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「地元感」は何から生まれる?

HTB北海道テレビ『水曜どうでしょう』のディレクター・藤村忠寿さんが何かのエッセイに書かれていたことです。

他県から札幌に来たカメラマンに「北海道らしい画を撮ってこい」というと、みんな『北の国から』の富良野みたいな風景を撮ってきちゃうとのこと。

そんな映像を北海道に暮らす人たちに見せてどうするんだ、という話でした。

また北海道には竹林がありません。
だから他県で撮影した竹林や瓦屋根の家々を道民に見せると興奮するし、北海道生まれのカメラマンは道外に出るとそんな画ばかり撮ってくるそうです。

ちなみに藤村さんは、我が愛知県出身です。

このふたつのエピソード、我々ローカル局にとってものすごく大事なヒントが込められていると思うんですね。

今やTVerやらradikoやらと、ネットで観聴きできるローカル局ですが、やはり視聴者の大半は地元に住む人たちです。
地元感を出そうとしてお天気カメラでランドマークばかり映してみたところで、大して心は動きません。

それこそ富良野のラベンダー畑を撮ってしまう他県人と同じことになりますし、道民からすれば他所にある竹林の方が自身のアイデンティティを揺さぶられ、心を動かされるわけです。

とある大阪府出身のラジオパーソナリティは、名古屋のラジオ局で平日の帯番組を持っており、そのために10年以上名古屋でホテル生活を続けています。

ある時、飲み会帰りに局の近くにあるドラッグストアへ立ち寄りました。
ホテルに戻ってベッドサイドで飲む缶チューハイを買おうとしたんですが、棚に並んでいるのはどれもこれもロング缶ばかり。

「寝る前にちょっとだけ飲むつもりやったのに」とぼやきながら、そのお店に「頼む、頼むから普通の小さい缶も置いてくれ(笑)」と、オンエアで懇願しました。

この短いエピソードを聴きながら、僕は「これが『地元感』なんだよな、さすが」と膝を打ちました。

大阪弁で話すパーソナリティが、350ミリ缶のチューハイを買えなかっただけのハナシが、なぜ「地元感」を醸し出すのか?
その理由を書きましょう。

まず、このドラッグストアは全国でも展開していますが、名古屋近郊に本社があり、愛知県の人にはコメダ珈琲店同様「地元のお店」と認識されています。
しかし特定の店舗にはロング缶のチューハイしか置いてない、ということはほとんど知られていないでしょう。

次に、実はこの店舗は外国人の多い繁華街にあり、独自の品揃えとなっているのです。
番組ではこの繁華街の話題が頻繁に登場しています。
それゆえほとんどのリスナーには「だいたいあの辺のお店だな」とイメージできます。

ちなみにその後リスナーから、同じチェーンの近所の店舗には普通の350ミリ缶が置かれている、との報告も入ります。
つまり、パーソナリティのエピソードが自分の地元とは違うことを比較し、確認しているわけです。

先のラジオパーソナリティも地元出身ではありませんが、「この店は普通の品揃えやない」と異邦人の目線で語ることによって、名古屋のごくごく狭いエリアのローカル事情がより克明に浮かんでくるのです。

「地元感」は、そこにあるものだけ並べたところで意識されるわけではなく、比較によって初めて生まれるものだと思います。
全国ネットの『ケンミンSHOW』が人気なのは、他地域との違いから地元の文化、あるいは魅力を再認識できるからではないでしょうか。

僕自身、そんな異邦人の目で地元感の出るコンテンツをいつか作ってみたいと考えています。

ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。