青井しろ

実らない恋にやきもきするアラサー女の日記風フィクション(完) 次の恋に出逢うとまた書き始めます。 自分がきれいだなと思える言葉を選んでいます。語感やリズムなども見つけて楽しんでいただければ幸いです。

青井しろ

実らない恋にやきもきするアラサー女の日記風フィクション(完) 次の恋に出逢うとまた書き始めます。 自分がきれいだなと思える言葉を選んでいます。語感やリズムなども見つけて楽しんでいただければ幸いです。

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夢に続きを

 黒いワンピースの中で背中につーっと汗が伝った。 別れ話の最中だ。いや、別れ話とは言わない。何故なら恋人関係でも婚姻関係でもないからだ。彼と私はセフレの関係だ。別れるとか別れないとかではない。 「最近さ、距離感バグってたじゃん。」 「そうかな。」 「だって俺のことすきでしょ?」 面倒くさそうな態度の男に怒りと悲しみが込み上げてくる。 「私はあなたに、すきとも付き合いたいとも一度も言ってないよ。だからあなたの勘違い。」 「いや、勘違いじゃないね」 その態度が最早勘違い野郎の態度

    • 足らない言葉で抱きしめて

      久しぶりにあった君はどこか疲れた顔をしていて、目の辺りがくぼんで見えたけど、会うのは5ヶ月ぶりだし暗い夜の駐車場の私の車の中だったから、実際のところはどうだか分からない。 「久しぶりだねぇ」と言ったあと「元気にしてた?」と聞くのをやめた。 それは、私が彼を呼び出した理由でもある。 2月の初旬、彼と私は会う予定だった。私の友人も含めて3人で。 けれど、それは「家でいろいろあって急遽引っ越すからバタバタしてて飲み行けない、ごめん」という彼からの連絡によってなくなった。 家

      • 初めて一人で飛行機に乗った話

        初めて飛行機に乗ったのは高校の沖縄への修学旅行で、もうほとんど記憶にないが、あれはセントレアが出来たばかりの頃だった記憶がある。そんなことを言うと歳がバレてしまうと焦るが、そもそもアラサーであることは言ってしまっているので、もうどうでもいい。 しかし、アラサーなのに、私は飛行機の乗り方すら知らないのだ。 JTBのカウンターへ行き、言われるままに飛行機とホテルを予約した。 「24時間前からオンラインチェックインが出来るので、カウンターに寄らずに行けますよ。お荷物を預ける場

        • ステンドグラスの向こう

           引越して来て初めて出来た友人が教えてくれたカフェは、車通りの少ない田舎のメインストリートから少し入った林の中で、大きな窓に向かう一人掛けのソファに腰掛けて、木漏れ日が移り変わり揺れるのをただ眺める、そういう時間がとても心地のいい店だった。広いウッドデッキに茶色く乾いて丸まった枯れ葉が落ちて、風が吹くところころと転がっていく。 目の前の小さな林のお陰で、温かい日差しは入るけれど、私の座るソファにはちょうど届かず、ほかほかと温かい。 彼はきっとこの店を気にいるだろう。 そう思

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        夢に続きを

          思い出をひとつまみ

          君のことが忘れられないのはまだ記憶が鮮明だからだ。 最後に会ってからまだそんなに時間が経ってない。ただそれだけだ。 部屋に飾った小さな写真の前にはDiorのマキシマイザーが置いてあって、あの時の2人の楽しそうな顔を隠している。 中秋の名月の一言で胸が苦しいのだって、それは秋のせいで、季節の変わり目だからだ。この季節にアンニュイになるのなんて誰にだって起こりうる。 去年のお月見の日に、せまいベランダに七輪を出して秋刀魚を焼いて月を2人して見ていたことは別に、別に原因じゃない

          思い出をひとつまみ

          素直でシニカルな人

          あなたのことがだいすきなのに、時々胸がぎゅっと苦しくなる。 あなたのことがだいすきだから、時々胸がぎゅっとなる。 何でもない一言に心躍らされて、何気ない仕草に浮ついて、さりげない言葉に安らぐ。 それなのに、胸がぎゅっと苦しくなる。 本気なのか、ただの意地悪なのか こんなふうに振り回されて頭の中はいつも正反対の言葉でいっぱい。 あなたには素直な私でいられるのに、一つだけ素直に伝えられない言葉があって あなたの反応なんてどうでもいいから伝えたいと思うのに、あなたの顔が曇

          素直でシニカルな人

          寝る時は腕枕じゃなくて手を繋ぎたい

          よく晴れた日にカーテンを開けて、眩しそうにそっぽを向いたあなたの顔を覗き込んで「おはよう」と言いたい 今日は甘いものを食べようと私があなたを連れ出したのにあなたのほうがあれこれ迷ってまだメニューを決められないで、「そっちのほうが美味しそう」とあなたの握ったフォークが私の目の前のフレンチトーストに刺さって、少しむくれたい 雨の音で起きた朝に溜め込んだ洗濯物を二人で覗き込んで着る物はあるからいいかと笑いたい せまいキッチンに二人で立ってあなたがビールの缶を二つ開けて一つを手

          寝る時は腕枕じゃなくて手を繋ぎたい

          得るものなど何もない

          「忙しい?」 あなたからの返事を待たずに送ったメッセージへの返信は2時間後。 「どした?」 おおよその返事はこうだろうと予想していたけど、うれしかった。 「むらむらしてる。」 これはうそだ。こういうしかないからこう言った。本当は「会いたい」だし「何も言わずに抱きしめて」と思っている。けれど、私たちの関係上こういうしかない。 それから彼は冗談交じりで少しだけ話を聞いてくれて「明日の午後からなら空いてるよ」と言ってくれた。 それだけで随分と心が安らいだ。 繊細さんなん

          得るものなど何もない

          欲望と期待とその間にある愛情

          私の腰をぎゅっと抱き寄せて脚を絡めて、身動きが取れないけれどそれが私の幸せだった。あなたの鼓動を今誰よりも一番近くで聞いていて、私のこころはとても安らぐし、あなたが生きているそのことが嬉しかった。頬に優しいキスをたくさんくれて、そのくちびるが私のくちびるに移動して、あなたの背中に回した手に力がこもる。 殺しきれなかった声を手で押さえて、息が苦しくなるけど、その呼吸さえそもそもままならない。死んでしまったのではないかと思うほどの快楽は私を狂わせて、それでも情事の間に私の顔を見な

          欲望と期待とその間にある愛情

          文章を書くのは大好きなのに、いつもどこか気取ってやっぱり素直な気持ちが書けていないなあと思う 私は私に素直にならなきゃなのに

          文章を書くのは大好きなのに、いつもどこか気取ってやっぱり素直な気持ちが書けていないなあと思う 私は私に素直にならなきゃなのに

          IV 皇帝

           最近、メンタルがやられると占いに頼るようになってしまった。不安定で不確かなものに頼るのはさらに自分を追い込むことになると分かっているのに。  恋をした相手は身長175センチ細身のアルパカのような目元の人で、見た目は私好みだった。いわゆるイケメンではないが、それこそまさに"ちょうどいい"といった具合で、一目会った瞬間に「私はこの人をすきになるだろうな」と思った。しかし私もそこそこ生きてきて、この相手が"遊び相手"を求めていることも分かっていた。 それなのに、だ。 実に情

          あのダサいカラオケの映像みたいに

           思いの丈を文字にするのは私の昔からの癖のようなもので、今のこれもそれの内のひとつだ。口に出す言葉はどうも苦手で、しかしそれは思い込みなようで「はきはきとしゃべるね」とか「話すのが上手だね」と言われることがしばしばあるが、言葉を選びすぎてどうも回りくどいと自分では思っている。だったら回りくどくても許される文字のほうが楽だ。会話はテンポや間が大事だし簡潔に分かりやすい言葉で相手を見ながらとなると言いたいことの半分も言えないものだ。だけれど文字は…いや、同じか。何が言いたいのか分

          あのダサいカラオケの映像みたいに

          宝箱の蓋をしめて

           久しぶりに聞いた声に涙が出た。もう二度と聞けないあなたの声で、でももう思い出せないほど、遠い。 事務的な話を少しして、私もそれに合わせるように、冷静さを保つように「はい」とだけ言った。あなたは時々言葉を詰まらせていて、嘘つきなあなたの本心を、その沈黙が教えてくれてるみたいで、余計に胸が苦しくなった。もうこれで最後になるからとあなたが言って、私は「あの、」と震える声で彼を引き止めた。 「私、あなたと過ごした半年、本当に楽しかったの。」 声が震えて、その続きを待たずに彼は「

          宝箱の蓋をしめて

          大切にすること。(エッセイ)

          自分を大切にするってどういうこと? 私は昔からよく言われるのです。 「もっと自分を大事にしなよ」と。 そう言うくせに誰も「こういうふうにすることだよ」とは教えてくれないのです。 例えば「あー、今日は何もしたくない」と思って一日中ベッドにいて、喉が渇いたら水を飲んで、そしたら催してトイレに行く。 YouTubeのショートとかインスタのリールとかTikTokとか上にスワイプ上にスワイプを繰り返して、飽きたらTVerで「あ、このドラマ見なきゃ」って見て、お腹空いたなーって冷凍ご

          大切にすること。(エッセイ)

          ノイズ

           人間の身体の7割が水分だと言うのなら今晩流した涙はその内の何割だったんだろうか。こんこんと湧き出る水のように絶え間なく、清く、流れる。彼への想いを含んでTシャツの襟ぐりを濡らす。  だが、受け入れたくない事実を目の当たりにした時、どうやら涙も出ないらしい。「あー、なるほどね。」だなんてかっこつけたようなことを口走った。日記にも残したくない事実を受け入れられず何と別れを告げようと頭の中で持ち得る限りの言葉を探る。どれも別れには相応しくない、似つかわしくない。  例えばただ

          深い夜に。

           「救急車で運ばれた笑」 この「笑」って何?連絡してこれるくらいだから心配など無用なんだろうけど、それにしたって「笑」って何?私は笑えない。何が起こってどうなってるの?電話したって出ないだろうけど、でも気が気じゃない。無用と言われようが私は心配だ。そんなメッセージを受け取って私が心配することなど容易に想像できるだろうに何故わざわざそんなことを送ってくるの?私はその報せを受け取ってどうすればいいの? しばらく経ってからの返事には「結石!今は電話無理、」と書かれていて、安堵ととも

          深い夜に。