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昨年夏を経て再びの夏目前の初夏からみたあの頃の夏

いつもの商用施設は同族の見知りが増えたので一旦回避しようと思い
気になっていた大学に向かう
食堂が一般解放されているのだ
しかし行ってみると想像より賑わっており
入りにくい
食事の匂いがしてやや不快だ
食堂なので当たり前で自分が異物のくせに
立ち止まると怪しまれるので
一度様子を見に建物内を通り過ぎて
席を見計らってから一周して
もう一度同じ道に突入する
やはり勇気がでずに諦めた
何人か座っていたおじさんたちさすがだ
向かいの大学図書館に入ろうとしたら
こちらは一般解放されていなかった
扉に入ろうとした瞬間にその張り紙が目に
入ったのではたからみたら
強力な磁石が体に埋め込まれていて
急激に反発した人みたい滑稽に見えただろう

やむを得ないので当初目的の美術館に行った休館日だった
仕方なく隣の図書館へ向かう
道すがら見覚えのある人物とすれ違う
ローカルタレントだと思い調べるがでない
あつくていらいらする
先輩が出てたテレビで名前をみた
調べると画像を見つける
つい最近まで吉本所属だったらしい
それでか

図書館に着くとやはり休館日だった
そらそうだよなと思った隣接した施設だし
部屋を出るときも思った
連休明けだしもしかしたら休館日かもと
むかしなら憤慨したかもしれない
「なんでやってねぇんだよふざけんな」
あるいは少し前なら落ち込んだかも
「どうしておれの時ばっかりこうなのか」
でもいまは違った
一度休みかもと予感しているので
心の準備ができている
怒りも落ち込みもしない
「あそうですか。まあそうですよね。」と
すまし顔ができる
予想したことならどんなに間抜けな状態でも自分の予感した未来が実現しているので
的外れの全能感が得られるようだ
だから大人たちはどんなに愚かでみじめでも
さも当然のように涼しい顔ができるのかと
思い知った
そして自分もすこしだけ大人の仲間入りを果たしたような気がした夏の日の正午

背の高い男の子と金髪の普通の子
信号待ちでなにか話をしている
青に変わると別れを告げて
男の子は横断歩道を渡らずに去っていった
女の子はブリーチの白い髪をにつかわしくない仕草でぺらっとたなびかせて渡りだす
なんだこいつと思いながらすれ違った
それから男の子を自転車で追い越した
男前に見える
黒で統一したファッションにサングラス
なんどか相手はするが
込み入った話になればそういうつもりではないときっぱり言えそうな冷たい目だった
この人は社会に出てもいろんな人を癒して
少しずつ傷つけていくのかもしれないと
思った

ヘルメットに軍手で折りたたみ自転車
ステッカーでTOYOTAって書いてある
おじいちゃんがバスの影から現れて
右折者の度肝を抜く
右手を挙げて礼をして
さっそうとはしりさった

いつもの駐輪場にやっとついた
ふだんなら五分で到着するところが
一時間もふらふらしていた
ここの職員の人はみんな挨拶をする
「こんにちは」とか「いってらっしゃい」とかあたりまえに言う
そんな感じが気に入っている
今日は「1階がほぼ満車だから2階にいった方が早いかもしれないわよ」とまで教えてくれた
確かにその通りだった
2階に上がるスロープの前にいる人も挨拶した
2階ですぐに空きを見つけて
降りていくと最初に教えてくれた人が
「駐輪券はもった?いってらっしゃい」というので「行ってきます」と返した

さっき職員の人が2階に行った方が良いと言い終わりかけたとき、余計なお世話かもと不安に思ったのか語尾が淀んだのを感じた。
礼をいいながら笑顔を向けると安心してくれた。
視線や仕草で人心を意のままに操るデミアン少年を思い出して、あの小説を読んだ時どうして泣いたんだっけと不思議な気持ちになってまた読み返したくなった。

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