あなたのそのスマホ、いずれE-wasteになります。
1.はじめに
E-waste、日本語でいうと電気電子機器廃棄物、つまりスマホやパソコンなど、電気を使って動かすデバイス全ての廃棄物です。私たちが使っているものは最終的には廃棄物になります。人間の使ったものはすべてごみになる、300年前まではそのごみもすべて自然に戻っていく、人間の生活も自然と一体化していたサステナブルなものでした。でもE-wasteはそうはいきません。スマホをポイ捨て、する人はいないと思いますが、土に埋めてもプラスチック系素材は数百年すれば一応分解される、無機系素材は数千年はそのまま残る、という全くをもって人工物の証です。
E-waste、ここ20年で地球規模課題になっている廃棄物問題です。少なくとも20年近くE-wasteは問題だと国際的な喫緊課題となっていますが、他の廃棄物問題と同じように、いつまでたっても問題は問題であり続ける症候群です。すべての問題解決に共通すること、それは根元を断つこと。でも根元を断つことができない場合は?その問題は起き続けることになります。皆さん、明日からスマホを使わないでください、という生活は想像できませんよね。スマホがあるからこのような便利な暮らしがある、スマホがあるから世界が一つにつながるこの日常。逆に、今はスマホを活用したデジタル化社会が必要である、つまりSociety 5.0の時代に入りつつあります。ということは、これからますます電子機器のサイズは超小型化になり、ありとあらゆるところに張り巡らされたセンサーとネットワークをフル活用した、スマートシティーへのシフトが始まっています。ということは、今後もE-wasteは増える一方でしょう。
実は、僕はこの世界に入ったときに出会ったのがE-waste問題。さかのぼる事2003年4月。僕は中国大陸に降り立ちました。その1か月前に晴れて博士号を取得したけど、日本国内では全く就職先が見つからず、たどり着いたのが清華大学、当時の環境工程系、今の環境学院での博士研究員、つまりポスドクでした。そこで始めたのがE-wasteに関する研究。もう一つ帽子をかぶったのが、バーゼル条約地域センターでの助教ポスト。バーゼル条約におけるE-waste関連プロジェクトにも携わりました。そこからE-wasteはライフワークのようになり、国立水俣病総合研究時代には、E-wasteモニタリングのフィールドワーク、環境省本省ではバーゼル条約交渉官や国際的なE-waste管理プロジェクト、例えばアメリカ環境庁と台湾環境局が立ち上げた国際的なE-waste管理ネットワークの立ち上げに参画したり、国連大と共著で東南アジアにおけるE-wasteモニターを作成しました。なので、個人的には、かなり深くかかわってきたのがE-waste管理問題です。
でも、そこから17年経って、未だに解決すら見えないのがこのE-waste問題。
さて前置きが長くなってしまいましたが、今回は、UNEPの西アジアオフィスが開催するアラブ地域におけるE-waste管理に関するワークショップで、日本のE-wasteの話しをしてほしいと依頼があったので、その準備ノートです。
2.日本人とE-wasteについて
私は職業柄、常日頃、国境や国籍、性別、宗教関係なく仕事をしています。日本人以外の同僚からは、日本人の風習や感覚は不思議に見えることが多々あるそうです。その一つが、日本人のイメージ。日本はいつも最先端のデバイスを生み出し、洗練された国である。日本人の頭も電子部品でできているのか、とよく同僚から冗談を聞かれます。その時、私はいつも、「そう、日本人の頭の中は電子部品でできているよ。でも英語は苦手」と答えるようにしています。
日本は過去に深刻な公害時代がありました。1950年代後半から1960年代にかけて、高度経済成長期がまさにその公害時代でした。でも当時はだれでも、経済成長には多少の公害があるのは当たり前、大気が汚れようが、河川が汚れようが、それは経済発展の証である、と考えていました。今から考えると、恐ろしい発想でした。でもその考えが間違っていたことに、後から気が付きます。日本の小学校の教科書には4代公害が載っています。①イタイイタイ病、②水俣病、③新潟水俣病、④四日市喘息。水俣病、水俣条約として永遠と名を残すことになったきっかけの水俣病は、まさしく経済発展のはざまで発生した公害病で、当時1億円かけて水銀入り排水を適正に処理していれば、4000億円もの被害を出すことはありませんでした。
その日本でさえ、E-wasteは1990年代前半まで埋め立て処分していました。それをやめるきっかけとなったのが、処分場確保問題。狭い国土の日本は広大な埋め立て処分用土地を確保することが不可能となってきました。また、1990年代は、日本も景気後退・経済低迷時代を迎え、大量生産・大量消費の資本主義経済の転換期を迎えていました。その一つの産業が、アジアの国に負けだしてきた精錬工場、この技術を別な分野に応用して日本の新たな産業を創り出すべき機運が高まってきました。またこの時期において、日本もようやくE-wasteは埋め立てるべきではない、そこに資源価値が多く含まれている、これをリサイクルすることで新たな産業が生み出され、今後社会の中心となるであろうグリーンエコノミーを作り上げる布石になるのでは、という潮流も生まれてきました。そして1998年に家電リサイクル法が設立され、日本でも本格的なE-waste管理体制が始まりました。
3.日本におけるE-waste管理体制は?
そこから20年経ってますが、日本の廃棄物法体系はほとんど変わっていません。家電リサイクル法と小型家電リサイクル法は環境基本法の中に組み込まれています。つまり、他の環境分野とリンクさせている全体論的な環境管理体制の中に、統合的な廃棄物管理制度が成り立っています。
教科書的にはなりますが、ごく簡単に家電リサイクル法と小型家電リサイクル法を説明します。家電リサイクル法では、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機をユーザーが排出時にリサイクル料金(2000円から3000円程度)を払って指定業者に引き取ってもらい、リサイクラーが適正にリサイクルするというもの。小型家電リサイクル法では、スマホのような小型電子デバイスを市町村や店舗にある回収ボックスで回収して、適正にリサイクルを実施することです。リサイクル費用は拡大生産者責任ポリシー、実際は商品の中にコストを入れ込んでいます。
4.その結果は?
では20年間の成果はどうでしょうか?データで見てみましょう。大体コンスタントに1000万台程度の家電を集めています。2010年頃CRTモニターが一気に増えたのは、省エネをにらんで日本政府が省エネモニターに買い替えを推進した結果です。これらの家電のリサイクル率は法廷目標を上回る80~90%を超えています。データから見れば、家電リサイクル法は順調に実施されてきたと言えます。
では、2013年に始まった小型家電リサイクル法はどうでしょうか?開始以降、順調に回収量も右肩上がりで増えてきています。小型家電の回収ボックスは、家電量販店、スマホショップ、ショッピングモール、市役所などで多く見かけますし、なんせ本体そのものが小さいので持っていきやすいということもあり、その実施状況も順調でしょう。1年延期となりましたが、東京オリンピック・パラリンピックのメダルも貴金属類を多く使用している小型家電からリサイクルされた金を使用して製造されたので、より多くの人に小型家電のリサイクル活動を知ってもらえたと思います。
でも順調に進んでいる実施状況の裏には、もちろん課題もあります。以下課題です。
①廃棄物なのか中古機器なのか?:これは非常に難しい問題です。新製品が大好きな日本人、そして新製品が中心の日本マーケットから出てくる「比較的新しい中古品」は、海外市場でニーズが高い。皆さんも目にしたことがあると思います、中古品無料引き取り軽トラ。気を付けてください、この業者さんは無許可かもしれません。そして引き取られた中古家電はどこに行くかというと、主に海外市場に流れています。もちろん、これが許可された業者さんで全てのルールに則った取引であれば問題はありませんが、中には完全に壊れた中古家電=E-wasteをそのまま海外へ輸出している取引もあります。これは完全に国際条約ルール違反です。
②不法投棄:残念ながら日本でも不法投棄事件があります。産業廃棄物だと年間100~200件程度、と街中でみるポイ捨ても立派な不法投棄事件ですので、皆さんご注意を。家電の不法投棄は大体年間4万から6万台は発生しています。家電リサイクルルートで回収された家電と比べると約0.5%ぐらい。不法投棄の主な理由は、「廃棄物を捨てる時にお金を払うのは理解できない」、です。ここ日本でも、今後も、廃棄物や環境問題に関する意識啓発活動が必要です。
③小型家電の市場の動き:デジタル化に伴う小型家電の超小型化・多様化・拡散化。一番最初にも議論しましたが、今後デジタル化社会が急速に進みます。日本はSociety 5.0、アントロポセンを提唱したジェームズ・ラヴロックは、新たにノヴァセンという概念を提唱している通り、デジタル化による新たな人間社会が構築されていきます。ありとあらゆるところにある小型家電、次に何が必要か?
5.次に何が必要か?
日本はテクノロジーが進みすぎている国の一つ。日本は廃棄物管理も進みすぎている国の一つ。だってそうでしょう、普段の生活でごみをここまで分別する国はほとんどありません。この点は日本人として誇りに思いましょう。ここではデジタル化社会におけるE-waste管理の在り方を考えてみたいと思います。
僕は初めてパソコンを買ったのが今から25年くらい前の大学3年生のころ。富士通のFMVデスクトップパソコンだったことは覚えています。 そこから記憶をたどると、今まで購入したパソコンは9台。そして携帯電話を始めて持ったのが20年位前、J-PHONEでもちろん白黒画面。そこから数えて今のスマホは10代目。個人的な予想として、スマホがPC機能を持ち、必要に応じて外部モニターに接続して作業ができる環境がそのうち来るのでは(来てほしい)と思います。仕事でPCは必要なので、スマホサイズにWindows機能が搭載されてくれるといいなと思います。
今後どうなるか?何度か議論しましたが、デジタル化社会が進むにつれて、電気電子機器はより小型化・多様化・低価格化になります。普段の暮らしの中ではスマホが中心となり、ありとあらゆるものが接続されるモノのインターネットIoT時代が来ています。スマホはまだ良いものの、例えば家庭内では照明設備やスイッチなど今まで単純な機器のみだったのにそこにセンサーが組み込まれたり、お店では、アマゾンGoのようにありとあらゆるところに小型カメラが設置されています。今後、このような超小型電気電子機器廃棄物をどのようにリサイクルするのかしないのか、問題が出てきます。もう一つ気になるのが、プラスチックエンジニアリングと言われている、様々な工業製品中に使用されているプラスチック製のケースや歯車など。プラごみ問題でレジ袋やプラ製品が問題であるという中で、誰もこの件を言わないな、パンドラボックスの中なのか?とあれこれ思います。プラスチックとどのように付き合っていくか、というのも今後のE-wasteの課題です。
また、多くの国で設定されている2050年脱炭素化社会に向けて、ガソリンで動いている自動車の立ち位置も変わってきています。それに向けて、欧州を中心に2030年または遅くても2040年にはガソリン車販売禁止措置が導入される見込みです。そうなるとどうなるか?拡大解釈で自動車もE-wasteの範疇に入ってくることになります、なんせ電気モーターで動くので。そうなると電気自動車のリサイクル技術を早急に開発・運用していかなくてはなりません。特に問題となるのがリチウムイオンバッテリーのリサイクル技術。これはスマホと同じ状態です。スマホの買い替え理由の中でも、バッテリーの持ちが悪くなったので買い替えることが多くあげられます。これはリチウムイオンバッテリーには切っても切れない問題です、つまり劣化問題。そしてリサイクル問題。リチウムイオン電池のリサイクルはすでに始まっていますが、まだ十分な精度・効率、そして規模には達していません。リチウムイオンバッテリーには、バッテリー製造に必要なコバルト問題も問われています。人が使ったものは、人間社会でちゃんとリサイクルをしていかなくてはなりません。たとえコストが高かろうが、それは持続可能な地球を守るために必要なコストなんです。
6.終わりに
そのスマホ、生活に必要ですよね。スマホがあるからこんなに便利な生活を送っています。スマホがあるからコロナ禍においても、今まで通りオンラインでコミュニケーションを取ることができます。スマホのおかげで世界中とつながって生活をするのが当たり前になりました。普段の生活で何か新しいものを買うときに忘れがちなのが、それが廃棄物になったときどうなるのか?正確に言えば、その新しい何かを設計するときに忘れがちなのが、それがごみとなったらどうなるか、ということ。
この考えはもう時代遅れです。物を設計するとき、物を買うとき、一度考えてみましょう。それがごみとなったとき、自分はどうするべきか?この意識を持つことがSDGs時代、そして未来社会につながる重要な問いです。電気電子機器もしかり、他の生活用品もしかり、未来につながるために自分の生活を見直してみませんか?E-waste問題を解決するためには、法律や環境技術も重要ですが、一人一人が、自分の生活の中でごみ問題を解決するためにはどうするべきか、何をするべきかと考え、それを毎日コツコツとしていくことが一番重要です。