東映との闘いの一年間のまとめ(長時間労働・残業代不払・セクハラについて)
◯はじめに
私は東映株式会社に入社し、制作現場でパワハラ・セクハラ・過重労働の被害に遭い、適応障害で休職をしています。
休職期間中は、精神科やカウンセリングに通いながら、総合サポートユニオンに加盟し、東映と交渉を行ってきました。
総合サポートユニオンに加入し、交渉することを選んでから、約1年が経ったので、振り返りをしていきます。
なお、noteに書いた東映側の対応は、録音・スクショ・文書などの客観的な記録にもとづいたものです。
◯これまでの経緯
2021年7月 適応障害で休職
2021年9月 東映へ団体交渉を申し入れ
2021年11月 東映の団体交渉の態度が不誠実だったため、noteを投稿する
(2021年12月〜2022年3月団体交渉による精神的疲弊により、団体交渉を一旦休止)
2022年4月 東映が是正勧告を受けたことを記者会見で公表
◯noteの記事が拡散されて以降
交渉当初、東映とは非公開の話し合いで解決していきたいと考えていました。
しかし、東映の団体交渉の態度が不誠実だったため、「このまま閉じた場所の話し合いでは解決しない」と考え、問題をオープンにしようと決めました。
投稿から数日後、noteがSNS上で大きく拡散されたので「これで東映がセクハラ調査へ乗り出し、公式HPで謝罪をしてくれるのではないか」と少しホッとしたような、一筋の光が差したような気持ちがしました。
(東映は過去に、シアターGロッソのヒーローショーで働いていた女性がセクハラ被害を告発したことがありました。その際、2019年6月23日に被害者女性によるTweetがあったのに対し、東映は7月6日に公式HPに報告文、8月19日に「最終報告」が掲載されました)
しかし、本件に関しては、現在まで東映は謝罪どころか何のコメントもしてくれていません。
ちなみに、社内に向けての説明もありませんでした。社員の中からも説明を求める声があったようですが……
総合サポートユニオンにも、謝罪のひとこともなく、ただ開き直ったかのような「抗議書」を送ってくるのみでした。
◯是正勧告が起こってから
2022年4月14日に記者会見を開き、中央労働基準監督署が東映に対し、労働基準法32条、労働基準法37条、労働安全法66条の違反で是正勧告を出したことを発表しました。
その頃の私の精神状態というと、2021年11月の団体交渉で、尊敬していた上司から「組織としての問題ではなく、あなたがAPの適性がなかっただけ」という趣旨の発言をされたことから鬱状態がひどくなり、一日中ベッドの上にいるような生活を送っていました。
もしかすると労働時間に耐えられなかった自分が悪かったのではないか?と自分を責める日々が続きました。
そんな中での是正勧告は、客観的に見ても労働時間に問題があると認定されたということですので、胸のつかえが下りました。
noteの記事が拡散されたあとTwitterには「noteに書いてあることは一方的な主張でしかない」「この告発女性(私)が実在するかわからない」という反応があったことから、公的機関の指導によって、自らの潔白を証明できると救われた思いでした。(これに関しては、双方の意見を見てから判断したいという意見は当たり前だと思います。東映は一刻もはやく、告発に対して公式発表を出してほしいです)
●社外に対する対応
東映は是正勧告を受けたことを公式HPで発表していません。
あくまでも「弊社の「働き方改革」への取り組みにつきまして」という労働環境をよくするための取り組みしている旨プレスリリースを出したのみで、不十分な対応だと思います。
●社内に対して
私は当初、是正勧告が出たら、社内に対して労基法違反の周知を徹底し、クリーンな労働環境への改革が行われると思っていました。
しかし、東映は、3度に渡って是正勧告が告げられてもその事実を社内に伝えず、総合サポートユニオンが記者会見をした約1週間後にようやく社内ツールに「是正勧告の報告と今後の対策について」という文書を掲載し、明らかにしました。
しかも、その文書は、あくまでも是正勧告が出たが「全て是正済み」であるということを強調した報告文でした。(ちなみに、当時、私に対して未払い残業代は振り込まれていなかったので、全て是正済みという報告は誤りです)
是正勧告を受けた内容についての言及はなく、不透明な報告文でした。
是正勧告を社内全体に伝え、誠実に対応をしようと思っているならば、是正勧告を受けた内容を伝える責任があるのではないでしょうか?
◯残業代について
東映は「定額働かせ放題」といわれる固定残業制を採っていたため、「勤怠記録をつけても意味がない」という従業員の風潮があり、従業員の勤怠時間を管理していませんでした。(これは、労働安全衛生法46条の違反として是正勧告を受けています)
そのため、今までの未払い残業代を請求するために、メールやLINEの履歴をもとにエクセルで集計し、申告しました。
是正勧告が出た後、すぐに是正すべく動き出すものと思っていましたが、東映から連絡はありませんでした。労基署が東映に対し命じた「4月」という期限を過ぎても、支払われず、労基署担当者も困惑していました。
そこで、総合サポートユニオンのTwitterで抗議活動をし、Japanese Film ProjectさんにもTweetしていただきました。
こうした抗議活動に対応してか、2週間後、5月17日に団体交渉が開催されたところ、東映から私の残業代は70,987円で、この入金により是正終了とすることを一方的に伝えられました。これは、私の自己申告より異常に少ない額でした。(桁が違いました)
この際、渡された文章にはこのような、悪意を感じる一文がありました。
東映は未払残業代の清算にあたって、私以外の該当社員に対しては、精算に関する説明会を実施し、従業員の申告額にもとづいて支払いを行っています。休職中の私にも連絡をしてくれる社員が数人いらっしゃるのですが、その中には「申告額の通り、●●●万振り込まれた!」と教えてくれる人もいました。その傍、私だけ7万円……という状況は東映が私に対して嫌がらせをしているようにしか思えませんでした。
労働争議をしている人にだけ計算方法を変え、少ない金額を振り込むという事態は、組合員に対する不利益取り扱いであると主張していますが、東映はFAXにて
と聞き入れてくれません。
●固定残業制度について
長時間労働・残業代不払いの温床となっていた固定残業制は、昨年廃止されましたが、そもそも、過去にまかり通っていたこの固定残業制が不当だったことを認めてもらい、社員全員分、固定残業制が適応されている期間の給与を再計算して払い直すことを求めています。東映は「不適切だったが不当ではない」を繰り返し、対話にならない状態です。
しかし、
・固定残業制の変更の理由は「プロデューサーの時間管理が難しいから」という不適切な内容だった
・固定残業制については就業規則には書かれていなかった
・固定残業制導入にあたって、口頭での説明で、明確な金額を伝えていなかった
という事実は、東映側も認めていることから、今後もこの論点は争っていきたいです。
●残業時間について
実際に残業時間の改善に乗り出しているかは、確認が取れていません。
一作品あたりのAPの数は変わらず、スピンオフの本数も変わっていないことは確認できています。
●セクハラについて
現在、弁護士によるヒアリングが行われ、報告文を待っています。
東映は、申し立てをしてから約7ヶ月経ってから、やっと今年5月の団体交渉でセクハラについて話すことができました。
本団体交渉でも、弁護士から「どうして今更、過去のセクハラを訴えたいと思ったのか?」と質問をされるなど、セカンドハラスメントと思しき発言がありました。
この団体交渉中に、私が在籍中にホットラインに相談していたことが、部署の責任者へ伝達されていなかったことが発覚しました。その理由は「プライバシーを守るため」と東映は主張しています。
どういうことかというと、最初、私がホットラインに通報した際、解決策として「撮影所所長が、直接◯◯さん(加害者)に注意する」という提案をされました。しかし、当時の私は報復の怖さを感じ、この案を断りました。
それを引き合いに出され「報復が怖いと言っていたんだから、あなたのためを思って、プライバシーを最大限に守ってセクハラを対応した(だから上司に報告しなかった)」と言われました。しかし、プライバシー保護と、部署の責任者へ連絡を怠ることは、別問題だと考えます。
数年前の自分が、恐怖を感じて通報したにも関わらず、まともに取り合ってもらえず、さらには部長にも伝達されていなかったのならば、やりきれない思いです。
Japanese Film Projectさんが調査した、映画配給会社の女性役員人数ですが、東映は4大配給会社の中でもワースト1位の29人中1人、3%でした。女性上層部が少ないということは女性が働きにくい環境であることも想像がつくかと思います。どうか私の声を聞かないふりをしないで、会社全体の働き方の改善につなげてくださればと思います。
◯作品内での描写について
是正勧告がくだった東映が、2020年〜2021年の間で、実際にどのような作品を作り、どのようなトラブルが続いたのかについて書いていきたいと思います。
直接因果があると明言はできませんが、東映の現在の労働環境が続いているのは、時代についていけてない、価値観がアップデートできていない会社であることが少なからず影響していると思います。そして、それらの制作者の態度が、こうしたトラブルに続いているのではないかと思います。
・「ガオフェス」について
純烈・酒井一圭さんがヒーローショーで女性キャラクターの尻を触り、その映像と共に囃し立てるハッシュタグをつけてツイートしていた件について、change.orgで3000人を超える署名が集まりました。
しかし、東映はその署名に対して公式で説明していません。
発起人の方がブログで東映との交渉の様子を書かれていますが「こちらの話が終わる前に、さえぎるように返答される」という対応は、私に対して行っていることと一緒なので、胸が痛くなりました。東映は起きた問題に対し、真摯に対応しようとしない態度なのだと、こちらの件でも感じました。
https://www.change.org/p/東映株式会社-東映にガオフェスでの性暴力に対する正式な見解と改善を求めます/u/30002752
・「相棒」20元旦SPについて
脚本家の太田愛さんが、脚本の意図とは違う演出をされたとブログで謝罪することがありました。このシーンは、非正規の方々が会社に抗議するというシーンでしたが、その様子がヒステリックに描かれるという悪変が行われたとのことでした。
この演出を見て、東映は「デモ活動をする人」をこんなふうに見ているんだろうなと思いました。会社の不当な行為に対して正当な権利行使をしている人のことを、脚本家の意図とは違う形で「ヒステリックで醜い」ように描写することは誤りだと思います。
そして、この太田愛さんの発信に対して、未だに東映は公式で説明していません。
・「ハザードランプ」について
榊英雄が監督をしている本作は、公開を見送られました。
事件発覚から数日後に出された第一報では、通常通り劇場公開をするというものでした。「ハラスメントは、事実であれば決して許されない」などという文面は、東映が私に対して送ってくる文章と同じで、あくまでもセクハラの真偽はわからないというスタンスです。
勇気を振り絞って告発した被害者女性を思うと心が痛みました。公開の見送りは、本ツイートに対して抗議の声が上がったことによって成し得たことだと思います。抗議の声がなければ、「多くのスタッフ、キャストなどの関係者の労力と協力」に報いたいなどと言って、公開する予定だったので、認識の浅さに失望します。
◯東映に対して
私は東映株式会社の一員であり、東映を潰したいわけではありません。建設的に話し合い、解決したいと思っています。会社は、この声を潰そうとし、敵対視してきているので、困ります。
noteを出した後、東映で働く社員から「こうして公に出すのが正しいと思えない」「自分が同じ立場だったら、転職するけどね」という連絡が来たことがありました。
この発言は、東映で働く人ならば全員過重労働やセクハラ・パワハラがあり、それを無視しているということを知っているということがよく現れていると思います。
他者が、私の行動を責めるときには必ずと言って良いほど、その「やり方」を責めてきます。
これは、トーンポリシングだと思います。
そもそも、私がnoteを書いたり、記者会見をしたりしたのは、これまで東映が真摯にこの問題に向き合ってくださらなかったことが発端です。
責任者が団体交渉に30分しか参加しなかったり、総合サポートユニオンとの協定書を結ばずに社内組合と急ピッチで都合の良い協定書を結んだり、私にだけ少ない残業代を振り込んだりするのは、会社の対応として問題があります。
なんの因果か、ゼンカイジャー2021/10/24放送回では「偉い人を現場に引き摺り出すにはもめごとよ」というセリフがありました。皮肉にも、自分の状態を表しているセリフだと思いました。
東映は、足りなくなった若手APの枠を埋めようとしているのか、第二新卒(23歳〜29歳程度)の採用を開始しました。根本的な環境を変えなければ、映像業界に希望を持った新人を募り、幻滅させ、去っていかれる、今までと同じことが繰り返されるだけだと思います。
東映は、安全に健康に働きながら映像作品を作り続けられるように努力をしてください。ここで改革へのスタートラインにはじめて立ったと認識してください。
◯番組視聴をされている皆さんへ
ラジレンジャー第500回で、ある東映プロデューサーが現場の人手不足を嘆いていましたが、今の労働環境だと人は集まらないのも当然だと思います。
これから何年かしたら、より一層、プロデューサー不足、予算不足、人員不足、時間不足による、破綻は顕著になると思います。
視聴者の皆さんの「仮面ライダーが好き・現行のライダーを応援する」という気持ちと「スタッフの労働環境の改善を求める」という気持ちは両立できるはずです。
あるファンの方が、本件に関して「何かしたい」人に向けて、東映のお問い合わせフォームに気持ちを書き込むということを呼びかけてくださいました。これは非常に効果的だと思います。いま、東映は「告発しているのは一人だけの問題」と言って、収束させようとしています。長くシリーズを見てくださる方なら、どれほど撮影現場が過酷かわかってくださると思います。もし、何かしたいという方がいらっしゃったら、こちらに一言でも良いので、書き込んでいただければ幸いです。
東映が、内部から変わっていくことを望んでいます。
■相談窓口について
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