令和の百人一首 恋の巻 【秋の部】
三羽烏さんの令和の百人一首 恋の巻 秋の部に参加いたします。
字数制限が・・・。なんだか完成しちゃったので番外編として多めに見てもらえないでしょうか。いやダメか。でも惜しい。
君の愛せし歌は吾が歌
メタセコイアの2本の巨木がある校門を出た時には
秋の冷たい雨はさらに強まった。
君はすまなさそうに
「恋人じゃないので相合傘はできないよ」
と言った。
僕は出鼻をくじかれてしまった。
君は気持ち早足に駅へと続く道を歩く。
記憶には残っていないが、
僕はとりとめのない話をしていたと思う。
バイパス通りを横切って、
ファミリーマートの交差点で信号待ちして、
線路を跨ぐ道路橋の坂道を登り始めた時、
ついに僕は覚悟を決めて切り出した。
「あのね、その・・・君の事が好きなんだ」
君はとても困った顔をしてうつむいた。
「ごめんなさい。好きな人がいるの」
告白の昂揚感がまだ続いている。
事態を呑み込めないまま、あれこれと僕は言葉を続けた。
でも、もうゲームオーバーだった。
桜の花がつぼむ春まだ浅い入学式の日
君と僕は同じ教室の同じ列の席だった。
落とした消しゴムを拾ってくれたその瞬間から。
一目惚れだった。
君の事を知りたくて、でも話しかけられなくて
君が友達とする会話に耳を澄ませた。
ドリカムが好きな事、
カーペンターズが好きな事、
星空を見るのが好きな事、
詩が好きな事、
君と仲良くなりたくて、
君の好きなものを好きになった。
君に捧げる詩を何編も書いたり、
君をたくさん困らせて、傷つけた。
僕は完全にカッコ悪い、ダサい男だった。
あれから何回か恋をしたけれど、
あんなにピュアで悶え苦しむような恋はなかった。
あんなに辛く苦しい思いをしたのに。
僕は今でも、
ドリカムが好きだ
カーペンターズが好きだ
星空を見上げるのが好きだ。
そしてこうして詩を綴る。
傘を差す君にフラれしあの日より君の愛せし歌は吾が歌
日高梅月
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