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俺の「裸の王様」―「馬鹿には見えない服」を作った男のはなし
こんにちは!しゃばろくさんです。
童話「裸の王様」について思っていたことを書いてみました。
『裸の王様』は、デンマークの童話作家アンデルセンによる有名な物語。内容は、多くの人が知っていると思うので、簡単に思い出せるようにまとめると――
ある王様が、新しい服を作らせようと仕立屋を雇う。しかし、やってきた詐欺師たちは「馬鹿には見えない特別な服」を織っていると偽り、実際には何もない布を織るふりをする。王様や側近たちは、「服が見えない=馬鹿」と思われるのが怖くて、誰も「何も見えない」と言えない。そして王様はその“見えない服”をまとってパレードに出るが、誰も真実を口にできずにいる。だが、見栄や体裁を気にしない子どもが「王様は裸だ!」と叫び、皆がようやく真実に気づく……という話。
この寓話は、権威に対する盲目的な服従や、世間体を気にして真実を言えなくなる心理を風刺しており、現代でもさまざまな場面で引き合いに出されます。
でもこの「馬鹿には見えない服」もしほんとにあったとしたらどうなるんだろう…?
そんなことを考えたので、ショートショートにしてみました。
よかったら読んでみてください!
裸の王様
むかしむかし、ある国に、着飾ることが何よりも好きな王様がいました。王様は毎日、鏡の前に立ち、最も美しい衣装を身にまとうことだけを楽しみにしていました。
ある日、一人の職人が遠い異国からやってきました。彼は堂々とこう言いました。
「私は世界でただ一人、『馬鹿には見えない布』を織ることができる職人です。」
家来たちはざわめきました。「馬鹿には見えない?」そんな不思議な布が本当にあるのか。しかし、職人は確信に満ちた表情で、まるでそこに見事な布があるかのように指でなぞりながら言いました。
「この布は、知恵と聡明さを持つ者にしか見えません。王よ、あなたこそ、この世で最も聡明なお方。その目でご覧ください。」
王様は期待に満ちた目で職人の手元を見つめました。そして、瞬間、血の気が引きました。
王様には、何も見えませんでした。
しかし、王様は国中で最も賢いとされる身です。もし何も見えないと言えば、それは自らの愚かさを認めることになります。
「これは……なんと素晴らしい布だ!」
王様は高らかに宣言しました。家来たちも緊張した面持ちで職人の手元を見つめましたが、何も見えませんでした。しかし、王様が称賛した以上、逆らうわけにはいきません。
「本当に素晴らしい布でございます!」
「今まで見たこともないほどの繊細な織りですね!」
職人は満足げに頷きました。実際、この「馬鹿には見えない布」は本当に存在していました。ただし、作った本人である職人以外には誰にも見えなかったのです。なぜなら、この国には「賢い者」など一人もいなかったからです。
しかし、職人は疑うことすらしませんでした。なぜなら、誰もが嘘をつき、布が見えているかのように振る舞ったからです。 王が布を称賛し、家来たちも口々に褒めました。職人にとって、それは「この国には知恵ある者がいる」という証拠に思えました。彼は、すべての人が馬鹿であるという可能性を考えもしなかったのです。
仕立てと試着
王様は職人に命じて、さっそくその布を使って新しい衣装を仕立てさせました。職人は細心の注意を払って布を裁ち、針を動かし、糸を通し、まるで見えない布を縫い合わせるように仕立てました。
数日後、完成した衣装を王様に手渡しました。
「これが王様のために仕立てた衣装でございます。」
王様は慎重に手を伸ばしましたが、何も感じられませんでした。しかし、ここで「何もない」と言うわけにはいきません。
「うむ……驚くほど軽やかで、肌に優しいな。」
家来たちも慌てて賛同しました。
「まことに! まるで何も着ていないかのような、極上の着心地でございます!」
「さすがは王様にふさわしい衣装!」
王様は満足げに鏡の前に立ちました。鏡には裸の自分が映っていましたが、それを認めることはできませんでした。
「では、この素晴らしい衣装を国中に披露しよう。明日は盛大なパレードを開く!」
家来たちは顔を引きつらせながらも、深く頭を下げました。誰一人として「王は裸だ」と言える者はいませんでした。
パレードと真実
翌日、王様は堂々と馬車に乗り、城門を出ました。群衆は道の両脇に詰めかけ、新しい衣装をひと目見ようと待ち構えていました。
王様は誇らしげに馬車から降り、堂々と歩き出しました。王冠をかぶり、背筋を伸ばし、堂々と行進する王の姿は威厳に満ちて……いや、あまりにも滑稽でした。
王は裸でした。
しかし、群衆はそれを直視できませんでした。
「なんて美しい衣装なんだ!」
「まるで夜空に輝く星を織り込んだかのようだ!」
「王の品格にふさわしい装いです!」
誰もが見えているふりをしました。誰もが心の奥で不安に思いながら、それでも「見えている」と口にするしかありませんでした。
「まさに王にふさわしい華やかさ……!」
(完全に裸に見えるが、私がおかしいのか……? 私だけが馬鹿だということなのか……?)
誰もが自分の心に疑問を抱きながらも、周りの様子を伺い、言葉を飲み込み、賞賛の声を続けました。
しかし、そんな大人たちの様子を、ある子供がじっと見ていました。
そして、その子供は思わず叫びました。
「王様は裸だ!」
その言葉が広場に響き渡ると、人々は互いに顔を見合わせました。誰一人として、王の衣装が見えていなかったことに気づきました。しかし、誰も最初に口にする勇気がなく、周囲の反応を伺うように視線を交わしました。
沈黙の中で、ひとりの貴族が震える声で呟きました。
「……私にも、何も見えていなかった……。」
それを聞いた衛兵の一人が目を見開き、戸惑いながら頷きました。
「俺も……見えてなかった……。」
次第に、広場のあちこちで声が上がりました。
「私も……!」
「私もだ……!」
「じゃあ、誰も服を見ていなかったのか……?」
職人の最期
「貴様……貴様ぁぁ!!」
王様の怒声が広場に響き渡りました。
「この私を騙し、裸で歩かせ、国中に恥をかかせたな!!」
彼の顔は怒りに満ち、震える手で職人を指さしました。
「この男は詐欺師だ!衛兵、捕えよ!」
職人は呆然と立ち尽くしました。
「ま、待て! 私は本当に『馬鹿には見えない布』を織ったのだ! お前たちがそれを見たと言ったではないか!」
しかし、誰も耳を貸しませんでした。民衆の怒号が次々に飛びます。
「最初から服なんてなかったんだ!」
「騙されたんだ、俺たちは!」
「処刑しろ!」
王様は歯を食いしばりながら叫びました。
「この男のせいで、私が笑い者になったのだ! 今すぐ、首をはねろ!」
衛兵たちが職人を取り囲みました。その瞬間、職人はようやく悟りました。
——この国の者は、誰もが馬鹿だったのです。
彼は、目の前の人々を見渡しました。恐怖に駆られた王、今さらながらに真実を叫ぶ家来たち、そして歓喜に満ちた顔で処刑を求める民衆。
この国の者は、誰一人として布が見えていなかったのです。
彼らはただ、それを認める勇気がなかっただけなのです。
「……私は、ここでは生きられぬ運命だったのだな。」
職人は静かに呟きました。
彼は王宮の地下牢に投げ込まれ、翌朝、王の命により首を刎ねられました。
その瞬間、遠くで静かに吹く風に乗り、かすかに一枚の見えない布がふわりと宙を舞いました。
しかし、それを見た者は、もう誰もいませんでした。
エピローグ
王様は新しい服を注文し、今度は本当に絹の衣装を着るようになりました。臣下たちも、民衆も、ようやく正しい判断を取り戻したと安堵しました。
しかし、誰もが一つの真実に気づかないままでした。
——「馬鹿には見えない服」は、本当に存在していました。
——ただ、この国には賢い者など、一人もいなかっただけのことだったのです。
いかがだったでしょうか!
「馬鹿には見えない服」、意外といろんなところにあるよなと思う今日この頃です!
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