尾道「LOG」修復事業に関する事例の公開 ~ コンバージョン建築におけるIPH工法の活用
2018年12月、尾道千光寺につながる坂道の途中に、ホテルやカフェギャラリーなどを有する複合施設「LOG」がオープンしました。築50年の集合住宅をコンバージョン(既存の建物を改修、用途変更すること。用途変更まで行わない改修はリノベーション)して生まれたLOG。観光客と地元の人が気軽に立ち寄れる、新たな地方創生の場として親しまれています。
このLOGプロジェクトで活用されたのが当社SGエンジニアリング株式会社が開発したIPH工法(Inside Pressure Hardening/樹脂注入による内圧充填接合補強)です。
プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000098948.html
LOG概要
IPH工法採用の背景
現在のLOG、かつて「新道アパート」と呼ばれた集合住宅が建造されたのは1963年。新婚カップルにとっては「憧れ」だったそうです。2017年、建造から50年以上経過した「新道アパート」の建物の診断を行ったところ、コンクリートに無数の穴が開いて劣化し、想定以上に危険な状態でした。
診断を行った建築事務所によれば、「IPH工法が無ければLOGは取り壊すしかなかった」とのことです。具体的には以下の状態でした
そんな難しい状況で採用されたのがIPH工法です。
IPH工法はコンクリート内部に存在する空気と注入樹脂を置換し、穿孔した穴の内部から放射状に樹脂を拡散することにより、末端の微細クラックまで充填することができます。鉄筋とコンクリートの付着強度を高め、経年劣化や災害で傷んだコンクリート構造体内部の耐力回復を実現します。
IPH工法は注入器、樹脂、シール材を主に使用するため、輸送性に優れる他、低騒音、低振動、粉塵の飛散を低減します。地元の工事会社と協力し、この難しい条件での施工を実現しました。
Is値(構造耐震指標)も補修工事後、
A棟1F0.45→0.71 2F0.55→0.80
B棟1F0.41→0.69 2F0.51→0.76に改善しています。
IPH工法で柱、梁の強度を回復させたうえで、耐震壁を増設したことにより、経年劣化したコンクリートでも耐震性能を満たすとされる0.6以上を確保しています。
今後の可能性
総務省によれば2018年時点の全国の空き家は846万戸。過去30年で2倍強に増加しています。総住宅数に占める空き家の割合は13.6%で、住宅7~8戸に1つは空き家です。空き家の56%は共同住宅です。今回取り上げたLOGのように「用途変更を伴うリノベーション」である「コンバージョン」を実施し、共同住宅から宿泊複合施設に用途変更が必要な物件も多いと考えられます。駅前などで立地が良い物件は共同住宅からオフィス、店舗に「コンバージョン」することも考えられます。その際、コンクリート構造物の経年劣化が問題になったときにIPH工法が役立つことでしょう。
尾道のような急峻地のほか、重機や大型車両が入れない都市部の密集地域のリノベーションでは優位性を発揮するのではと当社では考えています。
当社は、コンクリート構造物のリノベーション、コンバージョンに取り組む総合建設会社、設計会社、不動産会社、宿泊施設運営会社、金融機関に向け、IPH工法の普及を強化しています。