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伝染するナラ枯れ病

◆今年の夏は,イチジクの木に穴をあけ猛威を振るうカミキリムシの退治をやりました.なんとか撃退できてイチジクの木も持ち直し,実が熟すところまでこぎつけました.イチジクのこの話は,前号をご覧下さい.
https://note.com/sgk2005/n/n28918a34fb15

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◆カミキリムシが活動すると,木の根元におがくずが散らばるので発見できます.この夏は,色々な所で,木の根元におがくずが散らばっているのを見かけました.次の写真は,道路で見かけたドウダンツツジが攻撃を受けている状態.これもカミキリムシの仕業と思っていますが,確証はありません.

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別の話ですが,ここの土には蟻地獄の巣もできていることを発見し,うれしくなりました.私は,小学生の頃蟻地獄を飼っていたことがあり,蟻地獄の住める環境が減って行くのを悲しく思っています.

◆さて,次の写真は,本号のテーマである「ナラ枯れ病」で枯れた公園の「こなら」の木です.

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すっかり枯れてしまいましたが,たかが小さなカミキリムシで,こんなに大きな「こなら」の木が枯れてしまうのを不思議に思っていました.また,まだ枯れてはいないものの,公園の多くの「こなら」の木の根元におがくずがたまっているのを見ました.これから枯れ始めるかもしれません.

カミキリムシと「イチジク」,「こなら」の被害写真を見たfacebook友達が,「ナラ枯れ」の情報を教えてくれました.実は,たいへんな状況になっているのですね.

◆「ナラ枯れ」は,長い間虫害とされていましたが,近年の研究により,「ナラ枯れ」で樹木が枯れる直接の原因は菌類であること,および,病原菌をカシナガ(カシノナガキクイムシ)が運んでいることが明らかになりました.

「ナラ枯れ」は,カシノナガキクイムシによる虫害ではなく,カシナガが病原菌を伝播することによって起こる樹木の伝染病なのでした.

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引用:ーーーーー
① ちょうふ環境市民会議

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② ナラ枯れの被害をどう減らすか―里山林を守るために―
独立行政法人森林総合研究所関西支所

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②によると,暖冬が,多くのカシノナガキクイムシの越冬を可能にしていると指摘しています.そして,伐倒処理する樹木をバイオマス燃料として利用する事業を起ち上げ,その利益を伐倒後の樹林の再生につなげるなどの対策が必要ではないかと提案しています.

◆ナラ枯れ病の仕組みを②から引用します:

生きている細胞に菌が侵入,病原菌(Raffaelea quercivora)は雌のカシノナガキクイムシ(以下カシナガと略記)のMycangia(胞子貯蔵器官、p.7参照)に入った状態でコナラやミズナラの樹幹内に持ち込まれる。
辺材部(図16A)にカシナガの孔道が密に形成されると、菌糸は孔道を伝って迅速に広がる。辺材木部の組織(図17)では、病原菌の菌糸が道管の中から生きている柔細胞の中に侵入している様子が観察される。
この菌はこのように生きた細胞から栄養を吸収することができる。死んだ組織から栄養を吸収する腐生的な菌ではない。菌が感染した部分では細胞は死に、材は褐色に変色する(図16B)。
変色した木部組織は傷害心材とも呼ばれ、その部分では樹液は上昇できない。ナラ枯れにおいて樹木を枯らしている病原菌はRaffaelea quercivora(ラファエレア・クエルキボーラ)という学名*1を持つ糸状菌、いわゆるカビである(図14、15)。現在のところ、この菌には定まった和名がないので、以下では学名で呼ぶことにする。
R. quercivora の病原性
R. quercivoraはナラ枯れで枯死した樹木の組織から高い頻度で分離される。この菌を純粋培養して健康なナラ類樹木に接種すると、ナラ枯れで観察されるのと同様な状態でナラ類樹木が枯死することが、複数の研究者によって確認されている。また、その枯死木からは、再びこの菌を純粋な状態で分離することができる。これらの実験結果から、R. quercivoraはナラ類樹木を枯死させる病原菌であることが確認されている。
R. quercivora とカシナガとの関係
一方、R. quercivoraは樹木から脱出してきたカシノナガキクイムシ(以下、カシナガと略記)の体からも分離される。また、健全なナラ類樹木に対してカシナガを人工的に大量に穿孔させてやると、やはりナラ枯れで観察されるのと同様に樹木が枯死し、枯死木からはこの菌が純粋な状態で分離されることが確認されている。
これらのことから、R. quercivoraはカシナガによって枯死木から持ち出され、健全な樹木の組織の中に持ち込まれることが明らかになっている。すなわち、ナラ枯れにおいてカシナガは病原菌を伝播するベクターの役割を果たしている。一方、カシナガの繁殖成功度は生存木より枯死木の方がはるかに高く、R. quercivoraは木を枯死させることでカシナガにとって好適な環境を作り出していると考えられる。このことから、R. quercivoraとカシナガとは相利共生の関係にあるものと考えられる。
酵母類とカシナガとの関係
カシナガの体や孔道からは複数種の酵母類も分離されている。これらの酵母類は、カシナガの消
化管からR. quercivoraよりも高い頻度で分離されることなどから、カシナガの餌としてR. quercivoraより重要ではないかと考えられている。一方、酵母類とR. quercivoraとの関係については、まだよく分かっていない。(引用終わり)

◆報告書②は10年前に出ているが,そこに載っている感染マップは,以下の図で,日本海側の地域に集中していたようです.

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10年後の今日では,関東地方でも今年の夏は,多くの「こなら」の樹木が感染しているのを目撃しました.全国に伝染拡大しているので心配です.なにか人間界のコロナ禍に似ているように感じます.

◆駆除方法

カシナガを駆除することは必要です.病気で枯れた木は,伐倒したり,立木のまま樹幹にドリルで穴を開けて,NCS剤を注入する方法がとられます.これにより穿入しているカシナガは死滅し,同時にナラ菌も死滅することが確かめられています.カシナガは樹幹だけでなく伐根にも穿入して繁殖するので,被害木を伐到した場合,必ず伐根の処理も行う必要があるそうです.

枯死木は林外に持ち出して薪などに利用したくなるかも知れないが,持ち出した材からカシナガが脱出すると被害地域を拡大させることになるという.なかなか面倒なことです.

私は,今年の夏,イチジクのカミキリムシ退治に少しの殺虫剤の注入をしました.駆除効果はあったのですが,日が経過しているとはいえ熟したイチジクを食べるのはちょっと心配でした.薬剤によるカシナガ駆除では環境への影響に十分注意が必要です.

レイチェル・カーソンの『沈黙の春』(1962年)は「ナラ枯れ病」に似た「ニレ枯れ病」対策に用いられたDDTを問題にしています.



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