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不健康な食事と個人の責任

健康な食生活に関する不平等を、環境要因から分析した研究がある(*1)。この研究では、不健康とされる食事が、必ずしも自らの意志によってそれを選択しているのではなく、抗えない環境的な事象から生じていることを示唆している。ヒトの行動の多くは個人の意志や努力によって決まってはおらず、習慣により決定されていて、食生活に関してもこれが当てはまる。また、恵まれない環境にいる人々がジャンクフードなどの加工食品を健康に良いと考えていたり、果物や野菜を選択的に食べようとしないわけではない。だからこそ、不健康な食生活を送る人々の社会的決定要因を明らかにする必要がある。
この研究で焦点が当てられたのは、調理に関するスキル、調理器具や家具などの用具である。これらを、経済的に裕福な人々と経済的に余裕のない人々で比較すると、前者では、周囲に料理をする人々が多く、どこかで調理しているところを見たというような経験値が備わっており、より楽に調理を行うことができる。さらに、多くの調理器具を持っているため、調理法の広範さ、後片付けの気楽さなどが、それらを持たない人々に比べ優っているので、調理への障壁がさらに低くなる。それに対し、経済的に余裕のない人々は、調理に関する知見があまりないために、そもそも何を作るべきかを決定するのが難しく、加えて調理に失敗した際に、その失敗を補うための別の食事を用意することができない。この結果、調理をする機会はますます減っていき、経済的な差による食生活の格差がさらに増大していく。また、家具について見てみると、経済的に余裕のない家庭では、テーブルは基本的に1つしかなく、食事をするテーブルを机としても使用していたり、家族全員が座るためのイスが不足していたりする。このため、ソファなどに座って持ったまま食することのできる加工食品が好まれるようになる。このような些細な差異によっても食生活の質に大きな違いが生じることがわかる。もちろん、健康的な食品は比較的価格が高く(*2)、ジャンクフードなどは相対的に入手しやすいという事実もある(*3)。
不健康な食生活に対し、これまで行われてきた対策は、適切な情報に誰もが平等にアクセスできようにするというものだった。健康的な食生活とは何なのか、さらにその重要性を知れば、そのような食生活をしていない人々の行動が変わるはずだという認識がある。しかしそのようなやり方は、情報を提供しているのだから、その後の選択は全て個人の責任だという個人主義的な性向を助長する。多くの人々が、個人の意志力だけでは乗り越えることのできない無意識的な要素に目を向け、適切な理解を進めていくべきである。




(*1) van Kesteren, R., & Evans, A. (2024). Hidden inequalities of ease: A practice-theoretical approach to understanding the links between social deprivation and diet. Journal of Consumer Culture, 0(0). https://doi.org/10.1177/14695405241290917

(*2) Darmon N, Drewnowski A. Contribution of food prices and diet cost to socioeconomic disparities in diet quality and health: a systematic review and analysis. Nutr Rev. 2015 Oct;73(10):643-60. doi: 10.1093/nutrit/nuv027. Epub 2015 Aug 25. PMID: 26307238; PMCID: PMC4586446.

(*3) Maguire ER, Burgoine T, Monsivais P. Area deprivation and the food environment over time: A repeated cross-sectional study on takeaway outlet density and supermarket presence in Norfolk, UK, 1990-2008. Health Place. 2015 May;33:142-7. doi: 10.1016/j.healthplace.2015.02.012. Epub 2015 Apr 2. PMID: 25841285; PMCID: PMC4415115.



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