世紀の相場師 ジェシー・リバモア

第二次世界大戦前にウォール街で株取引で大成功したアメリカ人の伝記。作者はリチャード・スミッテンで回顧録ではない。第1版が2001年出版なので結構最近になって書かれた本。リバモア自身は1940年に亡くなっているので本人にはインタビューしていない。息子や息子の奥さんなどから取材して作成している。

貧しい家庭に生まれて5ドルを握りしめて家出し、ボストンで株価の記録係からスタートし相場師として身を起こしていく。人生で3回も破産を経験しながらも捲土重来で株式市場で凄まじい成功を収める。なんと1929年の暴落の時には1億ドルを稼ぎ出す。ただ最後は私生活の問題から身持ちを崩して自殺してしまうという、まさにドラマそのものの人生である。前に読んだ「華麗なるギャツビー」のような印象を受けた。まぁギャツビーが密造酒で成り上がったのに対してリバモアは株取引なので違法と合法の差、またギャツビーは失った恋人を取り戻すために金持ちになったのに対してリバモアは株式市場そのものが恋人であるという、大きな差はあるが。アメリカ的なもののいいところも悪いところも十分に味わうことができる1冊である。

物語としても面白いが、本書にはリバモアの株取引に関する考え方もたくさん載っており、株取引、もっとひろく相場を扱う人、にとって参考になるものでもあると思った。本書は株取引の世界では(たぶん)有名なウィリアムオニールが何度も引用している、というよりリバモアの理論をほぼそのまま受け継いでいたんだと思うような類似性である。リバモアの理論の発展形がオニールの株取引の理論なのだろう。リバモアの理論について本書でも未だに議論があると記述されているが、これだけ高性能のコンピューターや高度な数学が発展している現在でも否定されていないというところが、リバモアの理論の確かさだと思った。

リバモアの理論は一言でいえば相場は人の心理的要素に影響されるということである。そのため企業の決算などが仮によかったとしても「思ったより」良くないと株価が下がったりすることを指摘していることである。そして株価というものがあくまで市場価格(買う人が多いか、売る人が多いか)で決められることから下がった株をお買い得として買ったりすることに疑問を呈している。いくらいい株であっても買う人がいなければ結局株価は上がらないからである。つまり個々の企業の業績よりも市場の流れを見ることの大切さを強調している。ウォーレン・バフェットのような企業の分析を重視する方法とは対照的な取引方法である。

個人的には株取引でチャートを分析してうんぬんについてはあまり理論的でないように思って眉唾物だとずっと思っていたが、人間の心理という普遍的なものに基礎づけて株価が動いているというのであれば、眉唾物と決めつけるのは間違いだったなと思った。人の心がいつの時代もかわらないということは文学を読む基本的な大前提なので。株以外でもFXや仮想通貨の取引をやっている方がいたらオススメに1冊。ただ著者自身が書いた「リバモア流投機術」のほうが目的にはより近いと思うが、こちらのほうが小説的な要素が強いのでより読みやすいと思う。

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