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生涯で3度のiTunes首位

2005年に愛知万博が開催されてから18年となります。
歳とるわけだ。

さてその万博が、僕にとって音楽制作を仕事として始めるきっかけになり、そしておそらく、この後死ぬまで達成できない記録を打ち出すことになるのです。

名古屋駅のすぐ南の笹島地区に、元貨物駅の跡地エリアがあります。
東京でいうところの汐留みたいなところですが、そこが愛知万博のサテライト会場となっていました。

どういう理由かは知りませんが、ここに80年代ディスコを再現した「GLAMOROUS ONE-92」という施設があり、これもどういう理由か知りませんが、9月につボイノリオさんのラジオ番組のリスナー集会がここで開かれました。

さらにどういう理由か知りませんが、8月の初旬に、つボイさんは僕がDTMを趣味としていることを知ったそうです。
そして職場のトイレで隣同士で小用を足している時、この集会で流す音源の作成を依頼されました。
就職して12年でしたが、つボイさんと挨拶以外の言葉を交わしたのは、実はこの時の小用が初めてでした。

そこでつボイさんの70年代音源から4曲ほど使って、『KINTA MA-XIM MIX』というリミックスを作り、集会のフィナーレで流したのです。
キンタ・マ・キシム・ミックス、声に出して読みたい日本語ですよね。

それはさておき、この頃の僕は、愛知万博の公式FM局のCMデスクも兼任していました。
ある日、万博会場内のスタジオでアップル日本法人のKさんを紹介されました。

もうすっかり忘れられていますが、実は愛知万博には「IT万博」の側面もあり、このFM局もCMを含めたすべての音源をサーバから送出する、日本では初めての試みを行っており、Kさんはその見学に来られたのです。

Kさんから、8月に「iTunes Music Store」(現iTunes Store)の日本語版サービスをスタートする件を伺い、合わせてポッドキャストの利用を促されました。
当時の僕はポッドキャストの効果に否定的だったので、後者はサラリと流しつつ、今後アップルと関わりを持ちたいとは考えていました。

そして9月のリスナー集会の後、つボイさんが『KINTA MA-XIM MIX』をCD化したいと言い出しました。
既成音源を使ったため権利の事情でその音源は使えなかったんですが、全てのパートを打ち込み直し、つボイさんのボーカルを新録することでCD化は現実のものとなりました。

その一方で、アップル日本法人のKさんのことを思い出し、この曲を配信できないか、FM担当プロデューサーだった先輩に相談してみたところ、意外にも同じことを社内で提案していたことから、すんなり配信がスタートするのです。

オリコンと違い、配信では毎日チャートが更新されます。
iTinesのユーザー数がまだ少なかったこともあったのか、『KINTA MA-XIM MIX』はダンスチャートでダフト・パンクの「Robot Rock」を抜き、なんと2週間近く首位となってしまいました。
もう笑うしかありません。

これに気を良くしたつボイさんは、過去のボツ曲を配信したいと言い、僕に弾き語りしてくれたのが「インカ帝国の滅亡」という曲でした。

なんでもこの曲は、80年代半ばにガロのメンバーだった日高富明さんからの依頼で作られたそうですが、何らかの理由(お察し)で未採用となったまま、日高さんが逝去。
さらにつボイさんが東芝EMIからリリースしたベスト盤『あっ超』(1996)からも未採用となった、いわく付きの楽曲でした。

職場のスタジオでつボイさんの弾き語りを聴かせていただくこととなり、僕もシンセサイザーを持参して、アレンジ案を出したりエンディングなどの構成を練りました。
ここでタイトルを「インカ帝国の成立」に変えることになり、ペルーの民族音楽フォルクローレでアレンジすることから、ジャンルをワールドミュージックとして配信することも決めました。

こちらは妻の臨月でもある2006年9月にリリースされました。
そして読み通り、ワールドミュージックチャートではケルティック・ウーマン「You Raise Me Up」を抜いて、3週間首位となってしまいました。

そして翌年2月には、同じく『あっ超』ボツ曲となった「雪の中の二人」を新録で配信します。

まあ、フルで聴いてもらえばわかりますが、あまりにもひどい曲です。
簡潔に書くと、少年の心を持った大人げない大人による、壮絶なラブソングです。
ただし、こちらのアレンジは過去の2曲以上に難産で、個人的には労作のひとつであり、「よくやったオレ」と自分をギュッと抱き締めたくなるのであります。

こちらは夏川りみさんの「涙そうそう」を抜いて、歌謡曲チャートで首位となりました。

2006年4月からの10ヶ月で、プロデュースした3曲全てをチャート首位に送り込んだ男。
おそらく音楽史からは「見なかったことにする」とスルーされ、誰も褒めてくれないし、たぶん家族も「なにしてんのよ」と相手にしてくれないので、この誇りを棺桶まで持っていきたいと存じます。

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みくばんP
ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。