「新しいみどりのデザイン」はじまります!SOCIAL GREEN DESIGN 座談会に参加してきた
「みどりのデザイン」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?
みどりといえば、庭の花壇や、街路樹など、普段何気ないところに存在します。それをより良く使って、地域課題の改善や持続可能な暮らしに役立てるのが「みどりのデザイン」です。
この記事でご紹介するのは、「SOCIAL GREEN DESIGN」という新しい取り組み。今回、仕掛け人3人が集まる座談会に参加してきました。「みどりのデザイン」を学んだことがない方でもわかりやすいような形で、その時の様子をレポートします。
自己紹介が遅れましたが、SOCIAL GREEN DESIGNのライターを務めている稲村行真(いなむらゆきまさ)と言います。
私は昔から環境問題やエコというキーワードに関心があり、大量生産・大量消費が進む中で、「社会が持続可能な暮らしを実現するにはどうしたらいいんだろう?」という疑問がありました。ライターをしながらも、東京都日野市で地域の空き家活用に携わった経験もあります。
このSOCIAL GREEN DESIGNの取り組みが始まるのを知ったのはつい最近の話。大学時代からお世話になっているランドスケープデザイナーで株式会社フォルクの三島由樹さんから、「こんなプロジェクトを始めるよ」と教えてもらいました。
今回、三島さん含め仕掛け人3人で、SOCIAL GREEN DESIGNに関する座談会を開催するとのこと。写真は右から発起人の小松正幸さん、三島由樹さん、神木直哉さん。さて、これから何が始まるのでしょうか?
座談会会場・(株)ユニマットリックのオフィスへGO!
銀座線の外苑前駅。久しぶりの都会で緊張します。座談会が行われるユニマットリックのオフィスは、ここから徒歩で5分ほどです。
ユニマットリックのオフィスに到着。みどり豊かで爽やかなオフィスですね。
まずは、SOCIAL GREEN DESIGN 仕掛け人の2人目・クリエイティブディレクターの神木直哉さん(写真左)にご挨拶。
神木さんは現在、KAMI KIKAKUという屋号で、みどりに関するプロデュースのお仕事をされています。座談会前に、早くも三島さんと熱い議論が始まりました。
その後、SOCIAL GREEN DESIGN 仕掛け人の3人目・ユニマットリックの小松正幸さんも登場(写真左)。
小松さんは、エクステリアデザイン(※)やガーデンの領域で挑戦を続ける、ユニマットリックの社長さんです。
小松さん:このソファ、(多少は)ワインをこぼしてもしみないんですよ!
三島さん:ええ!それはこぼしてみたい。
小松さん:それはもしかしたら、お買い上げになっちゃうかもしれないですよ?笑
そんなやりとりがありながらも席の並びが決まり、いよいよ座談会開始です。
(※)屋外にある門扉、塀、車庫、庭、ウッドデッキ、植栽などの敷地内の外部空間のデザインのことで、インテリアの対義語。
SOCIAL GREEN DESIGNを始めるに至った経緯
ーーSOCIAL GREEN DESIGNを始めた経緯を聞かせてください。
小松さん:そうですね。私たちの会社は、エクステリア・ガーデン業界で創業から約30年間業界の向上を目指してきました。当時のエクステリア業界は「職人と物の世界」、金物の門扉・フェンスなどそれまで鉄工所で作ってきたものを規格化し、安全に施工できるように基準を作って広がってきた業界だったのですが、デザインの概念がありませんでした。
だから、良いものが作れる人はいたけど設計図はほとんど無く、施主は完成して初めて理解できるような業界だったのです。私達は施工の競争からデザインの競争の時代を作ろうということで、CADを啓蒙しながら今はおかげさまで全国7000社までユーザーが広がってきました。そして造園と建築の狭間にある「エクステリア」を体系化したE&Gアカデミーという学校も22年間運営してきました。これまでは住宅産業に特化してきたし、新築需要に乗っかっていたので、まちづくりなど社会的なことに関わることはありませんでした。
しかし、今では人口減少、世帯減で、空き家は全国で約840万戸。もうすぐ3軒に1軒が空き家の時代に、もう作り続けることに価値があるわけではなく、今あるものを再発見しながら環境を再生する産業にしていくことが必要。そう気づいてから、「人にみどりを、まちに彩りを。」という企業理念を掲げました。そんな時に、神木さんにお会いして意気投合して、一緒にみどりに関するデザインムーブメントを起こそうとなったのがスタートでした。
小松さん:神木さんは元々、東洋エクステリアというスチールや金物を扱うトップシェアメーカーにお勤めで、15年くらい前に出会いました。2016年くらいに久々に挨拶に来てくれて、前はメーカーでモノを売る仕事をされていたんだけど、みどりに関する企画プロデューサーをされていてびっくりしました。こんなことができる人がいるんだ!と。
ーー神木さんが小松さんに出会うまでの経緯も教えてください。
神木さん:メーカーに勤めていた時のことです。取引先に2500ページくらいのカタログを持って行って、君がやっているのは押し売りだよと言われたことが転機となりました。今までやってきたことに疑問が生じて、2003年に辞表を出して11年のメーカー勤務をやめました。何かやりたいことの手段がみどりでなくてはいけません。それで東邦レオという会社に入ったのです。みどりがあることで人が笑顔になることをしたいと思いました。
東急プラザ銀座の芝生の上で映画上映をした時。家族で来られていた方がいて、娘さんが、今日ディズニーランドに行くよりここ来てよかったと言ってくれたのです。銀座で人工芝を引いて裸足で歩きまわるなんて普通はできません。映画は要素の1つかもしれないけど、一番の要素はみどりでした。
僕らの業界ってスーパーゼネコンの下に入って、受注して仕事をして終わりの仕事が多くて、みどりを使って空間や時間を演出して20年でも30年でも勝負できる若い人材を作っていかないとこの業界は難しいなと感じました。背中で学ぶだけではなく、ちゃんと伝えて間を僕らが繋いでいかないといけません。だから、今回のプロジェクトが必要だと思ったのです。
神木さんは小松さんと出会い、「人にみどりを、まちに彩りを。」というミッションステートメントを掲げたことを斬新に感じて、意気投合。それからアイデアのブレストを始めたとのこと。自分たちが目指している仕事を実践している人はいないかと探してみたところ、三島さんだということで神木さんが声をかけ、3人で会うことになったそうです。
事業者としての小松さん、人を巻き込んでプロジェクトを形にしていく神木さん、実践者としての三島さん。まるでバンドができていく話のようです。
ーー三島さんはお2人とどのような経緯で出会ったのですか?
三島さん:ランドスケープデザインの仕事をしていて、神木さんとは知人の繋がりで出会い、その神木さんの紹介でユニマットリックの小松さんにも出会いました。最初ユニマットリックに行った時は、結構大きな会社だと伺っていたので、小さな仕事を積み重ねてきた自分は滑る予感しかしなかったです。でも、ランドスケープデザインは社会のイノベーションであるという話をしたら、小松さんはすごく共感してくれました。
今回、神木さんと小松さんとの出会いを通じて、自分が社会に対してやりたかった仕事ができそうな予感がしました。そして、お2人と一緒に、新しいプロジェクトを立ち上げることになり、2020年の年始に「SOCIAL GREEN DESIGN」という言葉を考えました。
ーー今までで似ている取り組みはあったのでしょうか?
三島さん:コミュニティデザインという考え方(※)はありました。コミュニティデザインと違うところは、取り組みの対象が社会の構成要員としてのコミュニティではなく、コミュニティを内包する社会そのものにアプローチしていくという点です。日本にはコミュニティデザインの事例はたくさんあるけど、社会にアプローチしていくプロジェクトも必要だと思っていました。ユニマットリックさんとやるのであれば、みどりの業界という大きな対象が持つ課題にアプローチできるかもしれないと感じていました。
※地域の人達が自ら地域の課題を発見し解決できるよう、場づくりやしくみをデザインの力で支援することです。(東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科 noteより)
今回の「SOCIAL GREEN TALK」と「FIELD PROJECT」をなぜ企画したのか?
神木さん:文字ロゴができた年明けにはまだ企画は固まっていませんでした。僕がやりたかったのは、ポートランドのように荒廃した町を変え、小さなリノベーション含め、価値を変えていくような仕事です。それなら、人づくりから始めようということになりました。今までのようにゼネコンが設計するみどりとは違って一緒にお客さんや住民、ユーザーとともに考えてワークショップを行い、みんなで作っていくことをしたいです。
プロの人と勉強しながらやっていくことが必要ということで考えたのが、学びのプラットフォーム(SOCIAL GREEN TALK)と実践志向型のワークショップ(FIELD PROJECT)でした。
三島さん:SOCIAL GREEN DESIGNの考え方が出来上がっているわけではないから、もっといろんな人と意見交換していくために今回企画したのがSOCIAL GREEN TALKです。庭師、研究者、子どもの遊び場について研究や実践をされている方など、普通では集まらない異分野同士の方々をお呼びして、今どんなみどりが社会にとって必要かを対話の中で深掘りしていきたいと思っています。
▼SOCIAL GREEN TALKのスケジュールと内容(参加無料)
SOCIAL GREEN DESIGNの実践のあり方について考えるプログラムがFIELD PROJECTです。全国から参加者を募集し、参加者が企画を考えSOCIAL GREEN DESIGNを実践していくプラットフォームを作ります。まずは今回、定員6名で募集しました。みどりに関する仕事や取り組みに対して、課題意識を持っている人に届けばいいなと考えていました。
募集を開始したところ実際に、SOCIAL GREEN DESIGNの考え方に共感してくれた庭師、デザイナーなど、様々な専門性を持つ人がたくさん応募してくれました。こんな人におすすめと書いたところ、「これ自分のことじゃんと思った」と思ってくれた人もいて、嬉しかったです。
神木さん:目的はみんな違うんだけど、次世代のためにムーブメントが起こせたらいいよねっていうのはみんな思っていることですね。
今後の取り組みについて
ーー今後、長期的な展開はどうお考えですか?
神木さん:業界では真ん中に施主がいて、大工と庭師が対等だった。でも、今ではみどりが後付けというレベル感になってしまっています。一番心がけているのは、あるべき姿を考えること。みんなこうなったらいいよねというのは幻想だと思っていることが多いです。みんなで全方位にいい流れを作る手段として、みどりがあっても良いのではないでしょうか。一番伝えたいのは、皆さんにとってめちゃくちゃ可能性があるということ。ぜひ、一緒にやっていきましょう!
三島さん:目指していきたいのは、綺麗なみどりを作るということではなくて、暮らしの中にみどりを活かす術や制度について考え、実践し続けることです。みどりについては、今までのような提供者と消費者の関係ではなく、全員が少しずつでも提供者となっていけるような、みどりに対する知識や経験を得られる機会を作っていきたいです。
小松さん:地域はいろんな課題があります。少子高齢化、過疎化、限界集落、シャッター街、インフラ、高齢化...。世界中が経験したことのない課題を日本はたくさん抱えています。世界幸福度調査「World Happiness Report2020」によれば、日本は世界62位。こんなにいい国なのに、幸せと思っている人が少ないのは寂しいです。SOCIAL GREEN DESIGNによって、この何百何千もの課題を解決して、緑の関係人口を増やしたいです。
ーー次の動きとしては、SOCIAL GREEN TALKが11月24日から。12月5日からはFIELD PROJECTも始まります。これからの展開が本当に楽しみです。
\SOCIAL GREEN TALK、申し込み受付中!(無料)/
11月24日のゲストは、一般社団法人ソトノバの泉山 塁威(いずみやま るい)さんです。「人がつくり・育てる グリーン・ネイバーフッド」というテーマで議論を行います。
▼申し込みはこちら
SOCIAL GREEN DESIGN 仕掛け人のプロフィール
小松正幸(こまつ まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長 / NPO法人ガーデンを考える会理事 / NPO法人 渋谷・青山景観整備機構理事 / 1級造園施工管理技士
ユニマットリックおよびE&Gアカデミー(エクステリアデザイナー育成の専門校)代表。「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデンにおける課題解決を目指している。
三島由樹(みしま よしき)
株式会社フォルク 代表取締役 / ランドスケープ・デザイナー
1979年 東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。ハーバード大学大学院デザインスクール・ランドスケープアーキテクチャー学科修了(MLA)。マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教の職を経て、2015年 株式会社フォルクを設立。 芝浦工業大学、千葉大学、東京大学、日本女子大学、早稲田大学非常勤講師。Tokyo Street Garden 共同代表。八王子市まちづくりアドバイザー。加賀市緑の基本計画策定委員。白山市SDGs未来都市推進アドバイザー。IFLA Japan委員メンバー。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)
神木直哉(かみき なおや)
KAMIKIKAKU代表
目的:人と人を繋げて新しい価値ある空間と時間の『間』を提供するユニットです。
強み:30社以上に及ぶネットワークと実現を可能にするディレクションチームをプロデュースします。
◎筆者・稲村行真による編集後記
今はモノを作って終わりの時代ではない。その先の持続可能で豊かな暮らしを考えることに価値がある。このことを強く再確認できた座談会だった。僕にはみどりを使って、地域の暮らしや社会を変えるという発想はなかった。みどりは自然と住環境に溶け込む影の立役者のような存在で、あえて注目することはなかったのだ。
でも今、改めてみどりを見つめ直せたことで、新しい可能性が広がっていくことにワクワクした。SOCIAL GREEN DESIGNは既存の枠組みで語られてこなかった地域への関わり方を提示しているように思う。