住む人々が夢を描ける環境こそが、真に持続可能な都市づくりに必要 〜創造都市スクール:Unit8『文化政策を巡って─経済界から学ぶ創造都市』〜
今日の創造都市スクールの担当講師は杉崎栄介さん(公益財団法人 横浜市芸術文化振興財団)。
『文化政策を巡って─経済界から学ぶ創造都市』と言うタイトルで全4回の講義の初回。冒頭で、杉崎さんが紹介したのは、「調査季報163号・特集/創造都市横浜(2008年9月発行)」。
都市構想を立案する意義 創造都市横浜構想は未来社会の起点〜 北澤猛
横浜市の政策誌「調査季報163号」で北澤猛さんが書いていることは、都市というものが単なる建築物やインフラの集積ではなく、人々の夢と創造性が形となって現れる「文化の場」であるべきだ、という視点です。
北澤さんは、都市が抱える本質的な課題を、近代化の過程で失われつつある「夢」と「創造力」の問題として捉えています。つまり、都市は本来、経済活動だけでなく、人々の生活を豊かにし、心の充足感を生み出す場所であるべきであり、そこに住む人々が夢を描ける環境こそが、真に持続可能な都市づくりに必要だと考えています。
北澤さんは、横浜市は、これまでの都市計画で、都市の成長と地域の課題解決を目指しつつ、時代の要請に応じて柔軟に変化してきたと書いています。横浜市の歴史を振り返ると、工業化の波に乗って急速に成長した時期もあれば、公害や人口増加による都市問題が表面化し、市民が快適に生活できる環境を整えるために計画の見直しが図られてきました。特に1960年代の「六大事業」などの都市再生プロジェクトでは、工業都市からの脱却や、環境と経済の調和を図ることが強調され、人間中心の都市づくりが目指されました。
北澤さんは、こうした過去の都市構想を再評価しつつ、現代の横浜も市民の「夢」や「創造性」によって再生されるべきだと提案しています。
さらに北澤さんは、21世紀の都市づくりの方向性として、「成長」を追求することではなく、むしろ「縮小」や「地域独自の価値創造」が重要であるとしています。近年の都市は、グローバル化と経済の一元化が進み、画一的な開発が繰り返されてきましたが、その結果、人々が本来求める「安心感」や「豊かさ」が失われつつあります。北澤さんはこれを問題視し、都市を単に経済活動の場とせずに、地域文化や住民の生活と深く関わる「創造都市」として再評価する必要があると説いています。特に横浜市のように、港湾都市として多様な文化と歴史を持つ場所では、地域の独自性を活かした都市の再生が必要だと強調しています。
横浜市が新たな価値を創出し、「創造都市」としての再評価を行うことで、市民生活の質の向上と持続可能なコミュニティの形成に寄与することができる、と北澤さんは期待しています。都市は人々の生活の基盤であり、そこで生活する市民一人ひとりが自身の夢や創造力を発揮できるような環境を作り上げることが、これからの都市づくりにおいて極めて重要だとされています。
「夢」「創造性」を大切にするまちづくり、大切ですね。
都市は、住む人々の想像力と希望が育まれる場であるべきです。
横浜の未来に向けた創造都市政策には、この「市民が夢を描き、それを形にできる環境」を支える取り組みが必要不可欠です。市民が自己の生活環境に対して影響力を持ち、共に夢を共有し、育てていける都市は、人と地域がより強固に結びつき、都市全体の活力も持続していくでしょう。
特に、地域コミュニティが自発的に新しい価値を創出できるような場の提供や、文化と歴史を活かした政策の推進を経済というキーワードを入れて推進していくことがが求められていると感じます。プロセスを開き、参加型の仕組みや仕掛けを多様に取り入れていくことで、横浜は、住む人・働く人が誇りと愛着を持てる「創造都市」としてさらに発展していくことができるでしょう。
調査季報163号・特集/創造都市横浜(2008年9月発行)
目次
特集・創造都市横浜
《1》都市構想を立案する意義-創造都市横浜構想は未来社会の起点
北沢猛
《2》座談会-横浜の創造都市の新たな展開にむけて
佐々木雅幸
秋元雄史
川口良一
《3》横浜市の創造都市施策の実証と検証
1.開港150周年に向けた都心臨海部の再生について-ナショナルアートパーク構想の推進
村上一徳
2.「創造界隈」の形成はヨコハマを変えたか
永井由香
3.ヨコハマ流「映像都市文化」
鳥丸雅司
4.「横浜トリエンナーレ」が3回も続くわけ-横浜らしさとは何か
野田日文
齋藤淳一
5.創造の担い手育成
齋藤淳一
山下由実
《4》創造都市的空間をつくる-都市デザインから創造都市の流れ
綱河功
《5》「文化芸術振興」、「文化芸術創造都市」、そしてその先へ
小島寿也
《6》創造都市戦略による地域のイノベーションと情報発信の推進-経済振興施策としての「創造都市」
金子延康
《7》創造都市の現場から
1.BankART1929はどこにいく?
池田修
2.急な坂スタジオの実験と挑戦
相馬千秋
3.生態系としてのまちづくり-寿町での取り組み
岡部友彦
4.アーツコミッション・ヨコハマとは何か-現状と課題
杉崎栄介
《8》創造都市の新たな展開-旧特殊飲食店街初黄・日ノ出町地区の再生に向けて
鈴木伸治