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心拍数と時間の流れの関係 TED『How your heartbeat shapes your experience of time』 要約と感想

要約

 認知神経科学の研究者であるArslanova氏は、人の時間の感じ方と鼓動には関連があることを提唱している。
 時間は脳の働きにより作られる概念で誰しも常に直面しているものだ。
 時間の長さの感じ方が、楽しい時間を過ごしている場合と退屈な時間を過ごしている場合とで異なる経験は誰にでもあると思う。
 これは基本的に心理学的な時間とされているものだが、なぜこのような差異が生じるのかは非常に興味深い。このTED Talkでは、科学的な視点からこのトピックに対する理解を深めるヒントを与えてくれる。

 時間は脳の働きによってのみ作り出されるものではなく、体全体を通して作り出されるものだという。私達は周囲の情報を感覚器官を通して知覚し、脳でその刺激を処理している。
 しかし、脳はそもそも私達の身体を正常に維持するために常時活動している。
 したがって、外側からの刺激の処理と同時に身体の内側からの刺激を受け取り処理している。これは、脳で認識される時間が外部からの影響と同時に身体内部からの影響を受けていると言い換えることができる。もちろん鼓動もその一つであるし、心臓は脳に血液を送り、酸素を供給する役割も果たしている。脳では感覚神経と運動神経を別々で処理しているため、人には知覚モードと活動モードの2つがあると考えられ、感覚の知覚が優位な場合には鼓動は収まり、運動などの動きを生じる場合には鼓動は早くなる。
 これは経験上理解できることであると思う。実はこのことが時間の感じ方に影響している。ここで紹介している実験では、67名の被験者にシンプルな音を聴いている時、シンプルな形の画像を見ている時、色々な表情の人の画像を見ている時とで時間の長さの感じ方がどのようになったかを調べている。この時、被験者を心電図に繋ぎ鼓動の状態を観察しながら、心臓が収縮および拡張したタイミングで突然前述の刺激が発生するようにする。
 その結果、心臓が収縮した際に起こった刺激が知覚される時間の長さは、リラックスした状態の時よりも短くなることがわかったようだ。これはつまり、心臓の収縮が脳の活動に影響を与え、刺激を知覚する時間を短くし、鼓動の間隔によって時間の感じ方が変化することを意味する。心臓の活動が活発である場合、感覚的な時間の感じ方は短くなり、心臓の活動がゆっくりしている場合では、時間の感じ方は長くなる。前述したように知覚モードと活動モードを繰り返しながら人は生きているため、時間の長さの感じ方に差異がある。もし退屈を感じ、時間が過ぎないと思っているならきっとそれは、なにか新しいことを知覚して吸収するチャンスかもしれない。

感想

 時間とは不思議なものだ。多くの人が頭を悩ませる問題であると思う。アンリ・ベルクソン 「時間と自由」、マルティン・ハイデガー 「存在と時間」、トーマス・マン 「魔の山」、ミヒャエル・エンデ 「モモ」 例はたくさんあると思うが、哲学書や小説などでも時間に関連した作品は多い。
 私自身もハンス・カストルプのように時間について思考を巡らせた経験はある。もちろん相対性理論により理解される部分もあるが、物理学的にそもそも時間は存在しないという意見もある。物理的な詳細は、私にはよくわからないが、現在ある宇宙は熱力学第二法則に従いエントロピー増大の方向に向い、現状秩序を保っている物質のその均衡は永続せず、常にカオスへと発散していくという感覚は理解できる。
 私達を構成している細胞は細胞膜により外部との境界線を設け、その境界内において代謝を行い、秩序を保っている。しかし、一定期間が経過すると細胞は壊れ、外との境界を築くことができず、周りへの環境へと溶けていく。これは人の身体が土に戻っていくことからよくわかる。スティーブン・ホーキング博士は時間には三種類あり、熱力学的な時間、心理学的な時間、宇宙論的な時間があるという。
 今回、TED Talkで話されていたのは、心理学的な時間であると考えられる。楽しければ、早く時間が過ぎてしまい、退屈であれば時間が長く感じるのは当然のようだが、これに対して科学的なエビデンスが得られたというのは非常に興味深い話ではないだろうか。
 最近では、多忙で時間がなく、タイパを重視する傾向が顕著になっていると話題に上る。そして瞑想が人生のQOLを上げてくれると広く言われている。このTED Talkから、瞑想により知覚モードへの移行を促し、感覚刺激の知覚時間を増やすことでより多くの気づきと落ち着き、焦燥感の排除につながっていくということがわかってくる。灰色の男たちから逃げるためのヒントが転がっているのだろう。



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