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WHYの深堀りをするクライアントインタビューはWHYの前後が重要

プロジェクト序盤でクライアント担当者、また上長や組織の長にインタビューを行うことがあります。その際どのようなことを聞けばプロジェクトのことを深く理解できビジョンを共有できるのでしょうか。よく言われるように大事なのはWHYを深堀りしクライアントの考え方や価値観に触れることでしょう。しかしインタビューにおける本質的な課題はWHYの深堀りの前後にあるように思います。つまりどのようにしてWHYの深堀りまで辿りつくか。そしてどの程度それをデザインに落とし込むかではないかと。これまでのいくつかの経験をもとに、私たちが準備していることから実際にインタビュー時に聞いていることをまとめてみます。

(ここで「ヒアリング」ではなく「インタビュー」と呼んでいるのは、「ヒアリング」には「お伺いする」というニュアンスがあり、見積作成のために話を聞かせてもらうような印象がうまれるきらいがあるため「深く掘り下げる」というニュアンスのある「インタビュー」という語を使っています。)


0. 準備 - インタビューガイドをつくる

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インタビューの前には必ずインタビューガイドを作ります。「インタビュー質問表」とすこし違うのは、なぜこの質問をするのかという目的や、参加しているのは誰かなど前提条件を含めて書いてある点です。インタビュー相手の組織やプロジェクトについて既出の記事等がある場合には、こちらがどの記事を読んでいるかも記載します。

インタビューでは「はじめまして」の場合も多いのでいきなり質問を投げかける前にインタビュー相手との信頼関係の基礎をつくることが大切。そのために私たちは質問を始める前に下記の4つのことをまずインタビュー相手に伝えています。

1. 目的 ― インタビューをもとに何をしようとしているのか
インタビューの目的はケースバイケース。「プロジェクトを深く理解しコンセプト作成のヒントにしたい場合」もあれば「クライアントビジネスにおけるプロジェクトの位置づけを理解しKPIを設定しなおす場合」などもあります。特にクライアント担当者ではないステークホルダーにインタビューを行う場合はインタビューの目的自体(インタビューすることによって何をしたいのか)をきちんと伝えるという、そもそものところからスタートします。

2. インタビュー参加者 ー この場にいるのは誰なのか
インタビューでは多くの場合に「インタビュアー」の他に、メモを取る「ノートテイカー」、写真や映像を撮る「フォトグラファー」、話を聞いている「リスナー」が同じ場にいます。インタビュアーの自己紹介だけでなく、その場にいる全員が「誰であり何のためにこの場にいるのか」を共有します。些細なことですが全員が簡単な挨拶を一言して場にチェックインすることがその場の安心感や信頼感といった空気につながります。

3. 記録 ― 何を記録しどのように使う予定なのか
メモ、音声、写真、映像など、全ての媒体においてインタビュー相手の許可を事前に取ってから記録を始めるようにします。特にカメラは撮影をしなくても相手にいきなりレンズを向けないように注意します。スマートフォンやレコーダーも許可を取るまでは机の上に置かないなどの心配りが大切です。インタビューの同行者が「インタビュー風景」をスマホで写真に取る際にも必ず一言断ってから写真を撮るように注意します。(オンラインのインタビューでスクショを撮るときも同様ですね)また記録したものをインタビュー後にどのように使い、誰が見聞きする予定なのかも伝えます。

4. 時間 ― どれくらいの時間で何を質問する予定なのか
これから何分くらいのインタビューを行うのか。その時間の中でどのような順序で質問をしていくのか。質問の流れも含めて事前に伝えていきます。インタビューガイドは事前にメールなどで送る場合もありますがインタビュー開始前には必ず10分くらいの時間を使い、読み合わせをすることで心理的安全性のある場づくりをしていきます。

1. 着席 ― コンフォートゾーンに入る

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対面のインタビューの際には、まずインタビュー相手のコンフォートゾーンから外れないことを意識して席につきます。視界に入らないところに知らない人がいるのは誰にとっても嫌なもの。着席時はインタビュー相手の視野の範囲である30℃+15℃の範囲に全員が収まるように気をつけます。

インタビュー時はどうしてもインタビューをする側が「多数」なのに対して、インタビューを受ける側が「少数」となるケースが多いためインタビューへ同行するメンバーもなるべくミニマムにした方が良いですね。

またクライアント先に出向いた際に椅子やテーブルの位置がカチッと決まってしまっている場合も多くあります。その場合にはインタビューをしやすい配置に席を並び替えたほうが良いと思います。私の経験上ではまだ断られたことはありません。

2. ウォームアップ ― 事実を聞く

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いよいよインタビューの開始です。この段階は上図の「開始直後」にあたりインタビュー相手のストレスや緊張が最も高まっているタイミングです。そのため、すぐに相手の「考え」や「想い」といった内面から聞くのではなく答えるのが簡単な「事実」から聞くようにしています。WHYではなくWHATを聞くような感じです。

例えば「いまどのような仕事をしていますか?」という質問に対して「◯◯プロジェクトのチームリーダーをしています。」という答えが返ってきた場合には「◯◯プロジェクトのチームリーダーとはどのような仕事ですか?」と聞いていく。これがインタビュー相手がクライアントの社長だったりする場合「◯◯の代表をしています。」と言われると、なぜだか「なるほど社長ですか…」と変に尻込みしてしまいそうになるのですが「◯◯の代表とはどのような仕事ですか?」と聞いていかないとですね。インタビューでは分かったふりや、一般解に当てはめようとしないことが一番大切です。

ウォームアップで聞く質問は単純なものとなります。私たちは大体下記の3つのような質問をしています。

・いまどのような仕事をしているか。
・いまの仕事に携わっているきっかけはなにか。
・いまの仕事ならではのエピソードはなにか。

3. ディープダイブ ― 考えや想いを聞く

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ウォームアップで「事実」を聞いたら、いよいよ「考え」や「想い」を聞いていく段階です。準備(インタビューガイド)、着席(コンフォートゾーン)、ウォームアップとステップを踏んできて、このWHYを聞ける段階を私たちはディープダイブと呼んでいます。

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良いインタビューでは普段目に見えたり触れたりできないけど、その人らしさを支える礎となっている価値観やあり方に触れることができる。それはまるでバディを組んで海に潜るダイビングのような冒険的行為だと考えているからです。

ディープダイブではまず「事実」を聞き、その回答に対して「WHY(理由)」を聞きます。そして「WHY(理由)」の回答に対して「HOW MUCH(どの程度)」を聞いていきます。

私たちがここで「HOW MUCH(どの程度)」を聞くことを重視している理由は最終的にデザインとして見たり触れたりできるものを制作するからです。コンセプトやインサイトの核となる「キーワード」を発見して終わりではなく、それをどの程度のバランスでアウトプットしていくかの感覚を掴みたいからです。

ディープダイブで尋ねる質問はだいたい下記のような内容でしょうか。他にも、こういうことを聞くとインタビュー相手からもっと「らしさ」や「想い」が引き出せるよなどアドバイスあれば教えてもらえると嬉しいです。

・いま力を入れて取り組んでいることはなにか。
 └ なぜそこに注力しているのか。

・このプロジェクトを通してどのような変化を期待しているか。
 └ なぜそのような変化があると良いか。
  └ どの程度そのような変化があると良いか。

・伝えきれていない組織の魅力はなにか。
 └ なぜこれまで伝えられなかったのか。
  └ どの程度そのような魅力が伝わると良いか。

・これまでの仕事で最も印象に残っているものはなにか。
 └ なぜそれは印象に残っているのか。
  └ 今回のプロジェクトでどの程度それに近い体験を狙うか。

・仕事をする上で大切にしていることはなにか。
 └ なぜそれを大切にしているのか。

実際にはインタビュー中に「なぜ」という単語を繰り返しすぎてしまうのを避けるために「どうして」と言い換えてみたり、相手の発言を「オウム返しにする」というのもよくやりますね。

4. ラップアップ ― 不安を取り除く

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インタビュー終了へ向けて。

視点を変えてインタビューを受ける側にたつと、インタビュー終了後には「こんな話で良かったのだろうか」とか「適切な言い方じゃなかったかもしれない」だったり「インタビュー中に撮られた写真が変な顔しているかもしれない」など様々な軽い不安に襲われます。ラップアップをすることで、そうした不安をできる限り解消するインタビューの終わり方を目指します。

インタビューを依頼する際にはラップアップの時間も含めて時間を確保しないと、話し終えた途端に「次があるので後はおまかせします」と席を立たれてしまうことも少なくありません。ラップアップをインタビュー終了時のお決まりのお礼や挨拶と考えずにインタビュー設計の中にしっかりと入れておくことが大切ですね。ラップアップでは主に下記のようなことを行います。

・撮影した写真や映像を一緒に確認しNGなものや使ってほしくないものがないか確認。NGがあればその場でデータを消去する。

・ノートテイカーが取ったメモをざっと一緒に確認し、すぐに内容を訂正・追記したい箇所がないか確認。

・このインタビューは何か「記事」になるのではなく、今回のプロジェクト理解のために行わせてもらったことを改めて伝える。

・連絡先の交換。最初に名刺交換などしている場合が多いが、最後にも連絡先を改めて伝える。

・謝礼のお渡し。謝礼が発生しない場合でもお菓子のような何かちょっとした手土産があると良い。(コンビニでお菓子を買うことも結構あります。)

インタビュー設計を丁寧に行うのは、インタビュー相手がクライアントだからという理由ではありません。ユーザーインタビューの場合でも、もちろん同様の注意を払います。(ユーザーインタビューの際には「なぜあなたに話を聞くのか」「どのようなリクルーティングの基準であなたを選んだのか」ということを、さらに注意してお伝えします。)

インタビューは話を聞く相手に心理的なプレッシャーを与えてしまったり、下手をすると記録した言葉や映像を編集して誤用してしまう可能性も孕んでいます。そのためこちらの意図をきちんと伝えること。そしてインタビュー相手の意図を確認しすぎなくらい確認することによって可能なかぎり不安要素を取り除くことに努めています。

●プロジェクト序盤でインタビューを行うメリット

インタビューを行うことでプロジェクトの目的・理由(WHY)をストーリーとして理解することができます。ストーリーとして知ることで感情移入ができるので共感は深いものになっていきます。また同時にどの程度(HOW MUCH)デザインに落とし込むかについても感触を掴むことができます。

例えばWebサイトやロゴやCIのリニューアルを行うとき、デザインする影響によって何かしらの変化を起こすことを狙います。ターゲットユーザー層の変化、社員のモチベーションの変化、業界内ポジションの変化など、そこに期待されるものは色々ありますが、どの程度の変化を狙うのかは繊細な問題です。大きすぎる変化は既存ユーザー層から受け入れられるのが難しくなり、小さすぎる変化では効果が出ない。ビジョンに対して半歩先くらいが丁度いいバランスなのか。または大きくジャンプをしたいタイミングなのか。インタビュー相手と一緒に今回のプロジェクトの適切な射程はどこにあるのかを探っていくような話ができると、後のデザインフェーズで諸々の判断が的確になっていくように思います。

「ストーリーが大切」「共感が大切」とは、特にUXの文脈でよく言われますが、それはデザインの方向性以上に、デザインの落としどころという距離感を掴むため。そしてプロジェクトメンバーがその距離感を等しく共有するためではないでしょうか。

クライアントインタビューはプロジェクト序盤の要件定義で行うことが多いので、ディレクターやUXデザイナーが行った結果をレポートとしてデザイナーに渡されることも多くありますが、そもそも書面から伝わりにくいことを掴むためにクライアントインタビューを行っているのでデザイナーやエンジニアといった最終アウトプットをつくる人も一緒に入ったほうがよいですね。


Shhh inc.は「大切となるものをつくる」を理念に掲げ、よく尋ね、よく対話をすることを通して、物事に備わる美質を深く理解することを大事にしています。Webサイト制作のご依頼や、ご相談がございましたらお気軽にご連絡ください。様々な事例とともに、私たちの強みや、制作フローについてご案内します。

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