自然と共に生きる大切さ - UNEPが実施しているコロナ禍における廃棄物管理 -
1.はじめに
今回は、地球環境戦略研究機関(IGES)が毎年開催している持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)2020年に参加することになったので、その記事を書いてみたいと思います。僕は過去に3~4回ぐらい参加し、多くの人とサステナブルに関する幅の広い議論がある貴重な機会でした。今回はオンライン開催なので、どこまであの臨場感・緊張感の中の議論ができるかわかりませんが、参加するのが楽しみです。
今年の全体テーマは、「アジア太平洋地域での持続可能な社会構築に向けた公正な移行:COVID-19を越えてより良い未来を創る」です。やはり今年はこれが重要でしょう。コロナ禍において暗いニュースやその重くなる現状を見るよりも、起きてしまったことを学びの場として、明るい未来を目指すことが重要です。ISAP2020のコンセプトノートにも、「この状況にあって、いかに私たちの社会をリ・デザインするか、また、私たちの社会をより持続可能なものに変えていくか、考えるべき時に来ています。」「単なる「変革」ではなく、持続可能で回復力のある(レジリエントな)社会への公正かつ包摂的な移行」と、いわば現代版ルネッサンスを伺えるような未来志向がたくさん詰まっています。ここを乗り切る事、そして一番肝心なのが、私たちが完全に忘れていたこと、それは人間社会も自然と一体化でなければならない、という原理原則に基づいた未来社会へ一歩ずつ向かうことが必要です。
僕が参加することになったセッションは、Waste Management in response to Covid-19: Exploring ways of response and recovery、日本語にすると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を受けての廃棄物管理: 対応から復興へ、となります。なぜ廃棄物が重要か?それはこの予期せぬ事態、しかも世界的大流行に伴い廃棄物の排出パターンが大きく変わり、しかも感染防止対策を講じていかなければならない、という新たなチャレンジがのしかかってきています。
今回は二つの依頼があって、一つはUNEPの廃棄物管理を中心とした新型コロナウイルス対策に関するプレゼンと、その他専門家の方とのパネルディスカッションの役割があります。関連情報を基に僕が考えたシナリオは以下の通りです。
2.新型コロナウイルスに対するUNEPの動き
2.1 UNEPは環境と皆さんとともに
2020年1月1日、今年も希望に満ちた年を迎えた。今年は国連が誕生してから75年という節目の年。そしてSDGsが採択されてから5年がたち、これからの10年も頑張っていこうと心に誓っていた。今年はポスト2020生物多様性枠組策定、2020国連海洋会議、国連総会における国連自然サミット、ポスト国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)そしてグラスコーでの国連気候変動枠組条約締約国会議COP26と、私たちの地球を守るための多国間交渉会議が予定されていた。この国連が誕生して75年目の節目を迎えた2020年は、SDGsに向けて、パリ協定に向けて、そして生物多様性を守るために非常に重要な年になるはずであった。もう一つ重要な計画として、私たちのUNEPが誕生して50年となる2022年に向けて、様々な準備を始める年となるはずだったことも。その希望に満ちた年を迎えた時、これらの希望は期待を完全に打ち砕く火種がくすぶっていたことには、誰も注意をしていませんでした。
それから数週間もたたないうちに、この火種が大きくなることが目に見えてきたため、UNEPでは危機管理チームを立ち上げ、UNEPの総力を集めて、この世界的な危機に立ち向かうことになった。ここで一番重要なのは、科学的根拠に基づいた政策的・技術的なアプローチをとる事。これを大前提としてUNEPは世界的に感染拡大した新型コロナウイルスに対策に着手した。
この世界的大流行となった新型コロナウィルスは、人と自然環境は一体化であることが改めて認識させられた。すべての小さな要因はすべてつながっている。地球の声は普段は小さいが、その声はだんだんと大きくなり、人間が聞こえる時には大惨事となっている。気候変動もしかり、生物多様性の損失もしかり、すべて人間による自然破壊から生じている。でも、残念ながら人間は、常に目先の利益に惑わされてしまい、その利益が得られたあとの長い年月が経って出てくる負の利益をいつも忘れている。でも立ち止まってみてください、豊かな自然は人間の健康に不可欠であるということを、心から見る大切さ。
UNEPは、新型コロナウイルス対策に着手するにあたり、本来あるべき姿、いかに持続可能な地球へ戻していくかに重点を置いている。気候変動対策、生物多様性対策、そして環境汚染の3つを地球的危機と位置づけ、地球環境を守る対策を実施ならない。
もう一つ重要なことがあります。もちろんCOVID-19では私たちの常識が反転した、常識が非常識に、非常識が常識になり、多くの暗いニュースが世の中を占めています。でもこのように考えてはどうでしょうか?環境を見直すきっかけになった、自然との関りを大切にし、より世界を築いていくことに気が付かされた、と。
2.2 コロナ禍における廃棄物について
UNEPは以下の4つの柱を設定し、新型コロナウイルス対策を実施することにした。①医療と人道的な緊急事態フェーズ、②自然と人への変革、③未来に向けた投資、④地球環境カバナンスの近代化。柱建てはされなかったが、これらの4つの柱に共通した重要な課題がある。それが、廃棄物管理。
新型コロナウィルスの影響を受け、感染拡大防止のために都市封鎖、限定的な経済活動、制約された中での教育の実施など、普通の生活が非日常に変わった。でもその中でもエッシェンシャルワーカーと呼ばれる人たちは、日々コロナへの感染を恐れながら、市民生活を守るために仕事を続けている。廃棄物管理も人間社会におけるエッセンシャル事業。いくら都市封鎖と言っても、いくら在宅勤務と言っても人々は毎日何らかの廃棄物を出す。オフィスや商業施設、公共施設から発生する廃棄物の量は減ったが、その分家庭から排出される廃棄物の量は激増した。そして新たな問題が出てきた。それが、今日の主テーマであるコロナ禍における廃棄物管理の現状とあり方。
廃棄物の世界でも誰も新型コロナウイルスの発生を予想していない状況、見えない敵が発生し、緊急事態発生である。見えない敵と戦いつつも、その見えない敵が隠れているかもしれない廃棄物を、環境上適正な管理を続けていかなければならない。しかも、マスクや手袋、使い捨て容器などの廃棄物が急増し、プラスチック問題に関する解決方法をRethinkそしてRedesignしなければならなくなった。また、世界での感染者数が5000万件近くなり、病院等から排出されるコロナウイルス感染性廃棄物の量も莫大に増えてきた。
2019年の断定数値ではあるが、2019年中に世界中で発生した全廃棄物量は約530億トン、そのうち、産業廃棄物が約354億トン(67%)、一般廃棄物が約21億トン(4%)、有害廃棄物が約8.9億トン(2%)、医療廃棄物が約7.7億トン(1%)である。この数値が新型コロナウイルスの影響を受けどのように変わるかは現時点では不明であるが、人口増加に伴う自然増加に加えて、新型コロナウイルスの影響を受け医療系廃棄物は増えるであろう。2019年に発生した約21億トンの一般廃棄物のうち半分は管理が十分されていない処分場に投棄され、廃棄物発電処理が1.2%、単純焼却が15.2%、リサイクルが22.2%、管理型埋立処分が11.4%である。なお、これは世界平均値であり、低所得国においては一般廃棄物の約93%は管理が十分されていない処分場に投棄されているのが現状である。これらの国での廃棄物管理の現状、そしてコロナ関連の廃棄物の現状が深刻であることが、目に見えて想像できる、その恐ろしい現実が。この現状を考えると、新型コロナウイルスの影響を受けた2020年以降の廃棄物管理の状況は、以下の2点が考えられる。①今のところ終わりの見えないコロナ禍において廃棄物管理をどのように実施していくか?②必要な環境技術とはどのようなものか?この二つの問いを基に今後の対策を考えていきたい。
2.3 廃棄物管理の現状を踏まえた今後のUNEPの対策
①今のところ終わりの見えないコロナ禍において廃棄物管理をどのように実施していくか?
日本では第3波の兆候が見られ、欧米では第2波のまま感染者数が急速に拡大、ロックダウン2.0ともいわれている。アジアでは増えている国もあれば、抑え込んでいる国もある。いずれにせよ、もしかしたら数年という単位になるかもしれないが、新型コロナ対策を踏まえた緊急事態における廃棄物管理対策・体制の構築が必要だ。この考え方は、災害廃棄物対策の考え方と似ている。しかし自然災害による災害廃棄物対策と、今回の新型コロナウィルスによる廃棄物対策は基本的な考え方が異なる。自然災害による災害廃棄物対策は、何らかの自然災害が発生した後の事後処理となるため、災害廃棄物量と自国が保有している廃棄物処理体制・実施可能な容量から、具体的な計画を立ててそれに基づき処理が可能である。一方、今回のような新型コロナウィルスによる廃棄物管理は、いつ終わるのか、どのような廃棄物がどこからどのように排出されるか見通すことは難しい。しかも一般ごみの中にも感染の可能性があるかもしれない廃棄物が混ざっている可能性が高いため、感染拡大を抑えるための手段が必要である。各国・各都市で廃棄物対策・状況は異なるが、今ある廃棄物管理体制、その中でも環境上適正な管理・技術と認識できる使用可能なありとあらゆる施設等を最大限に活用することが重要である。ここで学ぶ点は、通常の廃棄物管理体制の一部に緊急対策手法を入れ込んでおくこと、各処理施設の容量の把握、包括的な緊急対応体制を構築していくことである。
②必要な環境技術とはどのようなものか?
新型コロナウイルスが終息するまでは、既存の処理施設をフル稼働させなければならない。ここには二つのポイントがある。一つ目は一般廃棄物について。生活習慣の変化によりその量は増えてきていると思われるため、既存の廃棄物発電や焼却施設、処分場において適正に処理を行っていかなければならない。でもここで忘れてはいけないのが、循環型社会形成に向けたアプローチもしっかり行うことである。日本が推進している3R(Reduce、Reuse、Recycle)に加えてもう一つのR、Recoverも必要である。資源をリサイクルする以上に資源をアップサイクルに使う、リサイクル資源の価値を高める、元の素材の特性を回収するということも必要だ。いうなれば、3RのRethinkである。
二つ目は医療系廃棄物管理体制を改善していくこと。もちろん、医療廃棄物管理・処理体制はその病院ごと、地域ごと、国ごとで異なるが、こちらも可能な限りの環境上適正な環境技術と言えるものを活用していかなければならない。しかし、低所得国や中低所得国では、医療廃棄物処理技術が十分にそろっていない場合が多いため、どのような医療廃棄物処理技術を導入していくかということも同時に進めていかなければならない。そこには、過去の信頼された技術を導入するのか、最先端技術を導入するのか、自らの能力にあったシンプルな技術を導入していくのか、それを持続的に運用していく体制は整っているのか等の包括的なアセスメントが重要である。しかも終わりが見えぬ戦いの中では、緊急事態として整えるべき技術、短期的・中期的に必要な技術、将来の新たな同じようなケースに対応するための長期的に必要な技術を明確にしていくことが重要だ。
2.4 今回の新型コロナウイルスから何を学ぶべきか?
ここには大きく分けて二つのポイント。一つ目は廃棄物管理として学ぶべきことを考えた場合。今私たちは終わりが見えない戦いに挑んでいること、その戦いの中でも廃棄物は排出され続けていること。まだ全体的な様子やその影響が把握できていないが、一般廃棄物発生の増加や、もしかしたらそこには新型コロナウイルスが存在しているかも仕入れない状況ということ。病院等の医療施設は世界的な患者数の爆発的な増加により、そこから排出される医療系廃棄物の量も増加傾向であること。新型コロナウイルスの世界的大流行が始まってからもうすぐ1年が経とうとしているが、その終息の傾向はみられないことから、当面はこの緊急事態における廃棄物管理体制を続けていかなければならない。このためには、既存で利用可能なものを最大限活用していきながら、将来起こるかもしれない同じような緊急事態に備えていく準備、その緊急状態に耐えられる、Reislienceな廃棄物体制をRedesignしなければならない。
もう一つは、私たちの暮らしそのものを見つめなおすというもの、つまり生活のRethink。今回の新型コロナウイルスの発生源は諸説あるものの、基本的には、過去数百年間、人間が環境を汚染し続けてきた一つの結果であると言える。しかもこの結果は、今私たちの生活を取り巻いている地球規模課題の環境汚染問題、つまり、気候変動、生物多様性、汚染のほんの一部でしかない。新型コロナウイルスは、人々の健康状態と地球の環境汚染度が密接につながっていることを再認識させる事態である。人の生活と人が築き上げた人間社会は、本来は地球と一体化していなければならないが、私たちの人間社会は既に地球の持っている地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)を越えている。人間は何なのか、というのをもう一度考えなければならないタイミング。人間社会と自然が一体になる、つまり私たちの社会が完全にサステナブルにならない限りは、将来、またこのようなウイルスとの闘いが起こるであろう。