「青い狐」 ドゴンの宇宙哲学
西アフリカ、マリ共和国のドゴン族は、神話の時代からシリウスの衛星である白色矮性、いわゆる「シリウスB」の存在を知っていたことでよく知られていますーその情報が、グリオールによる創作であった可能性と共に。
本書のあとがきでも語られている通り、マルセル・グリオールによるドゴン族の神話調査には複数の研究者がその信憑性に疑問を呈しています。曰く、グリオールの接触時点では、彼らは既に西洋社会との接点を持ち、その神話構造に影響を与えた可能性がある、と。
ベルギーのW.V.ベークの調査によると、上記の神話はグリオールが接触したグループからしか得られなかったとしています。
子供の頃、この神話のロマンに心踊らされた私は、長じてこれらの批判を目にして「なんだ嘘だったのか・・・」とすこぶるがっかりしたものです。
最近は、少し違う観点からこの問題を捉えるようになりました。
その第一は、かつては全ての民族に起こったであろう、異民族との接触による神話の変化、というサンプルとして捉えられないだろうかと感じ始めています。
第二は、異民族の神話に対する、恣意的な解釈のサンプルとしてです。彼らの神話をシリウスの連星と結びつけたのは、近代天文学の中にいる私たちです。異民族が持つもともとの神話に「新しい意味」を付け足して「あそこの民族にはこういう神話がある」と継承してきた、そんな事例も過去にはあったでしょう。そして、それらが神話元に「逆輸入」されて、「これが我々の神話である」と伝承する、そんな事例もあったのではないでしょうか。
グリオールが、何を意図してこの研究を残したのか。全てが「生」の採集なのか。あるいは、創作なのか。今となっては、推測はできても証明することは不可能でしょう。マリで行われた彼の葬儀には沢山のドゴンの民が訪れたそうです。