出させず、結果が出ないとさらに不安になる。そんな悪循環が続いた。

そのとき、俺は強く感じた。
「俺は無力だ」と。
自分がこの会社にとって、もはや不要な存在になっているような気がした。

俺がこの盤面をひっくり返すことはできない。しかし、もしかしたら誰かならできるかもしれない。優秀な経営者がこの会社を引き継ぎ、新しい道を切り開いてくれるかもしれない。


M&Aを決めた日

ある日、俺は決断した。自分が作った会社を手放すことを。

正直に言おう。この決断は、俺が「逃げた」話だ。
でも、同時にこれは俺が「信じた」話でもある。

自分がこの会社を救えないなら、俺より優れた誰かが救ってくれる。それがこの会社と社員たちにとって、最善の道だと思った。


弱さの中の希望

俺は強くない。優秀な経営者でもない。でも、それでいいんじゃないかと思っている。自分の弱さを認めたとき、未来が見えた気がするからだ。

「M&Aで会社を売るなんて恥ずかしい」と思う人がいるかもしれない。でも、俺はそうは思わない。自分の弱さを認め、会社の未来を信じて手放す。その決断が、俺にとっての希望だ。


これからの話

この物語はまだ終わっていない。M&Aの交渉は現在進行形だし、すんなりと終わる保証はどこにもない。それでも、俺は前を向いて進むしかないと思っている。

この記録が、同じように悩んでいる経営者や、これから独立を考えている人たちの力になれば嬉しい。そして、自分自身にとっても、これは人生の大切な足跡になるだろう。

だから、笑いながら、そして少し泣きながら、俺の物語を一緒に見届けてほしい。弱さもまた武器になる、そんな未来を信じて。


M&Aの会社に連絡してみた

M&Aを決断するというのは、実はそれだけで完結する話じゃない。「よし、会社を託そう!」と思っても、その次に待っているのは「誰に託すか」という新たな大冒険だ。

俺はまず、「M&Aの会社」に連絡を取ることにした。いや、正確にはその存在をネットで検索し、電話をかけたのだ。世の中には、こういう特殊な相談に乗ってくれるプロフェッショナルがいるらしい。ありがたい世の中だと思いつつ、俺の胸中は複雑だった。


最初の一歩が、一番怖い。

電話をかける前、俺はスマホを握りしめながらリビングをぐるぐる歩き回っていた。心の中では、こんな葛藤が渦巻いていた。

  • 「こんな小さな会社でも相手にしてくれるのか?」

  • 「『売る』なんて言ったら怒られるんじゃないか?」

  • 「そもそもM&Aって、どこからが合法でどこからが怪しいの?」

一方で、妙にポジティブな自分もいた。

  • 「いやいや、俺みたいなやつがいるからこそM&Aの会社は成り立つんじゃないか?」

  • 「これ、人生最大のドラマになるかも!」

  • 「もし映画化されたら俺の役は誰が演じる?」

こうして、迷いと妄想が交互に押し寄せる中、俺はようやく「発信」ボタンを押した。プルルル……と呼び出し音が鳴るたびに、鼓動が速くなる。相手が出る前に心臓が爆発するかと思った。


意外と優しい第一声。

電話に出たのは、落ち着いた声の男性だった。

「○○M&A会社(仮)です。お世話になっております。」

その瞬間、俺の緊張が一気にほぐれた。勝手に想像していた「お堅いビジネス戦士」のイメージとは違い、親しみやすい声だった。まるで、近所のおじさんが「どうした?何か困ってるのか?」と声をかけてくれるような感じだ。

「あ、あの、初めてお電話します。実は……その……会社を……」

声が震えすぎて、自分でも何を言っているのか分からなくなった。しかし、彼はその意味不明な言葉を見事に汲み取ってくれた。

「会社を売却したい、もしくはM&Aを検討されているということでしょうか?」

そうです!それです!俺が言いたかったのはまさにそれ!電話口で全力で頷いた。


M&Aの世界に足を踏み入れる

その後、簡単なヒアリングが始まった。会社の規模や業種、社員数、そして俺自身の希望などを伝えると、彼はこう言った。

「では、一度WEBでお会いして詳しくお話を伺えればと思います。」

え?もう会うの?あれ、これってもしかして、ちょっとした婚活みたいな流れなのか?
会社を売るどころか、「お見合い」みたいな雰囲気に突入しそうで、少し笑えてきた。

とはいえ、初めての「第一回のM&A相談自体」は思ったよりスムーズに進んだ。俺が想像していたような冷たいビジネスの世界ではなく、むしろ人間味が感じられるものだった。

ただしあくまで第一回の話。そしてここから複数のM&A会社と出会うことになるとはこの時は予想することはできなかった。


次回、「最大手M&A会社の担当者と初面談」編、開幕。

話はこんな綺麗に終わらない。なぜあえてnoteに記録を残し、同じ悩みを持っている経営者に伝えたいと思ったのかの理由もここにある。
M&Aの会社とのやり取りが始まったものの、これがまた一筋縄ではいかなかった。最初の相談こそスムーズだったが、その後は波乱万丈。俺の想像を超える出来事の連続だった。

実を言うと、ここにも面白い話が山ほどある。しかし、それはまた次のお話。俺なりの感性で、俺視点で描いているので、かなり誇張された部分もあるかもしれない。でも、これだけは言っておく。「あくまで事実に基づく話」だ。

M&A交渉の裏側で俺が何を見て、何を感じたのか。その全貌は、次回じっくり語らせてもらう。どうぞお楽しみに!

俺の人生最大のドラマは、まだ始まったばかりだ。

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