【ラジオ】プロデューサーとディレクター
ラジオ番組はテレビに比べると少数で作ることができるとは言え、個人でもできる配信に比べれば、最低限の分業体制は出来ています。
パーソナリティ(局によってナビゲーター、MC、DJだの呼び名が変わります)がひとりという前提で、スタジオにいる人を挙げておきます。
スタジオ(ブース内)
❶パーソナリティ
…リスナーに向けて喋る人。他人を傷つける発言をしてはいけない人。
❷作家
…キー局の番組では必須とされる役割。番組内容を考えたり、パーソナリティにアドバイスしたりする。「作家」というわりに、書くことよりも笑う仕事の方が多い。投稿を捌く場合も。
❸フロアD
…パーソナリティの近くから直接指示するディレクターで、最近は省略されるケースがほとんど。CMやコーナーの進行を司り、タイムキープしたり投稿を捌いたりするディレクター。
サブ(副調整室)
❹ディレクター
…ミキサー(機器)前に陣取り、投稿の選別をはじめ番組全体を進行する。ローカル局では❷に替わり、パーソナリティが喋る内容に大きく関わり、台本書きなど放送前の作業が最も多い。
❺ミキサー
…ミキサー(機器)を操作して、マイクや音楽のバランスをとったり、音質を調整したり、ボタン操作でCMを送出する。
❻AD
…アシスタント・ディレクターの略で、文字通りディレクターを補佐する。投稿の一次選別、電話繋ぎ、CM送出のチェック、中継の直前テスト、ケータリングなど番組によって業務が大きく異なる。
最近テレビ業界ではYD(ヤングディレクター)、LD(ラーニングディレクター)、ND(ネクストディレクター)といった名称に変更して「何でも屋」のイメージを打破しようとしているらしい。
いてもいなくてもいい人
❼プロデューサー
…平たく言えば「番組の責任者」で、番組そのものの企画や宣伝手法の検討、予算管理や精算処理など、スタジオ外の仕事が多い。
一方で災害時やトラブルがあれば、真っ先に対応を指示する役目もあるため、生放送ではスタジオにいた方がいいと言われている。
ここに挙げたうち、局や番組によっては❷❸❻がそもそもなかったり、❹❺あるいは❹❼をひとりが兼任するケースもあります。
ディレクターデビュー
兼務について書いてきましたが、本来は番組全体の責任者(プロデューサー)と、放送時の司令官(ディレクター)とは、担当者を別にするのがベストです。
それは2007年、初めて制作したこの番組を通じて感じたことです。
(注意)
ちなみにこちらの動画は、当方未許諾なので念のため。
削除されたとしても何の補償もしませんし、その理由をこちらが表明することは永遠にないと思います。
当時業務部という、社外知名度ゼロのセクションにいた僕に、当時の編成部デスクが「なんか企画ない?」と尋ねてきたことをきっかけに、自身で企画して台本を書き、録音と編集を行いました。
当時日曜午後に聴取率が下がる問題があり、人気番組の「外伝」で数字を稼ごうというのが編成の狙いでした。
それが前提なら、本当に「外伝」でなければいけないと考え、生ワイドから最も遠いモキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)で仕立てることにしました。
内容はプロデュースした楽曲「インカ帝国の成立」をベースに、インカ帝国を成立したマンコ・カパック王と日本の関係について。
真剣に(あくまで演出として)取り上げることで、自分が聴きたいものを作ってやろうと画策したわけですが、当然ながら「マンコ」という名前が上層部で問題になる可能性もありました。
プロデューサーに救われた
実はこの制作過程自体が、番組のテーマでもあったわけですが、幹部との交渉を買って出てくれたのが前述の編成デスクでした。
「内容チェックが厳重になりそう」と聞き、放送6日前には完成させました。
果たして思惑通り、番組を聴いた幹部から、シーンのカットと修正を1箇所ずつ求められました。
カットのくだりは、時間にして2分強ありました。
縮めたナレーションを再度足したり、音楽を長めに流すなどしましたが、それでも1分ほど埋まらず「どうしよう」と考えているうち、搬入締め切り日になってしまいました。
実はこの番組には出演者に関するCMを入れており、それも本編扱いとして計算していました。
バランスもテンポも悪くなるけど他の番宣CMでも突っ込むか、と作業を始めたところ、編成デスクから「インターネット事業部がこの番組をポッドキャストにしたいって」との連絡。
当時のインターネット事業部には、僕の性分を知っている同僚も多く、デスクから中身のヤバさを聞いて打診してくれたのです。
「ポッドキャストはディレクターズカット(権利関係による音源差し替えと、カットシーンの復活)として配信したい」との提案が受け入れられたので、急いで収録した配信告知をエンディングに加え、なんとか尺が埋まりました。
ディレクターの最優先案件
放送翌日の生ワイドには数百通ものリアクションが寄せられ、「面白かった」との感想がほとんどで、クレームめいたものはひとつもなかったとか。
聴取率も1.6パーセントで、レギュラー編成より微増の及第点となりました。
僕が面白さを追究できたのは、編成デスクがプロデューサーとして社内調整してくれたおかげです。
幹部との交渉までやっていたら腹を立てて「じゃあ放送しません」と啖呵を切る可能性もありました。
ディレクターが最優先で考えるのは「番組が面白いかどうか」であり、実は「放送されるかどうか」は後ろになってしまうものです。
当然放送されなければ意味がないのは承知していますが、プロデューサーがいるからこそ全力投球できるし、もし放送されなくてもプロデューサーを責める気はなかったのです。
プロデューサーの最優先案件
一方、自分がプロデューサーになったのはこの5年後。
制作部へ異動して2年目の2012年でした。
片や5時間、片や2時間半、2本の週1生ワイドを立ち上げましたが、番組の具体的な中身はそれぞれ信頼できるディレクターたちに任せ、自分は番組のコンセプトを明確にしていく作業に専念しました。
実は生ワイドの場合、初回放送を終えるまで、たいして手を入れることができません。
ランスルー(通し練習)がこなせても、初回放送がうまくできるとは限らないのと、リスナーの反響が予想しない方向になることもあるからです。
またスタジオでは放送をこなすのに必死で、SNSの反響をリアルタイムで確認することはできません。
僕はメールやSNSのポストに全て目を通し、企画時に想定しなかったパーソナリティの言動などを1ヶ月間メモしてスタッフに見せて「こういう番組にしていこう」と話し合いました。
その後、営業対応もあって企画時点でいろいろ決めざるを得なかった番組もありました。
しかし「机上の空論」を進めても、スタジオは白けたままで方向転換もままならず、短命に終わってしまいました。
それゆえ、今もプロデュースに関わる際は、初回から1ヶ月を「公開ランスルー」のつもりで様子見しています。
もちろん、これで終わりではありません。
その後も番組内の発言やスタジオ外の出来事から進路をフレキシブルに変え、出演者やスタッフの交替も含め、番組の延命に努めるのがプロデューサーの大きな仕事となります。
らじみくでの役割
現在生放送は担当していませんが、例えば『RADIO MIKU』という番組はたった2人で作っています。
清水藍
…❶でありながら❹の事前作業を行い、編集も行う。
みくばんP
…❼でありながら収録時は❺を務めつつ❹として指示する場合もある。
ちなみに2021年9月に深夜の1時間生放送を行った時は、僕自身が❹❺❼を担当しました。
この番組もあまり放送前に決め込まずにスタートし、1ヶ月ほど様子見をしていました。
パーソナリティたちが自然に会話できるまで時間がかかったからです。
また僕自身が「これが面白い」と積極的に口を挟むようになったのも2ヶ月目のことです。
特に1年目は他番組とのコラボや、『ボカコレ』メディアパートナー参加という想定外のこともあり、また『マジカルミライ2021』出展という計算できないイベントもありました。
何より主題となるのはあくまで「初音ミク」。
それをわかりやすく紹介することはアドバイスできても、どう伝えるかは出演者の熱量に任せるしかなかったのです。
企画書にタイトル、放送日時、パーソナリティ名の記載しかなかった2020年12月。
「今のテイストを想像していたか」と言われると、正直「なるようになれ」としか考えてなかった気もします。
繰り返しますが、番組を長く延命させるのがプロデューサーの仕事です。
その最善策が「なるようになれ」という姿勢のような気がしています。