<第2回 FIELD PROJECT>新しいみどりの企画・デザインをする
多分野・7名の参加者が集まり、自分の身の回りにあるみどりの活かし方を考えるべく、創造性あふれるディスカッションが行われる本プロジェクト。NPO, 民間企業, 個人と様々な立場から繰り広げられる議論は視野をグッと広げ、未来のみどりの可能性を感じさせます。第2回を経て個人の活動プランにどのような進展があったのでしょうか。
2021年1月9日、FIELD PROJECT(※)の第2回を開催しました。前回、お休みされていた宮崎さん含め、7名が参加。「新しいみどりの企画・デザインをする」というテーマでワーキングとディスカッションが行われました。緊急事態宣言下ではありますが、十分に参加者間のディスタンスを取り、席上に透明な壁を設けるなどして粛々と開催。その模様を振り返ります。
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※FIELD PROJECTとは?
参加者一人ひとりがSOCIAL GREEN DESIGN のプロジェクトをそれぞれのフィールド(場所)で企画し、実践していくために行う、実践志向型のワークショップです。2020年12月から2021年3月まで、毎月・全4回の開催を予定しています。
▼SOCIAL GREEN DESIGN、及びFIELD PROJECTの詳細は下記ホームページやnoteの記事をご覧ください。
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当日は以下のような流れで進められました。
当日の流れ
13:30-14:00 開場
14:00-14:20 イントロダクション
14:20-15:05 宿題の共有:(5分発表)
15:05-15:35 レクチャーとディスカッション
- Case Study 下北線路街園藝部 -
15:35-15:45 休憩・会場レイアウト変更
15:45-15:55 ワーキングの説明
15:55-17:50 ワーキング(プロジェクトの深掘り)
17:50-18:00 次回案内・アンケート記入
18:00-19:00 フリーディスカッション
まずは会を始めるにあたり、イントロダクションとして、SOCIAL GREEN DESIGN コーディネーターの三島さん(株式会社フォルク)が、企画づくりのコツについてお話されました。
三島さん:せっかくのワークショップなので、他者の視点で企画を考えていただけたらと思います。特に、想定していなかった他者との新しい繋がりについて考えながら、企画を膨らませていきましょう。また、大きな企画と小さな企画という考え方があります。大きな企画はプロジェクトの規模の話ではなく、プロジェクトのコンセプトや全体像、事業計画の話。対して、後者はイベントや組織、場所作りなどの実践する段階の話です。また、このプロジェクトを誰とやるのかという具体的なプレイヤーや繋がりを意識することが重要です。これらを考えることで、より実効性のあるプロジェクトになります。
宿題の共有
次は前回の宿題を共有する時間です。参加者(7名6グループ)は、以下の4つのポイントに注意して、それぞれが今後取り組みたい企画を考えるという宿題に取り組みました。
①8つの視点(※)を踏まえ企画を作成する
②自分がやりたい企画にする。
③社会や他者に望まれてそうな企画にする。
④発表時間は1人あたり5分。
(※)第1回のFIELD PROJECTで教わった企画を考える上での「8つの視点」
1.地域性:その地域らしいこと
2.汎用性:誰もが真似できること
3.還元性:何かのためになること
4.開放性:誰もが参加できること
5.伝承性:伝えること
6.依存性:誰かの協力によって成立すること
7.持続性:長続きさせる
8.共感性:誰かとともに何かを作る
それでは、参加者それぞれがどのような企画を考えたのか。発表の内容に沿って、一部をご紹介します。
山中真之さん(東京都・平和不動産株式会社)
:東京の日本橋兜町などでビルの屋上を活用した都市菜園を考えています。オフィス街であるここで野菜を栽培し、近隣の店舗と連携して(「農場から食卓へ」を意味する)Farm to Tableを実現したいです。また、小学校などと連携して食育を目的にしたキッズファームも行いたいです。顧客であるオフィステナントの方々に栽培機会を提供するのも良いかもしれません。また、植木市の復活や、江戸東京野菜の栽培といった歴史とのつながりを意識した企画も考えています。
冨田ちなみさん(兵庫県・ Gokansha)
:兵庫県西宮市の住宅地にある間口3m奥行き14mくらいのスペースを子供や子育て中の親御さんに解放しようと考えています。地域の在来植物を一緒に植えたり、その中でお気に入りの植物を見つけて育てたり、果実やハーブを収穫できたりする場所にしたいです。オープンガーデンや壁画作りなどの参加型の取り組みを通じて、場所を知ってもらう工夫もしていきたいと考えています。
道場美恵さん・宮崎敬子さん(石川県)
道場さん:今回は、義理のいとこ同士での参加です。
宮崎さん:(宮崎さんは初めてご参加なので自己紹介)現在、石川には住んでおらず、東京に住んでいます。石川県加賀市で今回活用を考えている(道場さんの)ガレージは、自分にとって訪れる場所でした。最近は訪れる人用のトイレを設置したことで、安心して長い時間滞在ができるようになりました。山中漆器が有名であるという地域性を生かして、庭の一角に漆を植えたいです。あとは、地元の漆器で地元の野菜を食べて欲しいです。
道場さん:地元と世界を繋ぐ図書館にもしたいですし、農薬やタネの問題に関する映画の上映会を行うことも考えています。
茂木和枝さん(東京都・一般財団法人・世田谷トラストまちづくり)
:担当している市民緑地のみどりを有効に活用していきたいです。「こもれびの庭市民緑地」で、センリョウの剪定枝を活用してお正月のスワッグを作るとか、将来、樹間の狭いヒマラヤスギを伐採することがどうしても必要になった場合、伐採木でベンチを作るなどの企画を考えています。ヒマラヤスギの企画は10年単位の長い目で考える必要がありますが、スワッグ作りは町の人と関わり合いながら継続性のある企画になると思います。
中村直樹さん(京都府・造園中村や)
:最終的には、2つの企画に行き着きました。まずは伝承性という意味で嵐電沿線古典文学植物誌を作ることを考えました。徒然草や源氏物語に出てくるフジバカマに注目したら面白い視点が生まれそうです。また、持続性という意味ではアサギマダラが飛んでくる街を作れたらと感じました。最終的には、地域の中にフジバカマが当たり前に咲いていて、秋にはアサギマダラが飛んでくるような環境を思い描いています。
山本朗弘さん(東京都・株式会社ウチダシステムズ)
:地域とつながりが少なくてもったいない福祉施設の外構を、みどりを軸として活用することで、より良いものに変えられるかもしれないと思い企画を考えました。日常の中にある野遊びを楽しんだり、近隣の小中学校と連携して陶芸・園芸・福祉を組み込んだ学びを提供できるかもしれません。高齢者になった障がい利用者さんがこれに加われるのか、そして職員さんの負担をどうするかについて考えねばなりません。
下北線路街園藝部のケーススタディ
次に、株式会社フォルクの川崎さんから、自分たちが取り組んでいる下北沢の仕事の事例紹介が行われました。小田急沿線の一部を「下北線路街」として整備し、「下北線路街園藝部」というコミュニティを立ち上げ、緑の維持管理や園藝にまつわるイベント、研究、企画づくりなどを行なっているそうです。
それでは、どのような発表が行われたのかを振り返っていきましょう。
川崎さん:プロジェクトの始まりは、小田急線の一部が地中化したこと。その跡地で「支援型開発」をしようということで、街自体を変えるのではなく地域の人のやりたいことを支援する考え方で行なっています。小田急電鉄の課題としては、みどりを誰がどうやって管理するのかという点でした。街の緑を見ると、あまり手入れされていないものも多いです。そこで、園芸から園藝へということで、既成の花壇ではなく街を変えていくコミュニティを作りたいと考えました。
川崎さん:私は大学院時代に、南米のエクアドルの建築事務所で働いたことがあります。そこで、建物を自分たちで簡単に作れる地元民の生きる力を目の当たりにしました。その精神が日本には薄れつつあるようにも思えます。つまり、街もみどりをコミュニティによって創造的に管理することで「園藝」をアップデートして、生きる力を高めたいのです。下北沢は住民自治の力が強く、古着や音楽などの独自の文化があります。いろんな人がコミュニティに関わり、園藝を深めて発信していくことで、新しい繋がりが街にできます。
川崎さん:実際にやっていたのは、まず、コミュニティを作る準備のためのワークショップです。「園藝探検隊」と題して、古い植木鉢をアップサイクルするなど大人も子供も学べる企画を実施しました。それから、園藝部のコミュニティメンバーも募り始めました。それぞれのメンバーが得意なことを生かせる場として、月一回の「園藝部DAY」を開催。剪定を教えてもらうとか、ミミズコンポストの製作をするとか、花のリース作りのワークショップをするとか、園藝の探求と発信に力を入れています。
川崎さんはこの活動を通じて、園藝部への参加の動機は様々だということに気づいたそうです。例えば、「自分のデザインスキルを活かしたい」、「大好きな下北沢の街に貢献したい」、「仕事では得られない学びが得たい」などの声が挙がったのだとか。参加者同士の需要と供給がうまくマッチすれば、そこに関わる余地が生まれます。そして、このような人々が増えることで、みどりを管理することができ、小田急電鉄のニーズにも応えることができるというわけです。この下北園藝部の取り組みは、FIELD PROJECTの参加者にとっても非常に参考になる事例だったことでしょう。
※ 川崎さんが発表の最後にお話されていた企画を考えるコツ
①己から湧き出るエネルギーは何かを見つめ直す。
②地域に潜在するポテンシャルを見つめる。
③企画の名前やビジュアルに魅力があるかを考える。
FIELD PROJECTの参加者からの質問
山本さん:どうしたらコミュニティに魅力的な人が集まってくるのですか?
川崎さん:ポップでライトな(気軽に参加しやすい)企画から始めて、徐々に真面目なものになっていくというプロセスが重要だと思います。あとは、チラシをたくさん貼ることも大事です。
道場さん:園藝部に年会費はありますか?
川崎さん:年会費は3000円で、案内しています。何回か来てもらってから、年会費をいただくことが多いです。
中村さん:下北園藝部の活動は、小田急電鉄に提案して進めたのですか?
川崎さん:小田急沿線のみどりの管理を考えたいということをおっしゃっていたので、コミュニティを作りませんかということで提案しました。始めのワークショップが開催できたのは予算を取っていただいたからです。
FIELD PROJECTの参加者と運営者を交えたグループワーク
その後は、グループワークの時間へと移りました。FIELD PROJECTの参加者と運営者が混ざって2つのグループに分かれ、参加者各々の企画に対して意見を言い合うディスカッションを開始。どうしたら企画に参加したくなるのかを当事者目線で考える時間となりました。
参加者一人当たり35分の時間が設けられ、5分で企画の再確認と、30分でディスカッションという流れで実施。運営側の川崎さんと金田さんがそのディスカッションの模様をグラレコ(グラッフィクレコーディング)の形で模造紙に記録しました。それでは、ディスカッションの一部を振り返ってみましょう。
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山中真之さん(東京都・平和不動産株式会社)は、東京の日本橋兜町などでビルの屋上を活用した都市菜園を作る構想を練っておられます。参加者からは道場さん、宮崎さん、冨田さん。運営からは金田さん、伴野さんがディスカッションに加わりました。
道場さん:ビルのテナントにとっては、身近に自分では作れない地域の野菜が手に入るということが魅力的ですよね。
山中さん:それが地域への愛着に繋がったらいいなと感じています。この街をあえて選んでもらうという理由にもなればと思いました。
宮崎さん:他の地域でそういうことをされている事例はありますか?
山中さん:最近は増えています。ただ、テナントと連携しつつ街と地域の関係性を作るハブとして、ビルの屋上を活用しようと考えているところは少ないです。
冨田さん:ビルの屋上だと地上からは見えないと思いますが、どうお考えですか。
山中さん:都市において食べるものはセキュリティ面とか衛生面とかいろんなことが関わってくるので、道路に面した地上に食べ物の成る植物を植えるのが難しいです。それを考慮すると屋上という選択にもなってきます。
宮崎さん:虫が出るから無断で農薬をかけちゃうという事例は地方でもあるようです。そういう意味でも、ビルの屋上というのは管理しやすそうです。
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一方で、中村直樹さん(京都府・造園中村や)は京都でフジバカマが咲き、アサギマダラが飛んでくるという町の未来を想い描いています。フジバカマの本物を持ってきて、その香りを皆さんにシェアしてくださいました。参加者からは山本さん、茂木さん。運営からは、三木さん、川崎さんがディスカッションに加わりました。
中村さん:京都でアサギマダラという蝶が飛んでくる町をつくりたいです。
茂木さん:アサギマダラがいるということは、その幼虫である毛虫もいるということですよね。
中村さん:台湾の辺りでサナギを作って、蝶の姿になってから風などに乗って京都まで来るのです。
茂木さん:幼虫がたくさんいると虫が苦手な人が出てくるのが心配でしたが、蝶の状態で京都に来るのですね。
山本さん:それでは、フジバカマは蝶を呼ぶ植物なのですね。そのストーリーを知ったら、ますます引き込まれます。
三木さん:この地域の人が皆フジバカマ(という絶滅寸前の種)のことを知ってもらうことが大事で、次の世代を担う子供にもぜひ伝えられたら良いかも知れません。(徒然草や源氏物語などの)古典に出てくるフジバカマのお話をされていましたが、古典の授業がフィールドワークになったら絶対に楽しくなると思います。
中村さん:確かに、そういう歴史についても学んで欲しいと思います。
山本さん:中村さんの成功イメージとしてはどんなシーンを思い浮かべていらっしゃるのでしょうか?
中村さん:昔を再現したいのとも違うでしょうが、フジバカマのような植物がもっと身近になったら良いということかも知れません。
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さて、素晴らしいディスカッションの全てをここで共有できませんが、金田さんと川崎さんが作ってくれたディスカッションのグラレコをこちらで共有します。
金田さん(運営・株式会社フォルク)のグラレコ
川崎さん(運営・株式会社フォルク)のグラレコ
今回のグループワークを通して、自分の考えた企画が他者にどう見えるかを知れた良い機会だったのではと思います。この後は、コーディネーターの三島さん(株式会社フォルク)から、次回の宿題の連絡が行われました。
宿題の連絡と本日のまとめ
三島さん:企画のプレゼンテーションのラフを作り、その中で、「どんなコミュニティを作りたいのか」や、「どんな人を巻き込んでいきたいのか」という発信の部分を考えてきていただけたらと思います。また、プロジェクトのタイトルや、発信の媒体、その方法まで具体的に考えてきてください。また、個別相談も今後行なっていきますので、ご都合の良い日程をおしらせください。・・・それでは、本日もご参加いただき、ありがとうございました。次回、第3回のFIELD PROJECTは2月6日(土)に開催予定です。
それからフリーディスカッションということで、三密に気をつけながら、飲食なしの参加者や運営者を交えた交流会を開催。今回も様々な意見が飛び交い学びのある充実したFIELD PROJECTとなりました。
▼今後のFIELD PROJECTの予定はこちら
▼第1回 FIELD PROJECTはこちら
▼SOCIAL GREEN DESIGNの詳細はこちら
▼FIELD PROJECTの運営を担当されている株式会社フォルクの詳細はこちら。
▼FIELD PROJECTの会場を提供いただいている東京日本橋のE&Gアカデミー(運営:株式会社ユニマットリック)についてはこちら。
(執筆 稲村行真)