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シンセの進化と真価(私観だョ)
今年(2023年)3月に発売されたローランドの新しいシンセサイザーSH-4dの価格は税抜きで70,000円です。
【24/2/27追記】最近価格が変わったようで、2月現在は税抜き80,000円が相場のようです。う~ん悲報。
シンセパート4つとリズムパートで最大60音ポリ。パート別シーケンサーとアルペジエイター、最大でマルチ含めて5種同時使用できるエフェクトも含めてこの値段です。
ネット上では「高い」という意見もあり、確かに税込みで考えれば、ほぼ8万円をやすやすと投入できる人も多くはないと思います。
しかしねえ、界隈で40年間踊らされてきた昭和のシンセおじさんからすると、ただひたすらに「おいそこの若ぇの、これでも安くなったんじゃぞ」という感覚なんですわ。
今回は、この40年の日本におけるシンセサイザーの進化と値付けについて書き殴ってみます。
自分が触れた機材に紐づいた超絶私観なので、オフィシャル観点からの誤りがあればご指摘上等です。
たった1人のフルバンド
まず僕がシンセサイザーを使い始めた1983年前後のハナシから。
あ、この見出しはこの書籍から拝借してます。
ローランドで最もポピュラーだったのは、モノフォニック・シンセのSHシリーズ。
当時のラインナップは、ロングセラーとなった1979年の2VCOシンセSH-2が99,800円、1VCO入門機SH-09は79,800円でした。
そして82年秋に発売された1VCOモデルのSH-101は、アルペジエイターに最大100ノートのシーケンサーが搭載されて59,800円。
これは半年前にYAMAHAから発売されたミニ鍵盤のショルダーシンセCS-01が32,000円だったことが影響していたと思われます。
ちなみにSH-101と同じ82年に発売されたTB-303は53,000円、TR-606は49,800円でした。
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そして翌83年に登場したシンセ付き2chシーケンサーMC-202が69,500円。
MCの広告で提案されたSH-101、TB-303、TR-606とのセットだとモノシンセ2パート、ベース、リズムの4パート。
まさに「たった1人のフルバンド」ですよ。
〆めて合計232,100円です。ひええ。
ポリ音源はひとつもなく、当然ミキサーもエフェクターも別途。
この時期はまだ学生がバイト代で買えるようなデジタルエフェクターも皆無でした。
今から見れば恐ろしく高値だったんですよね。
ただ最近、完動美品のTB-303が30万円で売られてましたけどね(微笑)。
ポリシンセがどんどん安くなる
そしてポリフォニックシンセが一般化するのも1982年ごろのこと。
まず81年にKORGから音色メモリー搭載のPolysix が248,000円で登場し、価格破壊が起こります。
下のリンクはiOSアプリで蘇ったPolysix。実機についても説明があります。
82年にはRolandからメモリー非搭載のJUNO-6が169,000円で登場します。
しかしPolysixの牙城が崩せなかったのか、わずか半年後にメモリー搭載のJUNO-60が238,000円で登場します。
そのKORGからは、メモリ付き61鍵6音のポリシンセPOLY-61が179,000円で発売され競争が激化します。
そして83年には、49鍵の8音ポリシンセPOLY-800がなんと99,800円で登場し、シンセ好きに衝撃を与えました。
「レゾナンスの効きが弱い」などと言われつつも、同価格のRoland SH-2が現行商品でしたから、なにしろ。
翌84年にはRolandが61鍵のJUNO-106を139,000円で投入します。
下記はRoland Cloudのソフトウェア版です。
Xシリーズ君臨
RolandとKORGの価格戦争には、83年春に発売されたYAMAHA DX7も大きく影響していると思われます。
YAMAHAが数年に渡って研究してきたFM音源による新しいサウンドに16音ポリで世界規格となったMIDI装備で、Polysixと同じ248,000円でした。
YAMAHAはDX7のみならず、翌年にはPCMドラムマシンRX11/15やシーケンサーQX1も発売し、これらは「Xシリーズ」と呼ばれるようになります。
ただしこのQX1はスペックが当時としては高く、またお値段も480,000円と飛び抜けて高額でした。
学生やサラリーマンが手軽に揃えられるようになるには、DX100を中心としたコンポ”X’ART100”まで待つ必要がありました。
一方でRolandとKORGは、DX7のようにノブやスライダーを廃したインターフェースを採用し、樹脂製の筺体などの低コストで差別化を図り、その間に独自音源の開発を急ぎました。
さらにこの競争に「オレも混ぜろ」とデジタルのCASIOやKAWAIが参戦。
80年代後半のシンセ界では、PCM音源や独自音源の開発による、急激な多機能化と価格破壊が進んでいきます。
オールインワン時代到来
10万円台のポリシンセが登場するにつれ、音源のデジタル化が急激に進みますが、YAMAHA Xシリーズの牙城が崩されることはありませんでした。
ところが、1988年にKORGが放った一発のホームランが、シーンにDX以上の衝撃をもたらします。
それがミュージック・ワークステーションM1です。
下のリンクはiOS版。
高品位PCMによるマルチティンバー音源に、2系統のデジタルエフェクト、8トラックのシーケンサーを搭載。
ほとんどの音楽制作が1台で完結するという、新しい概念のシンセサイザーでした。
このM1以降「オールインワンシンセ」というジャンルが生まれ、各社から20万円台の機種が続々登場します。
僕自身、M1と後継機の01/WFD、さらにTRITONまで同社製品を長らく使いましたが、特に学生時代はM1でテレビCMや舞台の音楽を作ってお金を稼いでいたこともあり、時代の恩恵に授かれた思い出があります。
安さ常識!グルーヴボックス
やがてこの「オールインワン」の思想が、新たなヒット商品を生み出します。
1996年、RolandからMC-303が58,000円で登場します。
フィルターのノブ操作が可能なシンセサイザーに、TR-909や808サウンド(PCMサンプル)によるリズムキット、8トラックシーケンサー、アルペジエイター、エフェクトが搭載され、ジャンルによってはこれ1台で楽曲制作が完結しました。
頑なにアナログ機の復刻を拒んできたRolandが、筺体にあのTB-303をモチーフに使い、PCMとは言えTR-808や909、JUPITER-8のサウンドを搭載したことも話題になりました。
この商品の愛称「グルーヴボックス」はカテゴリー名として、今もなおMC-101/707やKORG ELECTRIBEなどの他社製品に至るまで定着しています。
まさかのアナログ復権
2000年代に入るとDTMが急速に普及し、海外のソフトウェアシンセに注目が集まります。
一方日本の3大メーカーでは、演奏をメインとしたVAシンセ、DJの御用達グルーヴボックス、フラッグシップ機・オールインワンシンセの3種が定番のラインナップとなります。
そんな中でKORGがMS-20の特徴あるフィルターを復刻し、手に入りやすいアナログ機としてmonotron、リズム音源を加えたmonotribeを相次いで発売。
そして2013年には、そのMS-20が小型化の上、35年ぶりにフルアナログの新製品として登場し、界隈を驚かせます。
この頃には1万円から5万円ほどのガジェットシンセという市場が生まれ、ニンテンドーDSソフト、iOSアプリなどのVA音源も含めKORGがリードしていきました。
2016年にはフルアナログによる4音ポリシンセminilogueを発売。
そして2018年には、ついに16音ポリの新製品まで完成させます。
Rolandの10年
これに対して、TR-808やTB-303などのアナログ復刻を待望されていたRolandは、2014年に”AIRA”というブランドを立ち上げます。
初期ラインナップのTR-8、TB-3、SYSTEM-1は、過去の名機を回路からシミュレートしたVAマシンでした。
アナログシンセファンからは失望の声が出つつも、3万円から6万円台という絶妙な価格帯で、ガジェットシンセファンを大いに悩ませました。
VAマシンの強みとして、音源レベルでDTMとの連携が可能な点が挙げられます。
以降のRolandはAIRAやBoutiqueシリーズで過去機種の復刻を積極的に行う一方で、”Zen-Core”という新たな音源によるハード/ソフトの新製品を展開します。
そしてSH-4dはPCMやウェーブテーブルを含む11の音源とリズム音源、オールインワン的なシーケンサーを併せ持つ、AIRA以降の集大成的なシンセサイザーとなったように思います。
もちろんオーディオインターフェースによって、DAWへもUSB経由でそのまま録音できます。
PC連携という点で見れば、現時点ではRolandが一歩リードしているように思います。
今回は、アナログシンセ→デジタルシンセ→オールインワンシンセ→グルーヴボックス→ガジェットという国内トレンドの流れから語った私観を書き殴りました。
アナログシンセの現況については、あえて触れていませんが、ドイツのメーカーが批判を浴びながら安い商品を発売していたり、モジュラー好きという新たな市場も生まれています。
興味のある方は各自調べてくだされ。
ということで、SH-4dを弄りながら40年を振り返ると、MC-202とほとんど同じ価格なわけです。
「やっぱり安くなったよなあ、高いけど」という感慨しかないんですよね。
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