今度のポッドキャスト熱は続くのか
去年あたりからいくつかのオンライン記事で「ポッドキャストが熱い」という見出しを見かけるようになりました。
アメリカでは、大手音楽配信サービスのSpotifyが、ポッドキャスト配信アプリを手掛ける”Anchor”を買収しました。
このAnchorのアプリは、買収前にとある在京局の部長さんから勧められて試したことがあるんですが、スマホに話しかけると、BGMやジングルなどがその長さに合わせて自動で付き、しかもCMチャンスも自由に設定できるという番組制作ツールです。
打ち込まれたCMチャンスには、音声広告のアドネットワークから適宜CMが挿入され、再生数に応じた売り上げが配信主に還元されます。
ま、つまりは音声版ユーチューバーというわけですね。
著名人やら料理研究家やらハナシ好きのおばちゃんやら、ジャンルを問わず番組をアップしていくうち、人気のポッドキャスターが登場し、再生数が伸びて広告収入も増え、その渦中で音声広告市場の需要も伸びるという、ニコニコサイクルが育まれているのです。
このサイクルがアメリカで成功した上、それを音声版Netflixと称されるSpotifyが買収しちゃったもんだから、そりゃもう日本の音声メディア界隈は「次は日本だ」「黒船だ」「クロサワミフネだ」と大騒ぎになっているわけであります。
そしてこの流れで、今年の春あたりから在京局の番組アーカイブが様々なプラットフォームで配信されています。
ちなみに、2006年頃から大量のポッドキャストを積極的に配信していたTBSラジオは、2017年に番組ファイルを博報堂DYメディアパートナーズと展開する『ラジオクラウド』に移しています。
『ラジオクラウド』には他局も番組ファイルをアップロードしているため、実質地上波ラジオ製ポッドキャストのポータルサービスとなるわけですが、今年からSpotifyに参画している在京局が増えています。
■日経クロスメディア—ラジオ局のコンテンツも続々 新Podcast戦争が勃発
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00369/00010
このインタビューにもありますが、日本ではまだビジネスには至っていないようです。
その理由のひとつとして考えられるのが、日本における音声広告の在庫です。
「ラジオCMをそのまま流せばいいじゃん」と思う方も多いでしょうが、そもそもラジオCMにはローカルクライアントも多く「日本中で配信されてもなぁ」という場合もあります。Spotifyが地域判定でCMを変えられるのであれば、こうした問題もクリアされるのでしょうが。
大手にはラジオ広告から撤退しているところも多く、ラジオCMの在庫イコール、ネット音声広告とは行きづらいようです。
これはラジオCMにも言えることですが、日本の音声広告については、理想的なリーチがネット広告と違う点が挙げられます。
バナーであれば、企業サイトやキャンペーンページへ飛ばす成果がありますし、購入ページへのランディングであればコンバージョン計測も明快です。
しかし、日本においてラジオCMは、ブランディング目的より即効性のある生コマーシャルに比重が置かれつつあります。さらに提供コーナーの趣旨そのものがタイアップとなっているケースも増えています。
そのため代表的な20秒CMの効果的な打ち方は、時計がわり、つまり毎回同じ時間に流すことで定着させること。これこそ民放ラジオが、70年に渡り訴えてきた効能効果です。
その効果はいつでも聴けるオンデマンド配信とは相反するものであり、広告を売る側がその効果を明確に示せない限り、少なくとも現状はクライアントに刺さりにくいのではないかと考えます。
さくっとアプリで番組を生み出せる個人はさておき、放送局の場合はラジオを生業としている方が関わっているので、マネタイズができなければ配信側の持ち出しとなってしまいます。
2000年代後半、iTunesの日本語版登場を機に各局がポッドキャストに邁進したのですが、マネタイズの問題で次々と消えていきました。
それを繰り返さないためにも、音声広告の新しい概念と効果を提示することが急務だと考えます。
さあ、みんなで考えよう。