朝【エッセイ】
「……寝れねぇ……」分厚いカーテンによって自然の光が入るのを拒まれた暗い部屋に吐いた呟きはすぐに闇に呑まれていく。
長時間暗闇にいることによって手に入れた暗視能力を駆使し、充電中のスマホを見つけ出し、寝ぼけ眼でも何でもない眼で画面を見れば、そこには残酷に4:16という白文字が映し出されていた。
「やばいやばいやばい……」今の感情をその三文字の形容詞にふんだんに込め、喉から三発も闇に撃つがため息だけがベットの上に落ちる。そのまま枕に顔を埋める。が、自分の思惑とは裏腹にどんどん頭は冴えていく。
「いや、ぶっちゃけ3:00までなら冬休みとかの時起きてたし」となんの擁護にもならない言い訳だと分かっていながらも、落ち着くための言葉の薬を飲む。その時、僕が体を起こした反動でカーテンがめくれた。
部屋に差し込んだ光は百万ドルの夜景などではない。いやまあ、少し前はそうだったのかもしれないが。今僕に届いている情報の大部分は一億4960万kmも離れた星からの光だ。そう、太陽が東京に顔を出していた。
人生初の日の出を目撃し、僕は口をぽかんと阿呆らしくあけ、その空を眺め続ける。まだ顔の70パーセントしか出してない太陽は綺麗に空の上と下で紺と朱のコントラストを作り上げていた。その芸術としか呼べない最高の空を眺め続ける。
何分経っただろうか、自我を取り戻した時には太陽は100パーセント顔を出していた。
すぐにカーテンを閉じ、横になる。
「羊が一匹、羊が二匹、羊が」その呪文は英語でなければ意味を成さないということを知っていたが一旦その知識をゴミ箱にドラッグアンドドロップ。
勿論、日本語でつぶやかれたその呪文はただの文字の羅列へと変化し、僕にはなんの効果も示さなかった。
もし、この夜が映画化されるなら、一つ目の山場はさっきの空であろう。映画のポスターにもそこが使われるはずだ。次の山場はきっとここだろう。ここのチャプターに題名をつけるなら、『絶望』
ぶっちゃけ寝そうだった。これは真実だ。なんなら瞼の裏では、小学校の時の友達と好きな漫画のキャラクターが二人三脚でドバイの高いビルから高尾山まで綱渡りをする(僕の役職はなし)というイミフな光景が映し出されていた。
クーラーの効いたその快適な部屋。その冷気とは真逆にあったかく僕を包み込む毛布。少し、差し込む蒼い光。静かな部屋。囀る小鳥。そしてその平和な空間は秒で崩れ去った。
ミィィィィィィィィィィィィンミィィィィィィィィィィィィンミィィィィィィィィィィィィン
僕の耳に届いたその不協和音は僕を現実に連れ戻す手段として最適だった。
ぐわああああああああああああ心の中で叫ぶ。
おい!てめええ!今の幸せなひとときを返せ!今すぐ死ね!ああああああ!
七日の命に辛辣すぎる言葉を吐く。
ふう、言いすぎました。七日間しか生きれない彼らに酷いことを言ってしまいました。その鳴き声は既に旅立った仲間達への鎮魂歌なのですよね。儚さをその勢いで覆す、さっきの空よりも芸術なのではないでしょうか? ここまで保ってきたキャラを保持するために無意味な抵抗をしてみる。
…
…
…
とでもいうと思ったかあああ! おい! お前らの事情なんか知るか! お前らは土の中でいっぱい寝れてるんだろ! おい! そのお口にチャックしろ! クソおおおおおおお!
枕に顔を埋める。いやいやいやなんで彼らに自分の人生を左右されなければいけないんだ。我にかえり、深呼吸して、世界に一旦のお別れを告げる。
「おやすみ」
クーラーの効いた部屋。心地良い毛布。少し差し込む蒼い光。囀る小鳥そして
ミイイイイイイイイイイイイイン。ミイイイイイイイイイイイイイン。ミイイイイイイイイイイイイイン。
グっ
クーラーの効いた部屋。心地良い毛布。少し差し込む蒼いhミイイイイインミイイイインミイイイインミイイイイイイイイイイン
うがあああああ! ふざけるなあ! ねれるかああ! その怒りの反動を利用し、身を布団から投げ出す。少しめくれたカーテンのおかげで暗視能力などを使わずに扉の取手の位置を見つける。心なしか重い扉を両手で開け、キッチンへと足を進める。家族を起こさないようにと忍者気分。
キッチンはカーテンがないため、真昼同様の明るさだ。
ペットボトルで少し尖ったコップに水を注ぎ、次はコップで口に水を注ぐ。
カラカラな砂漠は一瞬にしてオアシスへと成り上がる。
窓に目を向ける。暗かった空は明るくなり、小鳥が鳴き、ミイイイイイイン。うん、いい世界だ。
十七時間連続で脳を覚醒させている僕の体は本来満身創痍のはずだが、なぜかその時はヒエラルキーの一番上に立ったような爽快感と若さ故の無双感を最大限感じていた。
神野 祐介(中学3年)