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〈起業〉という幻想 アメリカン・ドリームの現実

・以前に比べて、アメリカが、より起業的な場所になっているなどという事実はない。なぜなら、この国でスタートアップ企業が開始される割合は、実のところ、長期的には緩やかな低落傾向にあるからだ。
・ほとんどの起業家は、もっとも利益の上がる産業を選択せず、代わりにもっとも失敗する割合の高い産業を選択している。
・典型的な起業家は、シリコンバレーの大立て者などではなく、白人で既婚の40代男性で、誰かの下で働きたくないから自分でビジネスを始めたような人であり、単に日々の生活のやりくりをするためにそうしている。
・スタートアップ企業の雇用は、既存企業に比べて賃金が低く、フリンジ・ベネフィットも小さく、また、それが将来失われる可能性も高い。

すべて巻末のまとめから

※フリンジ・ベネフィット・・役員や従業員が享受する給与以外の利益。例えば社員だけ使えるカフェテリアや保養施設など。

 本書は主にアメリカの起業に関する現状について膨大なデータをもとに巷で言われている種々の言説を「神話」とし、実際はどうなのかを解き明かそうをするものである。著者はケース・ウェスタン大学の教授で本書のもととなった論文は2002年に米経営学会最優秀論文賞を受賞している。2008年に出版の本書もBest Business Book of 2008に選ばれている。邦訳版は2017年に出版されている。

 本書で述べられていることは「起業」関する一般的な言説がことごとく「神話」であるという事実である。自分が起業についてなんとなく思っていたことでデータ上真実であったことなど1つもなかった。例えば引用の冒頭のようにアメリカの起業に関する状況である。以前GE帝国盛衰史で巨大アメリカ企業がいかに日本の伝統的な企業と類似しているかを見、アメリカと日本の違いは、もっといえばアメリカの経済的パワーの源泉は、企業の新陳代謝だと思っていた。ただアメリカであっても経済の発展によって起業の割合は少しずつ少なくなっている。(なぜなら別に起業しなくてもそれなりの働き口はあるから)
 また、起業の動機は他人の下で働きたくないから、起業する産業は自分が前に勤めていた産業を選択し成長するかどうかを考えないなど、個人的な常識では考えられないような動機や意思決定が大半というのは驚かされた。ただ確かに起業という言葉自体が神話的雰囲気をまとっており、別にテック系のみが起業ではなく、飲食店開店やフランチャイズ加入も起業であり、そういった店が身の回りで興っては消えていく様を、自分含め多く人が見たことあるはずなのである。いわれてみればそのほうが絶対多いよなと。単にデータでそうなんだというよりも感覚的な部分によっても納得させられる。

 このほかに、なぜ女性や黒人の起業家は少ないのか、新興企業は経済成長を促すのか、などいくつもの起業に関する興味深いデータが示される。いかに自分がなんとなく知っている(つもり)のこと、そして経済や経営の専門家が知っていること、が根拠のない「神話」であることが説明される。ショックであり、また蒙が開かれるような感覚である。(最後にまとめがのっているのでそれだけ読んでもいいし、興味あるものだけ本編を読むのもいいと思う)
 起業しようと思っている人もきっと参考になると思うし、起業のサポート、ベンチャーキャピタルや官公庁でベンチャー支援をする立場にある人にとっても非常に参考なると思う。(ただし、これはあくまでアメリカの例であるのでそのまま日本に適用することには注意が必要だが)
 「起業」に関する大きすぎる期待、そして恐怖を、振り払ってくれる1冊だと思う。

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