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Rolandの長い長い伏線
これまでに何度か書いてますが、ここ数年の僕の音楽制作環境はiPhoneでした。
アプリではKORG GadgetやRoland Zenbeatsを併用しつつ、YAMAHAさん謹製のMobile VOCALOID Editorで初音ミクライブラリを使用していました。
3大国産シンセメーカー揃い踏み。まさにアイ・ラブ・ジャパンであります。
このモバイル指向、2008年からニンテンドーDSのKORG DS-10やKORG M01というアプリを使い出したことに起因します。
ハードの制約に縛られつつ、ソファで横になり曲を仕上げていくのが猛烈に楽しくなってしまい、自分史的には寝モバ・イズ・ジャスティス時代と言えるものでした。
ところが、昨年末に「初音ミクNTを使ってみたい」との出来心から、作曲環境をPCに移すことになりました。
そこで同梱されたStudio One ArtistをベースにDAW環境を整えていくことになったわけです。
そんなタイミングで、一昨年購入したRoland MC-101の特典として、同社のプラグインシンセZENOLOGYのPro版が1年間無料で使用できるという知らせ。これがヤバいまじヤバい。
何がヤバいのか。
先に結論を書けば、Rolandが長年練り上げてきた戦略が、ここへ来て見事なほどにハマってきてるわけですよ。
オレなんかを相手に、こんなに壮大な伏線を張っておられたのかと、”してやられた感”にむせび泣くのです。
Rolandと言えば、80年代前半に発売されたTR-808やTB-303などが、1990年前後にクラブ界隈で注目され、中古市場において数倍の値で流通した過去があります。
さらに「クローン機」と呼ばれる類似製品にまでプレミア価格が付く始末。ファンたちはRoland自身の手によるアナログ後継機を熱望していました。
その一方、創業者である梯郁太郎さんには、とりわけ技術方面へのこだわりがあり、過去の製品をそのまま出さないという強い信念がありました。
インタビューなどで都度その旨を表明され、ワタクシども一介のユーザーごときですら「そんな強がりはおよしよ」とムード歌謡のような感慨を抱いたものです。
その梯さんが全ての役職から退かれた翌年の2014年、Rolandは”AIRA”のブランド名を冠した4つの新商品を発表しました。
TR-808や909の後継にあたるリズムマシンTR-8、TB-303の後継にあたるベースマシンTB-3、コンパクトなボイストランスフォーマーVT-3、そしてSHシリーズを連想させるパネルを擁したシンセサイザーSYSTEM-1。これが第一期のラインナップでした。
ところが、このリリース内容は一部のファンを失望させることになります。
VT-3を除き、ACBと呼ばれるアナログ回路をシミュレーションした音源によるバーチャルアナログ機だったからです。
折しもライバルメーカーのKORGは、ガジェットのmonotronに始まり、人気製品だったMS-20をアナログ回路で復刻して界隈を驚かせました。
またフランスのソフトメーカーArturiaも、RolandのSH-101を彷彿とさせるアナログ機MINIBRUTE、MICROBTUTEを発売しており、アナログ原理主義者たちは「やればできるんだ」と一方的に期待を膨らませていたのです。
シンセファンの間で物議を醸したAIRAシリーズの中で、まず僕が入手したのはSYSTEM-1でした。
実は新宿で真っ昼間から知人と痛飲し、楽器店に凸撃して試奏した挙げ句の衝動買いです。まあいいじゃん。
過去のRolandシンセをPC経由で本体にインストールできるPLUG-OUT機能に興味があったんですが、残念ながら店頭デモ機にはSH-101が入ってなかったので、デフォルトの4音ポリシンセの機能しか体験できなかったわけです。
それでもなお「このシンセはすごい」と思ったわけです。
VAだのアナログだの論議を抜きにして、とにかく音がいい意味で独特だったわけです。
エッジが効いてるだけじゃなく、フィルターの設定によっては繊細な音も鳴る、振り幅の大きいシンセだと感じました。
「アナログじゃないからこのシンセは良くない」と決めつけるのはハッキリ言ってもったいないと顔真っ赤にして思いましたね。泥酔でしたから、なにしろ。
そしてなんと言っても、このノブとスライダーの数。今ならソーシャルディスダンスで「もうちょい離れろ」と言われそうな密度。強面中のコワモテに惹かれました。
さて、本機の売りであるPLUG-OUT。
考えてみると、ArturiaのMini Vなど、他社の実機をシミュレートしたソフトウェアは数あれど、自社製品をVAのハードウェアで再現するという試みは初めてではないかと思います。
購入特典だったSH-101は、ファーストシンセだったこともあり、30年ぶりの再会に「あー、コレよコレ」という感じ(語彙)。
そしてSH-2、PROMARSと立て続けに入れてみて、波形やら挙動やらフィルターの特性やらいろいろ違うんだなあ、と改めて勉強になりました。
どうでもいいですが、この2機種の鍵盤が黄ばんでるのは、ヤニで染まってたわけじゃなくデフォだったんですね。
その後、敬愛するエイフェックス・ツイン監修のKORG monologueや、デイヴ・スミス師匠監修のToraiz AS-1など、他社のリアルアナログ機も購入して「アナログもいろいろやね」と達観してきたわけですが、SYSTEM-1は知人から「売らない方がいいっすよ」と言われたこともあり、時折思い出したようにPLUG-OUTを入れ替えて鳴らしておりました。
そして最初に書いたZENOLOGY Proのハナシに戻るわけですが。
ZENOLOGY Proには現在のRoland製品の共通音源となるZen-Coreシンセの他、モデル・エクスパンションとしてJUPITER-8、JUNO-106、JX-8P、SH-101の4機種が搭載されています。
これは初期のAIRAシリーズに使われたACBではなく、新たに開発されたABMというモデリング技術ですが、負荷が抑えられているため、モノフォニックのSH-101もポリフォニックで鳴らせます。
一昨年からRolandの新製品にはZen-Coreという共通音源が搭載されていますが、このモデル・エクスパンションを共有できるハードウェアはJUPITER-X/Xmのみです。
この機種には上記などのモデル音源をレイヤーしたり、弾いたメロディから自動でバッキングをつけるI-ARPEGGIOなど、楽しい機能が充実していますが、僕が一番気に入ったポイントは実機さながらに操作子で音作りできること。特にJUPITER-Xの満足感はただごとではありません。これだけ操作子があると…
あ、操作子…我が家で一番多いやつがいたじゃないか…
ふとベッドサイドに立て掛けていたSYSTEM-1を、MIDIキーボードとして繋いでみました。
JUPITER-8モデル・エクスパンションの各パラメーターを右クリックし、MIDI LearnでSYSTEM-1にアサインしてみたところ、なんと9割近くが収まりました。
JUPITER-8に至ってはフィルターが完全にコンパチブル(ビンテージフィルタータイプだけはREVERBノブに割り当て)。こりゃ優秀。
このアサインは他の3モデルにもほとんど引き継がれるため、SYSTEM-1の強面がここへきて全能に近づいたわけで、JUPITER-Xmより操作子が多い分、ちょっとお得な気分になります。
上位機種のSYSTEM-8だったら完璧だろうなとか。どうよこのコワモテ。
DAWにおいては欲しい音をイチから、フィジカルに作ることができるというのが大きいです。マウスやパッドはどうも苦手。
ちなみにモデル・エクスパンション以外のZen-Coreシンセは「パーシャル」という4層のレイヤーで構成され、それぞれ独立したシンセとなっていることなどの理由で、操作子の割り当てはほぼ不可能なのが実に残念であります。
そして当たり前と言えば当たり前ですが、SYSTEM-1の操作子がそのまま活きるのが、これ。
SYSTEM-1そのもののPLUG-OUTも購入してたんだよね。
Cloud Managerがなければ完全に忘れるとこだった。
一昨年、前述したZen-Core音源搭載機種の最廉価機種として登場したMC-101。
過去機種の詰め合わせとして購入したわけですが、出荷時点で3,000音がプリロードされており、さらにZENOLOGY Proでフルエディットした音をインポートすればもはや敵なし。
4トラックと言えどピンポンでまとめられるので、現代版カセットMTRとして活用できるのもポイント高し。
この12月にはZENOLOGY Proの無料試用期間が終わるけど、ここまでの7年間に購入したハードも活かせるとなれば、間違いなく契約しちまうんだろうな、こりゃ。
アナログとかバーチャルとか、ホントにどうでもよくなってきてます。
翻って国内3大メーカーでクローン機が作られ続けているのはRoland製品だけですが、悪名高き某社によって梯さんが懸念されていた価格競争に突入してしまいました。もはや市場壊滅の感は拭えません。
そんな中で、Rolandのここ数年の攻めっぷりを見るに、やはり無理矢理アナログで復刻しなくてよかったなと思う今日この頃であります。
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