シンセ歴42年目で知ったHPFの魅力
シンセサイザーを始めて42年目に突入してしまいました。ぎゃあ。
実は最近になって、ようやくHPF(ハイパスフィルター)というパラメータの面白さを知ったので、恥を忍びつつシンセ遍歴とともに顛末を書き殴ってみます。
Roland SH-101
アナログシンセの特徴としてよく語られる、「ミヨミヨ」とか「ビヨーン」などの擬音で表現されるサウンドは、たいてい低周波を通して高周波を削るLPF(ローパスフィルター)のパラメータ、カットオフとレゾナンスの組み合わせによるものです。
フィルターにENV(エンベロープ)を関連付け、カットオフに時間的な変化を与えることで、あの「ビヨーン」が生まれます。
僕が最初に所有したRoland SH-101のフィルターにはLPFが搭載されていました。
当時、同じRoland製モノフォニックシンセの上位機SH-2や、初の音源付きシーケンサーMC-202のフィルターもLPFのみでした。
一方で、同社製品でもJUNO-60やJUPITER-8などのポリフォニックシンセには、LPFとともに、低周波をカットするHPF(カットオフのみ)も付いていました。
それゆえHPFは「ポリシンセにしか付いてない」「あってもなくても大差ない」パラメータという認識だったのです。
友人が買ったJUNO-106で初めてHPFを触ったんですが、その時には音が軽くなる程度の印象しかありませんでした。
2014年以降、デジタルで回路ごと再現されたACB音源によって、SH-101は何度かリブートされました。
実機として発売されたSH-01AやS-1も、フィルターはLPFのみの搭載でした。
Roland SYSTEM-100
この後の僕はYAMAHA DX21を皮切りにデジタルシンセ一辺倒となり、HPFが付いた機種を手に入れたのは、Roland SYSTEM-100のユニット(101・102)が初めてでした。
こちらは1975年に発売されたモノシンセで、78年ごろの入門書『シンセサイザーのたのしみ』(菊池公一著・日本放送協会出版刊)で教材として取り上げられました。
僕が所有したのは、学生時代に粗大ゴミ捨て場から拾ってきたもので、それゆえガリが多く音程も安定しない、文字通りのポンコツでした。
ちょうどハウスブームが訪れた頃で、MC-202経由でシーケンスを鳴らしながらフィルターをいじるのに使っていました。
この時もHPFは「音が細くなるパラメータ」としか見ておらず、ほとんど使用してなかったと思います。
Roland SH-5
オールインワンシンセがメイン機となり、しばらくHPFとは無縁となりましたが、制作部に異動し、番組収録のために毎月足を運んでいた大阪市南森町のスタジオでRoland SH-5と出会いました。
1975年発売ですから、今もそのスタジオにあったとしたら50年モノです。
タレントが来るまでの待ち時間に何度も弄らせてもらいました。
このSH-5には、後継機SH-7以降姿を消したBPF(バンドパスフィルター)がありました。
LPF/HPFとの3タイプ切り替え型と、単独でもセクションが設けられていました。
BPFは特定の周波数を残すフィルターですが、外部機器でイコライジングすればいい効果としか思えず、正直なところパラメータにする意味がわかっていませんでした。
Roland SYSTEM-1
また、その後購入したRolandのSYSTEM-1にもHPFがありました。
僕にとって、アナログ的なパラメータを持つ最初のポリシンセです。
HPFはパッドの浮遊感を出す程度にしか使わず、その頃は「ほとんどの人がこんな用途でしか使ってないんだろうな」と考えていました。
やはりLPF以外はイコライザーでしかない、という認識だったのです。
TORAIZ AS-1
この考えが少し変わったのは、TORAIZ(Pioneer DJ)のアナログモノシンセAS-1でした。
AS-1はDave Smith Instruments(現シーケンシャル社)が発売したアナログポリシンセProphet-6のモノフォニック版で、パラメータはほぼ全て踏襲されており、デイブ・スミス本人が使用パーツまで監修していました。
HPFにはカットオフのみならずレゾナンスもあり、LPFとは異なる自己発振をしました。
効果は非常に上品で、劇的にサウンドが変わるというものではありませんでしたが、レゾナンスがLPFとはまったく違う挙動となるのを知りました。
Roland SH-4d
そしてHPFに対する認識が大きく変わったのは、昨年入手したばかりのRolandのVAシンセSH-4dでした。
同社製シンセでは、SH-5同様にLPF/BPF/HPFの3タイプ切り替え型のカットオフが搭載されています。
最近HPFでレゾナンスを効かせた状態のままカットオフを弄っていたところ、低域が異様な迫力で鳴ったのです。
LPFとは異なり、高域のオシレーター音と低域の自己発振音がきれいに重なったのです。
またENVをマイナス方向にわずかに動かすと、低音の存在感がさらに増します。
LPFとBPFについては、この機種独自のDRIVEパラメータと愛称が良いことは知っていましたが、HPF時のレゾナンスは想定外でした。
DRIVEを併用すると美味しい低音が歪んで弱くなりますが、少なくともHPFで音が良くなったと感じたのは初めてでした。
ちなみにSH-4dには、この切り替え型(-24db)とは別に、単独のHPFカットオフ(-6db)も搭載されています。
KORG MS-20
思い返すとKORGの名機・MS-20のHPFにもカットオフとピーク(レゾナンス)がありました。
実機は延べで1時間程度しか弄ったことがなく、iPad用アプリの方が馴染みがあったんですが。
こちらは効果が強過ぎて暴れる印象で「ああ、これがMS-20の特徴なんだな」と飛び道具的に捉えていたので、じっくり繊細に弄っていたら、もっと早くHPFの魅力に気づけたのかもしれません。
長くやってるからと言って、何の取り柄もないものです。
マジ自戒。