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吃音の話
私は保育園の頃から吃音で、中学生のときに完治したと思ったのに、高校になって、また復活してしまった。
同じフレーズを何度も言ってしまう、とか、最初の言葉を何度も重ねてしまう、とか、そういうタイプの吃音ではなく、本当に言葉が、単語が、一音も口から出てこなくなる。口の中が乾いていて、喉が締まるような、そんな吃音。
人前で発表するのが苦手。人と話すのが苦手。相手に反応できないときがある。挨拶を返せない時がある。お礼が上手く出てこないことだってある。弁解したいのに声が出ない。電話が苦手。全部吃音だから。
小学生のときはあまり思わなかったけれど、高校生になって心底思う。
二人で話すときは、話せそうな言葉に変えて、ウソをついたり、言い換えをしたり、忘れたー、なんて言って、誤魔化せる。さらに言えば、話さなければいいだけで、苦労することは少ない。
しかし、どうしてもしっかりと話さなければいけないときがある。
私は、中高一貫校に通っているのだが、元々この学校は、発表に力を入れている傾向にある。二ヶ月に一度、三ヶ月に一度くらいの頻度で、人前で発表する機会があった。
中学生の頃は、吃音が完治していたので、何も詰まることはなく、スラスラと発表できていた。
しかし、高校生になった今、発表の頻度はさらに落ち着いたものの、その発表の時間が本当に憂鬱で仕方がない。
吃ってしまう、話せなくなってしまう、それがわかっているから、本当にやりたくない。
そうはいっても、それを班員に伝えるのは、難しい。発表は、みんな好んでやりたいものでもないし、吃音だからといって、特別扱いしてもらえるほど、吃音に対しての理解は深くない。
他の人に任せて、なんとか回避できたとしても、一人で発表しないといけないタイミングはある。
例えば、日直のスピーチ。
明日の時間割、小テスト、日直スピーチ。これをクラスの前で話さないといけない。
今のクラスになってから、三度ほど、その機会があったが、結果は散々だった。
特にひどかったのは、一回目。
好きな映画、というお題でスピーチをする、という内容であったが、一言も声が出なかった。ハフハフと口を開けては閉じ、えーと、えーと、と言葉を繋げるが、それ以上出てこない。
心底死にたくなった。
先生が助け舟を出してくれて、なんとか発表をしたが、クラスメイトの顔を見れなかった。
さらに言えば、私は部長で、人前に出る機会が多い。
大きいところで言えば、新入生歓迎会。部長が出ないわけにはいかないし、アリーナのステージに立って、全校生徒が注目する中、詰まることなく喋らないといけない。
大プレッシャー。今年は先輩と一緒だったから、なんとか熟せたが、来年は私が主体。もう、無理。
たくさん練習も重ねたのに、本番になって、一言も出てこなくて、無音の空間が流れる、そんな想像をしてしまう。
でも、同時にそういう場面から逃げたくないという気持ちがある。それすらもできない自分が、情けなくてどうしようもなく泣きたくなるからだ。
吃音が復活して、本当に自分が情けなくて、死にたくなることがある。一生このままかもしれないと思うと、本当に苦しい。
就活とか、面接とか、どうするんだよ、人とまともに会話できなくてこの先どうすんの、大学で友だちできんのかよ、そういう不安が襲ってくる。
上手くいくときは上手く喋れるし、そういう運なのかもしれない。あんまり考えないように、どうせ相手は、私が、失敗しようとなんとも思わない、少し苛つかれたり、心配されるくらいどうってことない。
私よりも、吃音が重いひとがたくさんいて、重ければ失語症くらいまで行くひとがいることを知っている。だから、私は大丈夫。
そうやって自分を誤魔化してきた。
もっといえば、私のこれが吃音だけのせいではないのだって知っている。単純にコミュ力が低いことだったり、言い換えのワードが瞬時に出てこない頭の回転の遅さであったり、もっと自信を持った態度で挑めばいいこともわかってる。
でもやっぱり吃音って苦しい。