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マシンライブに見るKORGの貢献

最近シンセ界隈では「マシンライブ」というものが話題にのぼります。

この20数年、アナログ/VA問わず小型シンセサイザーやグルーヴボックスが多数発売されています。
1〜4小節のシーケンサー内蔵という機種も多く、何台かをシンクさせながらノブやフェーダーを弄り、ミニマルテクノが演奏されるのがマシンライブです。

またEU圏から流行り出したモジュラーシンセも入手しやすくなり、パッチケーブルまみれの強面なパネルも見せ物のひとつとなっています。

機材自慢とか、音楽的に面白みがないとの批判も目にしますが、ここ20年ほどの電子楽器の展開を見ていると、マシンライブはジャンルのひとつとして順当に成立してきた感もあります。

その始祖というと、それこそシュトックハウゼンのライブエレクトロニクスにまで遡ってしまいますが、最近の傾向でエポックメイキングとなったのは、1999年に発売されたKORGのELECTRIBEシリーズあたりかなと思ってます。

現物ないのでiPhoneアプリで

グルーヴボックスの元祖といえばRoland MC-303ですが、ELECTRIBEはPCM音源を揃え1曲まるごと作れるMCシリーズに対し、ノブによる偶発的な音作りを楽しめる単機能のVAシンセでした。

「R」激似の公式iOSアプリiELECTRIBE

シリーズには15もの機種が登場していますが、とりわけ最初に発売されたシンセ特化型の「ELECTRIBE・A」、リズム特化型の「ELECTRIBE・R」はともに39,800円と手頃な価格でした。
どちらかがファーストシンセだったという方もいるのではないでしょうか。

2005年以降サービスを始めたYouTubeやニコニコ、あるいはUstreamではこのELECTRIBEのパフォーマンス動画がアップされるようになり、Denkitribeさんなどのクリエイターに注目が集まるようになります。

そして2008年、ニンテンドーDS用ソフト「KORG DS-10」が発売されます。

このDS-10は、KORGの入門用アナログシンセMS-10をベースに、シンセパート×2、リズム音源×4トラックのシーケンサーを備えたソフトです。
マシンパワーの事情もあり、リズムパートはVAシンセで作った音をサンプリングの上再生される仕様でした。

PC向けだったソフトウェアシンセが、ニンテンドーDSという気軽に買える人気デバイスで動き、タッチペンとの相性もよく人気ソフトとなりました。

ちなみに日本で初めてiPhone(3G)が発売されたのは同年7月です。

デモ演奏を披露しているのは、開発に関わった作曲家の佐野電磁さん。
ファーストシンセはKORG MS-10で思い入れも強かったそうです。
ちなみに佐野さんは、2012年に僕がプロデュースしたラジオ番組『電磁マシマシ』でパーソナリティを務められています。

前述したようにこの頃にはニコニコ動画など公開の場も整っており、当時「初音ミク」と並びDTM投稿の原動力となりました。

僕自身PCの操作が苦手で、楽曲制作には専らオールインワンシンセを使用していましたが、このDS-10をきっかけにKORG M01などのニンテンドーDSソフト、さらにiPhone/iPadアプリを多用するようになります。
プリミティブな仕様からどれだけ独創的な音楽が作れるかに興味を持ったのです。

当時ニンテンドーDSがライブハウスに持ち込まれるという現象も起こっており、現在のマシンライブの礎ともなったのではないかと考えられます。

この分野で覇権をとっていたKORGは、2010年にアナログシンセとして手のひらサイズの「monotron」をなんと5千円で発売。

さらに翌年にはこのmonotronの進化系として、アナログリズムと一体化させたグルーヴボックス「monotribe」をほぼ2万円で発売。
MC-10/20と同じ回路が用いられたピーキーなフィルターと、ノブとスイッチが並ぶガジェット感満載の金属製パネルでシンセファンを魅了しました。

monotribeでもmonotron同様、鍵盤の代わりにリボンコントローラーが採用され、演奏ではクロマチック(12鍵)/グリッサンドが選べました。
合わせて過激なLFOによるエグい変化を楽しむマシンとして、音階にとらわれない独特のポジションを築きます。

この弁当箱感がたまらない

グルーヴボックスだけあってシーケンサーも搭載されているものの、パターンはひとつのみという漢らしい仕様で、ACTIVE STEP機能やFLUX機能も併用しつつ、長く演奏を続けようとすると、リアルタイムでパターンを作り変えていくことになります。
無論音色メモリもなく、演奏は自ずと一期一会です。

こちらはモジュラーシンセが多用されるようになる、近年のマシンライブの原点のひとつと言えるのではないでしょうか。

その後もKORGでは、グルーヴボックスの要素となるリズム、ベース、シンセ、サンプラー機能を分割し、単体ガジェットによるvolcaシリーズを展開。
中でもvolca modularは、小型ながら独創的な音作りのできるモジュラーシンセとして人気となりました。

先にマシンライブに対する「音楽的に面白味がない」との批判も挙げましたが、これらのガジェットシンセを使ってみると、あまりの時間泥棒っぷりに楽しさが堪能できるんじゃないかと思います。
ぜひお試しを。

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みくばんP
ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。